カテゴリー: 協創・進出, 対談・インタビュー, 特集, カーボンニュートラル
連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2023.10.10
日ASEAN友好協力50周年を迎えた今年、経済産業省含む経済界は「日ASEAN経済共創ビジョン」を公表し、共創の必要性を強調しています。「日タイ経済共創ビジョン」インタビューシリーズの第4回目は、海外産業人材育成協会(AOTS)バンコク事務所の所長兼日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)の事務局長を務める藤岡亮介氏にデジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)が求められる今、日本や日本企業がタイやASEANで経済協力を深化させていくためのアクションプランについて話をうかがいました。藤岡所長:昨年、私がタイに赴任した直後に開催された大きなイベントがアジア太平洋協力会議(APEC)でした。タイは、「オープン、コネクト、バランス」というテーマを掲げ、さまざまな困難を抱えつつも首脳宣言を発出し、議長国としての大役を見事に務め上げました。
タイは、伝統的に長い歴史があり、グローバルマインドもあります。オープン、コネクトという側面と、バランス感覚がある点は日本とも似ており、他のASEAN諸国と同様に見習うべきところが多いため、日系企業が約6000社も活躍するタイの人材育成とASEANの経済協力を担当している身として、タイの重要性は非常に高いと感じています。
一方でASEAN全体に目を向けると、各国は協調しつつも競争しています。それはお互いに「コネクト」していくことのメリットを理解しつつも、自国の経済発展のためグローバル企業などを競って誘致する必要があるからです。各国を個別に担当している人が多いためか、ASEANの二面性を日本人でしっかり理解している人は多くないと感じます。
ASEANとして一つの経済圏を目指しつつも、競合として隣国のやっていることを凄く意識するという構造をうまく活用することができれば、より良い共創を作り、加速化出来ると感じています。
藤岡所長:タイに赴任する前はASEAN地域との関わりはあまりなく、正直東南アジアで脱炭素はまだ普及していないと思っていましたが、実際にこちらに来てみると、想像以上に脱炭素への意識が高く、定着していることがわかりました。
脱炭素は、国単位と企業単位に分けて考える必要があります。国単位で見た場合、脱炭素を実行するためにはコストや利用可能なエネルギー源、エネルギー需要などさまざまな要件を考慮して、長期目標として実行可能な政策に落とし込んでいく必要があり、タイ政府としても難しい局面にあると思います。
一方、企業単位で見ると、取引先や最終市場、金融市場からの強い要請もあり、脱炭素化が待ったなしで求められています。業績など経営面に直結するためスピーディに対応する必要があり、欧米のグローバル企業と比べてもタイ企業の脱炭素に対する感度は遜色なく、むしろ日本企業よりも感度が高いと感じることもあります。
タイの場合は、政府主導で脱炭素化を行なっている欧米諸国とは異なり、タイ企業の取り組みを見た方が、最先端の脱炭素のトレンドを知ることができると感じます。
藤岡所長:日本がこれからやるべきことは、「守り」と「攻め」の2つの部分があります。タイへの外国直接投資では、中国やシンガポールが日本を抜いていますが、ストックベースで見ると、長年タイでビジネスを築いてきた日本の方がアセットは製造業を中心に多くあり、現在、多くの企業の収益源となるだけでなく、タイの経済成長に貢献しています。
「守り」の観点では、これらの産業アセットを時代に合わせてアップグレードしていく必要あると考えています。例えば、日タイ連携の人材育成プロジェクト「LIPE(リペ:Lean IoT Plant management and Execution)」のように、IoTを含むデジタル技術や、製造工程やエネルギー供給に潜む無駄を省く省エネ技術などを駆使しながら、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)を実行していくことで、今あるアセットの価値を更に高めていくことが重要です。
一方、「攻め」の部分では、既存事業の改善やアップグレードではなく、イノベーションにより不確実性の高い新領域を探索し、成長事業を育てていくアプローチが求められます。攻めと守りを、同一の組織体が同時に行うことを、ビジネスの世界では「両利きの経営」と呼んでいますが、日ASEAN友好協力50周年のこのタイミングで、日本政府としてもこの2つのバランスをとりながら、未来産業を創出していく攻めの部分もしっかりサポートしていきたいと強く打ち出しています。
藤岡所長:大企業から見ると小さな市場でもスタートアップにとっては利益の源泉(重要な市場)になることもあります。だからこそ、多様なプレーヤーを受け入れていく素地は重要で、その市場が拡大したところで、例えば、俊敏なタイの財閥企業と組むなどの選択肢も見えてきます。小さな市場でも最初に機動力を持って動けるのがスタートアップの強みだと思います。
また、日系企業とタイのスタートアップがコラボレーションするのも市場の活性化につながると考えています。その中で、カイゼンなど従来の日本企業が持つ強みをうまく生かしていくことができれば日タイの経済共創を深化させ、日本全体として両利き経営が実現するのではないでしょうか。
藤岡所長:スタートアップだけではなく、日系の現地法人の経営者の方々も良いアイデアを持っている方がたくさんいて、現地法人の経営者とスタートアップの創業者は、アイデアで勝負をされている、という意味で同じ次元にいると思っています。他方で、スタートアップは自由があるのに対しお金がなく、大企業の現地法人の方々は一般的に権限が限定的で、代わりにアセットを持っています。このように類似している点と対極的な点がありますが、アイデアを持っている人を、等しく支援することが日本のクリエイティビティを高めていく一つの解決策だと考えています。私自身、現地法人の経営者の方々に話を聞くことも多く、そうした方々の持つアイデアの重要性を今後はもっと積極的に発信していきます。
藤岡所長:一例として、AMEICCとジェトロが共同で行なっているADX(アジアDX促進事業)の申請において、これまでは日本本社からしか申請ができませんでしたが、海外法人からでもアイデアを挙げやすくするために、本社と海外法人が共同で申請を出せるように変更しました。細かいところですが、こうした仕組みは非常に重要だと考えており、現地法人にとっては日本政府や現地パートナー企業と共にプロジェクトに取り組めるメリットもあるので、面白いアイデアを持つ現地の企業には、ADXを積極的に紹介しています。今後はマーケティングを強化してさらにADXの認知度を高めていきたいと思っています。
藤岡所長:これまでの研修は自社完結型で、日本人の技術者や専門家をタイに派遣もしくはタイ人社員を研修生として日本に派遣するのが一般的で、AOTSの海外人材育成制度のベースにもなっています。
しかし近年は、DXやGXなどの最先端の分野を中心に、日本側で社内に教えられる人材がいないという課題も出てきています。そうした課題を解決するために、タイの研修施設と連携して、そこにノウハウを集約して人材育成をする仕組みをつくるアイデアもあります。現地の研修施設をオープンプラットフォーム化することで、「日本 x タイ」や「ベンチャー x 大企業」だけでなく、さまざまな層の垣根を超えた共創を後押しできると思っています。
ただし、研修施設での研修は誰にでも合うような、普遍的な内容になってしまう可能性があるため、自社のニーズにカスタマイズした内容を深く学ぶことができる従来の自社完結型の育成も必要です。AOTSでは、こうした点も踏まえ、うまく政策に落とし込んで、より時代にあった人材育成制度を提供していきたいと考えています。
TJRI編集部
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