8人の専門家が解説するタイの過去そして未来

ArayZ No.100 2020年4月発行

ArayZ No.100 2020年4月発行アレイズ100号記念特集

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8人の専門家が解説するタイの過去そして未来

公開日 2020.04.09

 

転換期の日本企業 重要性増すスピード感

池上 一希
MUFG
Managing Director
池上 一希
Kazuki Ikegami

大手自動車メーカーにて主にアジア・中国事業企画業務全般を経験後、2007年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。18年より現職。三菱UFJフィナンシャル・グループのシンクタンク・コンサルティングファームのタイ現地法人責任者として、タイをベースとして東南アジア、インド、中国を主としたアジアにおける日系企業のグローバル事業戦略構築支援を手掛ける。

経営 Last 10 Years
各種コストが上昇 競争環境の根本的変化

昨年のタイのマクロ統計を見ると、従来の貿易、観光分野に加え、海外直接投資(FDI)においても中国が全体の3割近くを占め、日本を抜き首位となりました。

中国からの投資が多い業種は、現状では上位から不動産、製造業、金融です。従来はコンドミニアムなどへの不動産投資が活発でしたが、この2~3年では米中貿易摩擦問題など背景として中国系製造業企業のタイ移転が特に活発です。日系企業からも競合として動向を注視する傾向が強まっています。

もう一つ気になるのが、製造業としてのタイの位置づけを再検証する動きです。特に2018年後半から一部の製造業分野において、第三国への生産拠点の移管を検討する日本企業が増加しております。

人件費の推移を見ると、例えば19年は自動車業界では約5%上昇しました。製造業全体でもコンスタントな賃金上昇により、この20年で人件費が約2倍になっています。足元では、工場の拡張などに用地を確保したくても中国・台湾系企業に候補地を抑えられてしまった、という話も聞かれるようになってきました。

我々のコンサルティングの現場でお客様の問題意識としていただく経営課題として共通性が高いキーワードは
• 輸出主導型から内需主導型へ
• ハイエンドからボリュームゾーンへ
• モノ売りからコト売りへ
• 都心部から地方部へ
などが挙げられます。

これら競争環境の変化の元、タイにおける事業を高度化していくべきか否かの大きな転換期に我々は置かれていると実感しております。

経営 Next 10 Years
ビジネスモデルの転換 ルールメイキングの重要性

弊社で現在注力している分野として「デジタルガバメント」「スマートシティ」「グローバルヘルス」の3つの領域が挙げられますが、タイにおける事業機会を語る上でも、この3つのテーマは合致していると実感しています 。

例えば、バンコク北部で開発が進んでいるバンスーエリアでは、将来6つの路線が集積・交差する予定の中央駅の建設が着々と進んでおり、さらに駅周辺地域をスマートシティとして開発するためタイ政府の主導の元でプロジェクトが具体化されています。

実質的にタイ初となるスマートシティプロジェクトは、19年がASEAN議長国だったこともあり、政府肝煎りのプロジェクトとして推進されています。日本勢としても事業機械は幅広く、シェアリングエコノミー、省エネやロボットなどで関連する企業の期待値は非常に高いと言えます。

また、ヘルスケアの分野での取り組みなどで感じるのは、日本発のテクノロジーや商材をゼロから需要創造していくことは至難の業であることです。政府や周辺業種の主要なステークホルダーなどをいかに巻き込んで三方よしの大きな絵を描いていくことがキーになってきていると考えています。いかにルールメーカーと初期段階から接点を持ち、ビジネスモデルを構築していくか、という点には留意しています。

弊社でお受けするコンサルティングテーマは、BPR(業務改革)、新規事業、提携と多岐に亘ります。最近注目されているのは、比較的しがらみの少ないタイを含むASEAN本社で新しいビジネスモデルや制度構築をし、本社に逆輸入するというポジティブな試みです。これらを実現する上で、日本本社の経営層では情報伝達スピードや実感が伴いにくいものも多く、最前線であるタイにおいて事業企画・意思決定を下す機能が従来以上に必要になっていると認識しています。

ArayZへ一言

タイにおける日本人ビジネスパーソンのバイブルとして、今後も圧倒な存在感を放ち続けていただけることを願っております。

>次ページ:モビリティが牽引するスマートシティの実現

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THAIBIZ編集部

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