GX・DX時代の製造業 〜競争を左右する「実装人材」の育成へ〜

THAIBIZ No.174 2026年6月発行

THAIBIZ No.174 2026年6月発行日タイで磨く開発力!三菱ケミカルの環境素材革命

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GX・DX時代の製造業 〜競争を左右する「実装人材」の育成へ〜

公開日 2026.06.10 Sponsored

タイの製造業では、労働人口の減少や事業環境の変化を背景に、データ活用や省エネ、自動化への対応が急務となっている。また、温室効果ガス(GHG)排出量に関する対応も根強く求められ、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みは企業単体ではなくサプライチェーン全体へ広がりつつある。一方で、現場では「実装できる人材がいない」といった声も少なくない。

こうした課題を受け、日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)はASEAN域内でGXおよびDXの担い手を育成する研修プログラムを支援している。EECオートメーションパーク(EECap)が三菱電機ファクトリーオートメーションタイランドと共同で開発・提供する実践型研修もその一つであり、昨年は約200名が参加するなど関心を集めた。今回は同プログラムに関わる三者に、現場で求められる人材像と、企業が踏み出すべき第一歩について聞いた。

※タイ政府(東部経済回廊(EEC)事務局)、ブラパー大学、三菱電機ファクトリーオートメーションタイランドの3者が連携し2020年に設立した、産業用ロボットや工場自動化技術に関する人材育成・技術移転の拠点。チョンブリー県ブラパー大学工学部内に所在する。

Interviewee’s Profile

田村 真善 氏
日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)事務局代表
兼 海外産業⼈材育成協会(AOTS)バンコク事務所⻑

GX・DXの担い手となる人材育成の支援を通じ、日本とASEANの産業競争力の向上と持続的発展に向けた取り組みを推進。


チャイヤスィット・カムトーンキッティクン 氏
三菱電機ファクトリーオートメーションタイランド
ファクトリーオートメーションセンター部門長

東京大学大学院で電気電子工学の博士号を取得。東芝、オリンパスを経て、2017年より現職。タイ製造業の自動化・高度化に取り組む。


パイブーン・リムピティパーニット 氏
EECAP 所長 兼 ブラパー大学工学部機械工学科 学科長

チェンマイ大学で機械工学博士号を取得。2000年よりブラパー大学で教育・研究に従事し、産学連携による製造業人材の育成や自動化分野の教育プログラム開発を推進。EEC地域を中心に人材高度化に取り組む。

足りないのは「実装できる人材」

Q. タイ製造業における人材不足の背景は

田村氏:タイの労働市場は極めてひっ迫しています。タイ国家統計局(NSO)のデータでは、2025年第4四半期の失業率は0.7%と、日本の2〜3%と比較しても非常に低い水準にあり、ほぼ完全雇用に近い状況です。需要と供給がほぼ1対1の状態で、企業が新たに人材を採用しようとしても、対象者が極めて限られてしまう構造になっています。また、中長期的には少子高齢化の進展により生産年齢人口の減少が継続する見込みで、需給ギャップの深刻化も予想されます。

さらに、課題は人数だけではありません。人工知能(AI)やデジタル、次世代自動車などのハイテク分野が拡大する中で、新たな業務プロセスへの理解やコミュニケーション能力といったスキル面の高度化も求められており、人材確保は量と質の両面で難しい局面にあります。

Q. 製造現場ではどのような人材が不足しているか

チャイヤスィット氏:デジタル化やシステム導入を「実際に動かす」人材です。工場のスタッフや顧客と話をすると、「データを活用したい」「分析したい」といったアイデア自体はすでにあります。しかし、いざ実行段階になると、プログラミングやシステムの実装を担う人材が不足しており、実現できないケースが多く見られます。その結果、多くの企業が外部のシステムインテグレーターに依存せざるを得ない状況にありますが、その外部側の人材も十分ではありません。実際、顧客から「人が足りないので時間がほしい」と言われるケースもあります。

Q. 教育機関はこの問題をどう捉えているか

パイブーン氏:これまで教育機関は、卒業後すぐに現場で実装できる人材を十分に育成できていませんでした。知識はあっても、実際の業務に落とし込めないという課題がありました。そのためブラパー大学では現在、6ヶ月から1年におよぶ長期インターンシップを導入し、実際の工場で経験を積ませることで「Ready to Work」の人材育成へとシフトしています。

現場で求められるスキルが変わった

Q. 現場で求められる役割はどのように変化しているか

チャイヤスィット氏:これまでタイの製造現場で求められるスキルは、海外から導入した設備や機械を安定的に稼働させるためのメンテナンスが主でした。一方で、DXの進展により、経営側の期待は大きく変わっています。単に機械を維持するだけでなく、「今、現場で何が起きているのか」「生産性はどうなっているのか」といった、設備の中にあるデータを引き出し、分析し、改善につなげることが求められるようになっています。従来とはまったく異なるスキルセットが必要になっているのです。

Q. なぜ従来型の育成では追いつかないのか

チャイヤスィット氏:これまで機械のメンテナンスを担っていた人材に対して、データ分析やプログラミングといった新しい役割を求めるのは簡単ではありません。適性の問題もありますし、習得にも時間がかかります。さらに、仮に外部から高度な人材を採用できたとしても、技術の進化が速く、継続的に人材を確保し続けるのは現実的ではありません。

DXは自社だけでは進まない

Q. なぜDXはサプライチェーン全体で考える必要があるのか

田村氏:サプライチェーンとひと言で言っても、OEMを筆頭にTier1、Tier2、Tier3と、多様な企業が連動して成り立つ非常に複雑な構造です。その中でDXを進める上では、特定の一社での取り組みの成功にとどまらず、各レイヤーにどう浸透させていくかという視点が不可欠になります。

そもそもDXが求められる背景には、エンドユーザーやOEMからの要請があります。価格の低減、品質の向上、供給量の拡大といった相次ぐ要求に対し、一社だけで対応するのは負荷が大きく、持続的ではありません。そのため、サプライチェーン全体で最適化を図っていく必要があります。

Q. Tier2・Tier3企業が直面している壁は

パイブーン氏:大きな課題は「人材」と「投資」、そして「時間」です。Tier2やTier3の企業ではエンジニア層が薄く、技能工が中心であるケースが多いため、DXに必要な知識や理解が追いついていない場合があります。そのため、データを収集・活用する前段階でつまずいてしまうことも少なくありません。

また、DXを進めるには一定の投資が必要ですが、中小企業にとってはPoC(概念実証)を行うだけでも負担が大きくなります。そのため、「投資したら本当に効果が出るのか」という見通しが重要になります。最近ではシミュレーションやデジタルツインなどの技術を活用し、事前に投資対効果を検証できるようになってきていますが、それでもハードルは高いのが実情です。

大切なのは、いきなり高度なDXを目指すのではなく、まずはリーン(無駄取り)や改善の考え方を徹底し、その上で必要なデータを“正しく”収集し、可視化することです。

AMEICCが重視する「質」

Q. AMEICCが行う支援の特徴は

田村氏:GXやDXといった新しい領域では、各社が十分な専門人材を有していないケースも多く、従来のように本社から専門家を派遣して指導する「自社完結型」の研修では限界があります。さらに、サプライチェーン全体で人材育成を進めようとすると、膨大なリソースが必要になります。

そこでAMEICCでは、複数の企業が参加するパブリックトレーニング形式を通じて、効率的に人材育成を進める仕組みを採用しています。そのなかで特に重視しているのが、研修の「質」です。タイを含むASEAN各国で開講される研修の中から、すでに標準化・商用化され、通常であれば対価を伴う水準のプログラムを対象とすることで、質を担保しています。

また、本事業では研修費用の一部を企業側に自己負担いただく仕組みとしています。これは、「対価を支払ってでも自社の人材を学ばせたい」という意欲の高い企業を、規模を問わず呼び込み、サプライチェーン全体を効果的に底上げしていくためです。

Q. 研修プログラムはどのように活用されるか

チャイヤスィット氏:例えばわれわれが提供するプログラムは、実際のデータや現場の課題をベースにしたハンズオン形式で進めています(図表1)。そのため、受講者が研修後に自社ですぐに応用できる内容です。

また、すべてを一度に導入するのではなく、まずは小さく試して効果を確認するという進め方が重要だと考えています。実際にデータを見ながら改善を行うことで、現場での理解も進み、次の取り組みにつながりやすくなるのが特徴です。

Q. 産官学で連携する意義は

チャイヤスィット氏:当社単体では、広範な技術移転を短期間で進めるには限界があります。その点、教育機関と連携することで、人材育成をスケールさせることができます。さらに、政府系機関の関与により、特にTier2・Tier3企業に対して「人材育成は重要な投資である」というメッセージを届けやすくなります。こうした連携は、産業界にとっての信頼にもつながり、タイの製造業に対する対外的な発信という意味でも意義が大きいと考えています。

パイブーン氏:教育機関の立場から見ても、日本政府系のAOTSやAMEICCが関与していることは大きな安心材料です。企業にとっても参加がしやすいうえ、タイ政府との連携が進むことで、単独の組織では難しい広がりも期待できます。

現場で成果を出すことが次の投資につながる

Q. 研修の成果実例はあるか

パイブーン氏:例えば、日系A社の研究開発(R&D)では、実務研修(OJT)を通じてクーリングタワーの運用を見直しました。それまで設備は常に100%で稼働していましたが、実際にはそこまでの負荷は不要であることが分かり、稼働率を30%まで下げることができました。その結果、消費電力とカーボンフットプリントの大幅低減に寄与しています。

また、監視制御システム(SCADA)の導入を検討していた企業では、研修を通じてシステム全体の理解が進んだことで、投資判断が加速しました。さらに、すでにSCADAを導入していた企業でも、十分に活用できていなかった部分を見直し、当大学のインターン生とともに再構築を進めることで、実際の運用につなげています。

Q. 企業はどのように取り組みを進めるべきか

チャイヤスィット氏:われわれが提供するプログラムは、特別に高度な内容から始めるものではなく、基礎から段階的に取り組める設計になっています。そのため、これからGXやDXに取り組もうとする企業でも参加しやすいのが特徴です。重要なのは、まず一歩踏み出すことです。実際のデータを使いながら現場で成果を実感し、「クイックウィン」を積み重ねることで、次の投資にもつながりやすくなります。

Q. 人材育成をどう捉えるべきか

田村氏:人材育成をコストではなく、投資として捉えることが一層重要になっていると考えています。GXやDXの必要性は理解していても、「何から始めればよいのかわからない」という企業は依然多いと思います。そうした企業にとって、このような研修プログラムは、必要な人材を育成しつつ、実際のGX・DXツールや手法に触れて、自社のモデルや現場の構造に合うかどうかの判断材料にもできる、有効な入口になります。

何より、研修を通じて実践を経験した人材がいることで、社内での説明や議論、意思決定もしやすくなります。「今やらなければ手遅れになる」という漠然とした不安感はあるものの、具体的な一歩を踏み出せていない企業にとって、こうした研修機会を活用することは最適な選択になりうると考えています。

AMEICC GX/DX人材育成支援事業とは

▪️詳細はWEBサイトでご確認いただけます
 2026年研修プログラム一覧(AMEICC)

⽇ASEAN経済産業協⼒委員会(AMEICC)

日ASEAN経済大臣会合(AEM-METI)の枠組みの下で設置された、産業協力の強化、ASEANの競争力向上、新規加盟国への開発協力支援に関する政策協議機関。

TEL:02-255-2370
E-mail:gxdx-secretariat@ameicc.org
WEB:https://ameicc.org

THAIBIZ編集部
和島美緒

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