日タイの新たなビジネスの礎を築く共創パートナーへ 〜 ジェトロ・バンコク事務所、黒田所長インタビュー

日タイの新たなビジネスの礎を築く共創パートナーへ 〜 ジェトロ・バンコク事務所、黒田所長インタビュー

公開日 2023.09.26

日ASEAN友好協力50周年を迎えた今年、日本貿易振興機構(ジェトロ)と経済産業省が事務局となって策定した「日ASEAN経済共創ビジョン」の最終版が8月に公表されました。そこで、「日タイ経済共創ビジョン」をテーマにインタビューする本シリーズの第3回目は、ジェトロ・バンコク事務所の黒田淳一郎所長に日タイの経済発展における取り組みや今後の見通しについて話をうかがいました。
<聞き手=mediator ガンタトーン>
mediator ガンタトーンCEO(左)とジェトロ・バンコク事務所 黒田所長
mediator ガンタトーンCEO(左)とジェトロ・バンコク事務所 黒田所長

成熟した日タイ関係、共通点の多い日本とタイ

Q. ASEAN友好協力50周年を迎えましたが、ASEANの重要な拠点の一つのジェトロ・バンコクの所長としてどのように捉えていますか

黒田所長:次の50年に向けた日ASEANの関係をよりよいものにしていくための節目として、日本にとって重要な年です。日ASEANは一国対一国の関係性ではないため、タイだけで日ASEAN友好協力50周年を盛り上げるのは難しい面もありますが、日本にとってASEANは変わりなく重要な地域であり、特にタイとの関係は今後も重要だと捉えています。

Q. タイに赴任してみて、世界の中でのタイの優先順位や他国との違いなど実際に感じたことはありますか

黒田所長:優先順位は、国や企業としてみた場合、利益やその国との関係性などによって変わってきますが、一般的に優先順位が高いとされるアメリカや中国は大国であるがゆえ、課題もたくさんあります。ASEANやタイにももちろん課題はありますが、特に日タイ関係は成熟しているため、良くも悪くも日本の本社(本部)がリソースをかけなくても自立した関係が築かれています。

また、タイに実際に来てみて感じたのは、アメリカやヨーロッパ、中国、ASEANの他の国などと比べて日本と共通点が多いことです。例えば、保守的で漸進的な変化を好む国民性、産業構造や少子高齢の社会課題などです。

オープンイノベーションから共創へ

Q. ジェトロのプロジェクトで印象に残っているものは

黒田所長:昨年11月に実施した「Rock Thailand #4」や今年8月に実施した「Zest Thailand」のスタートアップのマッチングは、日タイの企業同士の交流の機会としても、私たちジェトロにとっても印象に残るイベントでした。ピッチに登壇した日本のスタートアップの技術はもちろん、その技術がなぜタイにとって有効なのかというストーリーもわかりやすく、日本はまだまだASEANやタイで貢献できると感銘を覚えました。タイ企業側も先端技術に関心を持ち、探していることがよくわかり、よいマッチングの機会だったと思います。

Q. 日本とタイのオープンイノベーションの状況は

黒田所長:日本には、研究開発や博士号を取得した人材を抱えている大手企業はたくさんあります。しかし、グローバル化が進むこれからの時代は自社のリソースだけではなく、外部の技術やアイデアも使っていく必要があり、日本企業にも徐々にオープンイノベーションが浸透してきていると感じています。

一方、タイの状況を見てみると、オープンイノベーションマインドは、日本よりタイの方が圧倒的にあります。技術がないことを課題として捉え、外部の力を求めることに躊躇なく採用していくタイ企業のマインドは、日本も見倣う部分があるのではないでしょうか。

ジェトロ・バンコク事務所黒田所長

Q. 日本企業とタイ企業で共創できる分野は

黒田所長:タイは観光大国であり、ホテルなどホスピタリティ産業は、日本よりも一歩進んでいると思います。タイも製造業が大きなウエイトを占めていますが、ホテルやヘルスケア、医療分野は、タイを足がかりに、タイ企業と協力してASEANに進出していくことに関心を持っている日本企業もあり、期待できます。

もう一つ、日本企業が関心を持っている分野としては農業分野です。タイは、もともと植物資源に恵まれた農業大国で、食品加工技術もあり、輸出も盛んです。しかし、バンコクから少し離れると農村が多く、まだまだ社会的に発展の機会があります。そこでタイが抱える課題を解決できれば、日本企業にも参入のチャンスがあるのではないでしょうか。

経済社会にコミットして持続可能なビジネスを

Q. 今勢いのある中国など新興国の企業と日本企業の違いや特徴は

黒田所長:日本企業の特徴として意思決定が遅いとよく言われますが、それが必ずしも悪いとは思っていません。コンセンサスをとって意思決定するので時間はかかりますが、一度決定すると強い意志を持って、継続的に全うしようとします。かつて日本が海外投資し始めた勢いのあった時代の反日感情という教訓もふまえて、今は企業市民として、人材育成や地域社会に貢献しながらビジネスを行っていくというマインドを多くの日本企業が持っています。

新しい分野にどんどん投資し、短期的に利益を上げていくビジネスモデルとは異なり、中長期的に考えて事業を行う多くの日本企業とでは根本的な性格も違い、強みも違うのは当然です。華々しさには欠けるかもしれませんが、経済社会に対してコミットしながらビジネスをしているのが日本企業の特徴だと思います。

Q. タイが中進国の罠を抜けるためにできることは

黒田所長:戦後、欧米が発展していく中で、日本はどんどんモノ作って輸出すれば経済が発展していく高度経済成長の時代がありましたが、現在はその時ほどの勢いはありません。同様にタイがこれから中進国の罠を抜けるのはチャレンジングなことで簡単な道はないでしょう。ハード面、ソフト面含め必要なインフラや制度の整備、イノベーションや科学技術、特にデジタル人材やエンジニアなどの育成に継続的に投資していくことが重要です。それを国がリードして、産業界と連携して一緒にやり続けるしかないと思います。

一方で、タイも製造業がしばらくは重要な産業であり、タイに製造拠点を持つ日本企業は、生産効率や生産性を上げるために必要な投資は今後も行っていくと思います。

JETROバンコク黒田所長、mediatorガンタトーン

共感し合える真の共創パートナー

Q. ジェトロとして今後のタイでの取り組みは

黒田所長:ジェトロは、「人、企業、国とともに、未踏のフィールドにビジネスの礎を創りあげる」をミッションに活動していますが、バンコクはすでに民間のサポート企業がたくさんあり、私たちのような行政機関がやるには成熟し過ぎています。ジェトロとしては、今後バンコク以外の地方で事業を展開していくことに意義があると考えています。ジェトロはまだ地方ではあまり活動しておらず、タイの地方の企業や人々には、ほとんど知られていません。だからこそ「ジェトロとは何か」という活動も含め、今後地方でのプロジェクトにも力を入れていく予定です。

Q. 最後に、未来に向けての日タイ関係や読者に向けてメッセージを

黒田所長:日本とタイは同じ課題に直面していると思っています。両国のよいところを残しつつ、変えるところは変えていく必要がありますが、日本とタイは多くの共通点があり、本当に共感し合って共創していける国は日本とタイだと感じています。これまで先人たちが築いてきた良好な関係を保ちながら、共創パートナーとしてお互いの強みを生かして、よりよい経済社会を創っていくことを期待しています。ジェトロとしても、今後も日本企業とタイ企業のオープンイノベーションやビジネス創出を全力でサポートしていきます。

TJRI編集部

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