「DX人材育成研修」で見えてくる、“ASEAN市場で活きる”工場改革の正解とは(DENSOサムロン工場訪問レポート)

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「DX人材育成研修」で見えてくる、“ASEAN市場で活きる”工場改革の正解とは(DENSOサムロン工場訪問レポート)

公開日 2025.08.28

製造大手デンソータイランドは現在、日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)協力のもと「DX人材育成研修(日本政府の補助金対象)」を展開している。8月7日に実施された見学会では、その会場のひとつであるサムロン工場を訪問。創業50年以上の歴史を持つ同社が、いかにしてデジタルトランスフォーメーション(DX)を実装してきたかを目で確かめ、設備に触れ、現場リーダーの声を聞くことで、研修の価値を実感できる場となった。 

最古で最新のDX教育施設へ進化するサムロン工場

サムロン工場は1970年、デンソーグループ初の海外生産拠点として誕生。当初わずか100名だった従業員は、半世紀で4,000名規模に成長した。現在は、グループ内で製造設備・金型・刃具製作を担うDenso Innovative Manufacturing Solution Asia(DIMA)が拠点を構え、デンソーのアジア地域全体の製造改善と人材育成を牽引する役割を担っている。

DENSOサムロン工場 提供:デンソータイランド
サムロン工場 提供:デンソータイランド

DIMAは,金型や自動化設備の製造に加え、日タイ連携によるLASI(Lean Automation System Integrator=無駄を徹底排除した、経営効率の高い自動生産システムである「リーンオートメーション」の構築を担う人材育成プログラム)やIoT活用など、サプライチェーンやタイ製造業現場の生産性を高めるソリューション事業を展開中だ。

今回の訪問では、はじめにDIMAのビワット・パントラ副社長が挨拶。当事者として「DX実現の根幹は“改善”と“人材”にある」と強調。サムロン工場をオープンファクトリー+ショールーム機能を備えた教育拠点へ再編する構想を明らかにし、「今回の工場見学会で気づきや提案があれば、気軽に声をかけてほしい」と来場者に呼びかけた。

デンソーが「人づくり」に注力する背景

デンソーではアジア地域方針として、①カーボンニュートラル推進、②ASEAN独自の製造革新、③社会課題解決、の3本柱を掲げている。そのなかでDIMAは、タイ市場における以下のような外部要因を見据え、人材の高度化こそ最善策と位置付けている。

(1)人材不足や賃金上昇、人口減少といった労働市場の変化

(2)電動自動車(EV)化や中国OEM参入による事業環境の揺らぎ

(3)IoTや人工知能(AI)、センシング技術の進展

DENSOサムロン工場訪問レポート01

DIMAの猿島恵輔ゼネラルマネジャーは「タイは豊富な労働力を持つが、今後はスキル人材の育成、製品変化への対応、働き方改革、技術進化がアジア全体の課題になる」と指摘。DIMAではこのサムロン工場を拠点に自社の金型技術や生産改善ノウハウを外部に開放し、ASEAN全体の製造業競争力向上を目指すオープンイノベーション型の研修を開始している。

中小企業にも応用できる「効率的DX」のリアル

見学会場となったサムロン工場内には、広々とした共創ラボ(Co-Creation Lab)が完備され、現役技術者が座学とOJTを組み合わせた指導を行っている。参加者は設備や工具に直接触れながら学び、現場での実践を通して理解を深めることができる。

特筆すべきは、「教えてもらう(知識の習得)」「やってみる(現場で実践)」「自らできるようになる(自走)」という成長プロセスが全プログラムに組み込まれている点だ。学びは自社現場での応用まで続き、成果創出に直結する。このように、基礎から現場適用までを一貫して支援する教育体制を自社内で構築することは、多くの企業にとって容易ではない。

DENSOサムロン工場訪問レポート03

研修内容は現場改善から高度な自動化まで幅広い。例えば、ロボットによる自動製造工程では、日本本社の「1ロボット1部品製造」をASEAN流にアレンジし、「1ロボットで3部品を製造するリーンな自動化」を実現。コストを抑えつつ人の知恵で効率化するこの仕組みは、ASEAN製造業DXの再現性ある成功モデルといえる。

これらの取り組みを通じて、デンソータイランドがスキル人材を効率的に活かすためのLean化=LASI制度を通じた人材育成に注力している意義を実感することができた。

改善を習慣化しアウトプット能力を鍛える

参加者からは「大手の改善プロセスを細部まで知れた」「小規模企業でもできることがあると分かった」「オープンな研修スタイルに驚いた。自社に持ち帰って前向きに検討したい」などの声が寄せられた。また、工場見学後の交流会では、DIMAの関係者や参加者同士が課題を共有し、改善アイデアを出し合う姿が見られた。冒頭で挨拶したビワット副社長の言葉に象徴される“改善の習慣化”は、外部の視点を取り入れ続けることの重要性を物語っている。

DENSOサムロン工場訪問レポート02

デンソーによるDX人材育成研修は、最新技術の導入事例と改善文化を組み合わせ、習得した知識を現場に直結させる実践型の学びを提供している。長い歴史を持つ工場を教育拠点へと再編する取り組みは、技術革新が加速し競争環境が変化する製造業において、現場で課題を解決できる人材を継続的に育成することこそが改革の成否を分けることを示している。

今回の見学会は、そのためのプロセスと成果を具体的に共有し、企業規模を問わず適用可能な改善アプローチとして、ASEAN地域における工場改革の一つの正解例を提示した。

デンソー・インターナショナル・アジアが提供する3つの研修コースについて

日アセアン経済産業協力委員会(AMEICC)事務局と一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)が実施する「ASEANにおけるGX・DX人材育成支援事業」の一環として提供される研修プログラム。同社は、製造業の「ムダの排除(Lean)」と「人材育成」を軸に、現場改善と自動化を推進する以下のプログラムを実施している。

① Developing GENBA leaders to lead the Die & Mold improvement – Die & Mold Maintenance -(金型メンテナンス 現場リーダー育成)

期間:(第2期)2025年10月6日〜10月31日(合計9日間)
場所:DENSO Innovative Manufacturing Solution Asia(サムットプラカーン)*OJTは参加者の自社工場
言語:タイ語
費用:26,000バーツ ※補助金13,000バーツ
定員:4〜6名
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②Developing GENBA leaders to lead the improvement of the Production equipment – Production equipment Maintenance -(設備改善 現場リーダー育成)

期間:(第2期)2025年9月30日〜11月13日(合計8日間)
場所:DENSO Training Academy(タイ・チョンブリ)*OJTは参加者の自社工場
言語:タイ語
費用:15,000バーツ ※補助金7,500バーツ
定員:6〜8名
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③ Lean Automation OJT Training(Lean×人材育成による現場改善)

期間:(第2期)2025年11月10日〜11月21日(合計10日間)
場所:座学はTGI(バンコク)*OJTはモデル企業の工場
言語:タイ語
費用:50,000バーツ ※補助金25,000バーツ
定員:25名
>>> 詳細はこちら

※補助金対象:日系企業もしくはそのサプライヤー企業に所属する従業員、日系企業の内定者およびインターン生

関連動画|グローバルで生き残るための人材育成とは?

本研修プログラムの背景にある「現地完結型の人材育成」の重要性について、前AMEICC事務局長兼AOTSバンコク事務所長の藤岡亮介氏が解説。グローバル市場で日系製造業が生き残るためのヒントが詰まった動画。こちらもあわせてご覧ください。

タイ・ASEANにおける日本の人材育成の軌跡と未来への課題

THAIBIZ編集部
和島美緒

THAIBIZ編集部

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