AI Native化を通じた、経営OSのアップデート

THAIBIZ No.176 2026年8月発行

THAIBIZ No.176 2026年8月発行タイ企業が切り拓く、日本食の新時代

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AI Native化を通じた、経営OSのアップデート

公開日 2026.08.10

これまで本連載では、タイ市場の構造変化を起点に、人工知能(AI)時代の変革に必要な覚悟、意志と仕組み、そして変革の回し手等の機能の必要性について言及しました。本稿では「経営基盤編」として、そうした変革を支え続ける企業運営の土台、すなわち「経営OS(オペレーティング・システム)」をいかにアップデートするかを考察します。

日系企業で散見される “パッチワーク型AI活用”

在タイ日系企業でも、AI活用そのものは確実に始まっています。経営者や現場の方々に「AIの活用は進んでいますか」と聞くと、「本社からマイクロソフトコパイロットが展開されてきたので使えるようにしています」「もうすぐナショナルメンバーにも開放します」といった声を聞くことがあります。一見すると、AI活用は一定程度進んでいるように見えます。

一方で、「社長からAIを使って何か考えろと言われて困っている」「概念実証(PoC)は行ったが、投資対効果(ROI)を説明できず止まった」といった悩みもあるようです。これは、AI活用が全社改革ではなく、個別施策の積み上げ、いわばパッチワーク型AI活用にとどまっていることを示しています。

もちろん、翻訳、要約、資料作成、議事録作成、一部業務の自動化といった活用は重要です。しかし、それだけでは損益計算書(PL)改善や企業価値向上には届きません。日本企業全体を見ても、AI投資が進む一方で、高いROIを達成できている企業は17.6%にとどまるという調査結果があります※1。在タイ日系企業においても、AIを使うこと自体は進み始めているものの、それを成果に結びつける段階では、同様の難しさがあると考えています。

問題は、AIの利用ケースが足りないことではありません。「AIを使っているか」ではなく、「AIを前提に、会社の動かし方そのものを変えようとしているか」を問う必要があります。

※1 ExaWizardsによる生成AI投資・ROI関連調査、IPA DX白書2023

AI Native化を通じた、 経営OSのアップデート

では、何を目指すべきでしょうか。近年の調査では、AIで価値創出に成功している一部の先進企業、すなわちAIを個別業務の自動化にとどめず、業務の流れ、意思決定、人とAIの役割分担まで再設計している企業は、収益成長や企業価値向上で他社を大きく上回ることが示されています※2。重要なのは、これらの企業がAIツールおよび利用ケースを幅広く展開しているだけではないという点です。AIを既存業務に後付けするのではなく、企業運営の前提として組み込み、会社の動き方そのものを変えているのです。

本稿でいう「AI Native化」とは、AIを前提に企業運営を考え直すことです。業務プロセス、組織、人材、データ、システム、ガバナンス、意思決定といった企業活動の構成要素を、AIがある前提で再設計する。つまり、「どこにAIを入れるか」ではなく、「AIがある前提で会社はどう運営すべきか」から考えることです。

その結果として変わるのが、経営OSです。ここでいう経営OSとは、従業員一人ひとりの行動指針・マインド・風土そのものです(図表1)。日々の仕事の中で、何を人が担い、何をAIに任せ、どのように判断し、どのように改善し続けるかという、企業運営の根底にある考え方です。

※2 Boston Consulting Group「The Widening AI Value Gap: Build for the Future 2025」:同レポートでは、AIで価値を創出する上位企業が、収益成長、EBITマージン、株主総利回りなどで他社を上回ることが示されている。

AI Native化によって、オペレーション業務は大きく圧縮されます。しかし、本質は単なる業務効率化ではありません。従業員一人ひとりの目線が一段・二段上がり、自分の仕事を多面的、構造的に捉えられるようになることです。AI Nativeな環境では、従業員は部下のように複数のAIを持つことになります。人間は「これは人がやるべきか」「AIに何を任せるべきか」「AIを最大限活用するには、業務、システム、データをどう設計すべきか」を考える側に回ります。

自分のタスクを処理する人から、AIを使って業務全体を設計・運営する人へ変わる。その意味で、AI Native企業のゴールは「全員マネジャー」です。こうした高付加価値な人材集団へと変わることが、中長期的に成長できる体質につながっていきます(図表2)。

経営者に求められる変革の決断

この変化は、現場だけで起こせるものではありません。経営者に求められるのは、現場レベルのAI活用を個別施策の積み上げとして容認し続けるのか、それとも企業活動そのものを未来から逆算で再設計し、刻々と変化する事業環境に追随できる企業体質へと変革するのかという決断です。

前者を選べばAI活用は便利ツールの導入やPoCの積み重ねにとどまります。後者を選ぶなら、業務プロセス、組織構造、人材育成、データ、システム、意思決定の仕組みを聖域なく見直す必要があります。それは、これまでの成功体験の延長線上にある改善ではなく、痛みを伴う非連続な構造改革です。

ただし、経営者が「経営OSをアップデートする」と決断するだけでは、変革は前に進みません。必要なのは、AIをどの業務に入れるかを考えることではなく、AIを前提にした企業全体の理想像を描き、そこから業務・組織・人材・データ・システムをどう変えるべきかを具体化する筋道です。

タイ拠点が本社ガバナンスのもと一つの実行拠点にとどまるのか。それとも、自ら問いを立て、AIを梃に経営OSをアップデートし、変革・成長し続ける拠点へ進化するのか。その分岐点にあるのが、AI Native化です。

次回は、この経営OSアップデートをどのように実現していくのかを考えます。AIを前提にした理想像をどのように描き、それを業務・組織・人材・データ・システムへどう落とし込んでいくのか。具体的な方法論として、ABeamが提唱するAI Native TOM(Target Operating Model)についても紹介します。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Director

木口 郷 氏

商社、金融、製造業等、業界問わず、IT/DX戦略・企画領域から大規模システム導入プロジェクトに至るまで、ITライフサイクル全般に対するプロジェクトマネジメントを中心に15年以上のコンサルティング経験を持つ。グローバル企業に対するIT/DXガバナンス強化、システムリスク管理態勢強化、人材育成、IT-PMI等に関するアドバイザリー経験多数。
2024年9月よりABeam Consulting (Thailand) に赴任し、組織変革等のコーポレートストラテジーに携わりつつ、AI Initiativeを立ち上げ、AI人材の育成やAIプロジェクトの獲得に向けたアクション、社内でのAI利活用等をリード。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Senior Manager

若林 克 氏

製造業を中心とした幅広い業界に対し、コーポレート改革、DX戦略、業務改革・組織改革、営業改革などのテーマで、構想策定から実行伴走までを支援。近年は、AI活用を通じたコーポレート機能の高度化および全社変革の推進に注力。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.

日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファームを目指し、専門知識と豊富な経験を持つ約8,300名のプロフェッショナルと世界各地のアライアンスパートナーの「総合力」でクライアントの変革実現への挑戦を支援。タイ法人は2005年に設立。500名超のコンサルタントを抱え、東南アジア最大規模の拠点。

Tel : 02-610-1100
E-mail : thabmarketing@abeam.com

Website : https://www.abeam.com/th/

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