ASEAN-EV市場の今〜タイ・インドネシアEV振興策および主要自動車メーカーの戦略〜

ArayZ No.136 2023年4月発行

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    ASEAN-EV市場の今〜タイ・インドネシアEV振興策および主要自動車メーカーの戦略〜

    公開日 2023.04.10

    タイの主なBEVの購入層

    本節では、バンコクのEVの購入層は一体どのような人たちなのか、迫ってみる。

    EVユーザーは、①都市部の家族持ち富裕層、②都市部の若年層(親と同居ないし独立)の2タイプに大きく分けられる。

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    ①のタイプは、車を2~3台保有している複数保有者が多い。車を複数保有するためには、一戸建て住宅に住んでいる必要がある。バンコクでの一戸建て住宅の保有層は、2015年のタイの国家統計によると3割にとどまっているため、このようなユーザー層は限定されている。

    ②のタイプはいわゆるZ世代で、新しい商品やサービス、ライフスタイルなどを最も早い段階で受け入れる層が多い。

    筆者は2月末、ユーザー層を探るために、BYDのバンコクの販売店を訪問した。BYDのディーラーは、販売、サービス、部品交換を兼ねる3Sディーラーであり、広い顧客向けの待合室のスペースとドリップコーヒーなどのアメニティの充実、7~8台のサービスベイなどの店舗のデザイン・設備から、先進的なブランドイメージにこだわっていることが窺われる。22年11月から販売を開始したEVモデルの「ATTO 3」の販売が好調であり、同店だけで2月に100台納車した。

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    購入層は富裕ファミリー層と若年層の傾向

    同店で購入しているユーザーは右表の通り、主に富裕ファミリー層と若年層に分けられる。EVの購入動機として共通しているのは、①最近の燃料費の高騰、②内燃機関に比べると安い維持費、が挙げられた。②については、BYDでは、部品(消耗品除く)およびバッテリーは8年16万㎞を保証しており、EVではエンジンオイルのような消耗部品も少ないことから、維持費が少ないと踏んでいるようである。

    ユーザー動向から見る限り、当面タイでのEV普及は3つの方向で進むことが予想される。第一に、充電インフラが整備されている都市部中心になること。BYDの関係者によれば、バンコクなど都市部の購入層は全体の6~7割を占めており、販売店もまだTier1の都市部中心に展開している。第二に、複数保有者ないしイノベーターと言われる若年層を中心に普及していくことが予想される。

    一般ファミリー層向けの5人乗り以上のファミリーカーはまだ市場にもほとんど投入されておらず、大きいサイズのEVであれば200万バーツを超えてしまい手が届かない。第三に、都市部でも、先述の通り一戸建ての住居をもつ富裕層が中心になることが予想される。集団住宅地では、個人専用の充電器の据え付けが難しく、充電設備が限られているからである。

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    タイの主要メーカーの生産計画

    タイに進出予定の自動車メーカーを含めた各社のEVの生産計画を下表にまとめた。タイの補助金の拠出が承認された自動車メーカーは、2022~23年までの輸入完成車台数を2024年以降に現地生産することが条件(25年に生産する場合は輸入台数分の1.5倍)であることから、多くの自動車メーカーは24年から生産を開始する予定だ。各社のEVの生産計画台数は数千台~数万台が想定されるが、今後の国内販売台数によって変化する可能性がある。

    インドネシアのEV自動車政策とバッテリー国産化計画

    インドネシアは、2019年8月に大統領令55号/2019を発表し、EVの産業振興策を実施している。インドネシア政府としては、「Making Indonesia 4.0」の戦略の下で、地域のEV生産ハブを目指す。四輪のEVは、2025年に自動車生産の20%の40万台、2035年までに100万台を目指す。インドネシアが最も重視するのはEVの部材の国産化である。下表で示すように、二輪、四輪ともに2030年までに80%の国産化を目指す。なかでも国産化政策で最も注力するのは、生産コストの40%以上を占めるリチウムバッテリー(LIB)である。

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    国家主導によるエコシステム構築計画

    インドネシアは、世界のニッケルの埋蔵量の4分の1以上を占める資源国であり、資源を武器にバッテリー産業を囲い込むことにより、地域でのバッテリー生産およびEVの拠点になることを目論んでいる。ニッケル鉱石から、先駆体(Precursor)、正極材(Cathode)、バッテリーセル、バッテリー組み立て、二輪・四輪の組立、バッテリースワップなどのインフラ・サービスまでの総合的なエコシステムを国家主導で構築しようとしている。その旗振り役となっているのは、国営企業4社で構成されるIndonesia Battery Corporation(IBC)だ。韓国系のLG Energy Solutionや中国系のCATLなどのバッテリーメーカーとのバッテリー生産の合弁に向けて交渉中で、両社を合わせると55GWhのバッテリー生産能力を達成する計画である。なお、LGとIBCとの合弁工場では、当初は2023年から正極材を生産する予定であったが、交渉が長引いていることもあり、生産開始は24年以降にずれ込む見通しである。

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    インドネシア政府のバッテリーロードマップ

    ● 2020年3月26日に、SOEバッテリーコンソーシアム参加の国営企業(SOE)4社による持株会社Indonesia Battery Corporation (IBC)が設立され、各社が25%ずつ出資

    ● 当社の投資規模は、170億ドルに達し、この2年間はバッテリーの上流部門への投資に集中する予定

    ● 2024年までにバッテリー国産化を目指し、韓国系のLGとは当初生産能力10GWhの工場設立で合意し、世界最大手の中国系CATLとも現在交渉中

    ● 2022年9月に、IBC、LG、現代自動車グループ等が出資し、HKML Battery Indonesiaを設立し、工場の起工式を行い、23年に商業生産を開始する予定

    二輪車への補助金:新車と改造車の対象台数

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    インドネシア政府はバッテリーの国産化政策と並行して、エコシステム充実のために2023年3月から二輪車への補助金拠出を開始した。購買力の問題で、電動化は四輪よりも二輪を中心に進展する見通しから、新車は20万台まで、化石燃料バイクから電動バイクへの改造車は5万台まで、700万ルピア(約6万円)を補助する。

    なお、補助金拠出は、40%以上の国産化を達成した企業に拠出される計画であり、IBCが出資するGesitsなど4社のローカル二輪メーカーに限定され、化石燃料バイク市場の9割以上を占める日系メーカーは対象外となる。なお、四輪に対しては、従来から実施されている奢侈税の免除に加えて、VATの11%から1%への引き下げが決まっている。

    NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
    Principal

    山本 肇 氏

    シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

    野村総合研究所タイ

    ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)

    《業務内容》
    経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

    TEL: 02-611-2951
    Email:[email protected]
    399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua,
    Wattana, Bangkok 10110

    Website : https://www.nri.com/

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