中国によるノミニー問題、いま何が起きているのか

THAIBIZ No.176 2026年8月発行

THAIBIZ No.176 2026年8月発行タイ企業が切り拓く、日本食の新時代

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

中国によるノミニー問題、いま何が起きているのか

公開日 2026.08.10

世界第2位の経済大国・中国がタイ市場への影響力を急速に強めているなか、外資出資比率の制限を回避するためにタイ人を名義上の株主や代表者に据えて実質的に事業を支配する「名義貸し(ノミニー)」が、もはや看過できない社会問題となっている。

本稿では、中国によるノミニー問題の背景や実態を多角的に整理するとともに、タイのビジネス界が今後この課題にどう向き合うべきかを考察する。

タイ社会で疑問視される中国企業のビジネス行為

増え続ける中国の対タイ投資。本来であれば、雇用創出や所得の増加、新たなビジネス機会の創出など、地域経済にプラスの効果をもたらすはずだ。しかし、タイ社会における中国企業への見方は、依然として厳しい。

現在タイ社会では、中国企業の違法・脱法行為と密接に結びついたビジネス行為を意味する「ジーン・タオ(グレーな中国人・中国資本)」の取り締まりを求める声が強まっている。

東部経済回廊(EEC)では、中国企業による投機目的の土地取得が進み、タイ企業には手の届きにくい水準まで地価が高騰している。過去2年間でチョンブリー県とラヨーン県の地価は20~30%上昇し、タイ工業団地公社(IEAT)によると、工業団地内の中国企業の占有率は6%(2019年)から17.06%(2026年第1四半期)へ急増した1

また、資材や機械、労働力までを中国から調達し、タイ経済への波及効果がほとんど生まれない「ゼロバーツ工場」の問題も深刻化している。さらに、建設業や飲食業、旅行業など、外国資本の参入が規制される業種への進出を巡っても、世論の反発は強まっている。

問題は、タイで事業を展開しながら、資本や労働力、顧客のすべてを中国国内で完結させる「中国系サプライチェーン」を構築しているケースがあることだ。こうした排他的な事業モデルは市場競争をゆがめ、法令を遵守して事業を展開する企業との公正な競争を損なう要因となっている。

そのなかでも、経済・産業への影響という点で最も大きな論点となっているのが、ノミニー問題だ。

ノミニー摘発の中国企業の実態

中国企業によるノミニー問題の象徴的な事例が、昨年5月にチョンブリー県とラヨーン県で摘発された不動産開発会社である。当局の捜査により、書類上はタイ人が大株主として登録されていたものの、実際には営業担当社員にすぎず、経営権は中国側が実質的に掌握していたことが判明した2

さらに、プロジェクトの設計者から建設現場のフォアマン、配管工、左官職人に至るまで、従事者のほぼ全員が中国人であることも明らかになった。こうした実態は、外国人事業法(FBA)に明確に違反するものだ。

FBAはノミニー行為を禁止するとともに、タイ人の事業機会を保護するため、観光業や飲食業、小売業、建設業など一部業種への外国人の参入を制限している。しかし、この不動産開発会社は、タイ人に株式の51%を名義上保有させるノミニーの手法でダミー会社を設立。参入規制対象である建設を担う施工業者も同社系列のノミニー企業だったと報じられている。

法律をすり抜ける巧妙な手口

ノミニーの典型的な手法が、こうした「身代わり株主モデル」だ。タイの経済メディア「ポスト・トゥデイ」によると、タイ陸上輸送連盟のトンユー会長は、「タイ人を警備員や清掃員などとして雇用し、51%の株式を名義上保有させる一方、あらかじめ『全株式を譲渡済み』とする株式譲渡書に署名させることで、実質的な支配権を維持する」と説明。さらに、名義貸し用の銀行口座(ミュールアカウント)を開設し、実質的な経営権や資金管理を中国側が掌握しているという3。こうしたノミニー問題は物流業界にとどまらず、すでにタイのビジネス界全体へと深く根を張っている。

ノミニー問題をはじめとするジーン・タオの手法は、法的手続きのデジタル化などを背景に、さらに巧妙化している。例えば、タイ国内での決済に「WeChat Pay(微信支付)」や「Alipay(支付宝)」などの中国系電子決済サービスを利用し、タイの税務当局や金融機関を介さず、中国国内の口座へ人民元で直接送金するケースが指摘されている。その結果、売上金や利益がタイ国内を経由せず、中国へ還流する仕組みが形成されているという(図表1)。

背景にある「中国の経済低迷」

この問題の背景には、中国国内の経済情勢が大きく影響している。経済メディア「クルンテープ・トゥラキット」は、多くの業界で利益を度外視した価格競争を繰り広げる「内巻(ネイジュアン)」と呼ばれる不毛な過当競争が、工場出荷価格の下落やデフレの悪循環を招いていると指摘。中国当局も質の高い競争への転換を促すため、介入に乗り出しているという4

こうした状況を受け、中国企業は新たな収益源を求めて海外進出を加速させている。そのなかでも、地理的優位性や比較的低い生活コスト、ビザ免除措置などを背景に、タイは有力な進出先の一つとなっている。

しかし、あらゆるタイの法規制に直面し、一部の事業者は規制を回避する手法を模索・実行するようになった。その結果、ノミニー問題をはじめ、商業スペースの占有やサプライチェーンの囲い込みといった問題が顕在化している。

ノミニー対策を強化するタイ政府

こうした問題に対し、タイ商務省商業開発局(DBD)は今年6月、ノミニー対策の一環として、6つの高リスク業種を対象とした全国一斉の取り締まり強化を発表した。対象は、①観光業および関連事業、②土地取引・不動産業、③eコマース・運輸・倉庫業、④ホテル・リゾート業、⑤農業、⑥建設業である5

あわせて、事前登録時の審査も厳格化した。タイ人株主に対し、資本金または株式取得資金の支払日から遡って3ヶ月分の銀行取引明細書などの提出を義務付け、必要な資金を実際に保有していたことの証明を求めるなど、新たなルールを8月1日から導入した。

企業に求められる対応

タイ政府が規制の抜け穴の封鎖を進めるなか、民間企業にもリスク管理の強化が求められている。中国企業と取引や合弁(JV)を契約する前に、株主構造や資金の流れを十分に確認し、信頼に値する相手かどうかを慎重に見極めることが重要だ。加えて、公的機関など、信頼できるネットワークを通じてパートナーを選定することも有効な対策となる。

規制強化は企業に負担をもたらす一方、ガバナンスやコンプライアンス体制を見直し、透明性を高める好機でもある。中国企業への警戒が高まるほど、今後は信頼性そのものが競争力となっていくだろう。

(参考)

  1. ※1 クルンテープ・トゥラキット「中国資本がEECで土地取得を加速 チョンブリー・ラヨーンの工場用地需要が急拡大 」(2026年6月24日) ↩︎
  2. ※2 国営メディアMCOT公式YouTubeチャンネル「Inside Thailand」(2025年5月2日放送分) ↩︎
  3. ※3 ポスト・トゥデイ「『中国系ノミニー』の3つの典型的手口を公開 タイ企業をのみ込む“静かな脅威” 」(2025年8月9日) ↩︎
  4. ※4 クルンテープ・トゥラキットの解説動画(2025年5月5日公開) ↩︎
  5. ※5 DBDプレスリリース(2026年6月23日) ↩︎

>>本連載「編集部の視点で読み解く」の記事一覧はこちら

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子

THAIBIZ No.176 2026年8月発行

THAIBIZ No.176 2026年8月発行タイ企業が切り拓く、日本食の新時代

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP