ArayZ No.100 2020年4月発行アレイズ100号記念特集
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2020.04.09
MANAGING DIRECTOR
小神野 毅 氏
「タイ人社員は、言われたことしかしない。自発性がない。上に物申すということがない」。
タイにいる日本人ならば、一度は耳にしたことがある、あるいは口にしたことがあるセリフではないだろうか。
このようなものの見方に一石を投じ、自ら変革に挑戦する企業があるということで、インタビューさせていただいた。その会社は古河電工グループの一員、Furukawa FITEL(Thailand)社である。
同社は、古河電工グループにおいて光通信用等の情報通信関連機器の製造を担う製造委託会社であり、製品は全て古河電工グループに納めるビジネス形態である。同社のマネージングダイレクターの小神野氏、そしてタイ人プロジェクトリーダーのブラニー氏、アピラック氏に話を伺った。
小神野氏は「私がタイに着任したのは今から5年前。その当時、弊社の社員には能力とやる気がある、と感じました。実際に何かで証明できるものでもありませんが、私自身が、この会社と社員達に可能性を感じたのです」と話す。
小神野氏が目指し、着任して社内に発信したことは以下である。
「これらはつまり、『日本から言われた通りに生産する』のではなく、『Furukawa FITEL(Thailand)社発で、グループに積極的に貢献をしていく』ということです。日本側の意向で生産量が増減する、これは当社のビジネス構造上、致し方ないことです。しかし、当社発で一層グループに貢献していければ、この会社の未来を創っていける。言い換えれば、当社が存続するかどうかさえも、タイ人社員達が自ら創っていけると思ったのです」
「ですが、私が発信したメッセージが社員達にどれくらい理解され、共感されているのか、全く見えない時期がありました。例えるならば、暗闇にずっと一人石を投げ続けているようなものでした」(小神野氏)
そこで小神野氏が選んだのは「対話」。社員との対話を通じて、自らの考えを伝え、社員達の主体性を引き上げるというやり方だ。
そして小神野氏は、「Hold in One」プロジェクトを2019年に立ち上げた。これは、タイ人社員、日本人社員が一丸となり、以下の項目を実現しようという取り組みである。「Hold in One」というプロジェクト名には、社員同士が手と手を取り合おう、一つになろう、という意味が込められている。
もちろんこれは、簡単な事ではない。そこで、小神野氏は、プロジェクトの推進リーダーとして小神野氏自らと日本人・タイ人マネジメント6名の計7名を選抜し、推進リーダーと28名のキーパーソンが定期的に対話をしながら前進していくというプロジェクトを立ち上げた。
推進リーダーが、キーパーソンとの1対1の定期的な対話の時間を持ち、その中で、キーパーソン達のプロジェクトへの理解・共感と、自発的な挑戦を促していくという構造だ。
その対話の技術として、コーチングを活用することとして、コーチングファームの協力も得ることにした。
会社の変革を誰かに任せるのではく、トップマネジメントである小神野氏自ら時間とエネルギーを使い、推進リーダー、キーパーソン達との対話を継続した。
この活動の中で、推進リーダー達は、会社の変革に向けて本気になり、「社長がやりたいから・・・」ではなく、主語を自分にして、会社を変えていこうと周囲に働きかけるようになっていった。
この取り組みの成果測定方法として、①小神野氏の考える理想の組織像を設問の形で言語化した組織調査(213名の社員向けに配信)と、②推進リーダーとキーパーソンの対話(コーチング)の質と量を測定する調査の2つを準備した。小神野氏は、この理想の組織像についても、自分一人で考えるのではなく、タイ人推進リーダーと粘り強く議論を重ね、共に創り上げた。調査により、抽象的になりがちな「組織」の変化を数値化し、測定することに挑戦をした。
対話を通して社員の主体性を引き出す
そしてプロジェクトスタートから1年。小神野氏は「まだまだ道半ばではあります。ですが、以前は私のメッセージが伝わっているかどうか、分からなかったところから、伝わったかどうかや、伝わったことは何で、伝わらなかったことが何なのかが、分かるようになってきました。また、プロジェクトを通じて嬉しかったことは、弊社の推進リーダー達が、自らどんどん進めてくれていること。最近色々なところで、社員同士が話をしています。一方でこれから実現したいのは、推進リーダーを増やし、共感し、主体的に行動する社員達を増やすこと。これが次の挑戦です。難しくも、やりがいのあることだと感じています」と語る。
タイ人推進リーダーのブラニー氏は「形のない、このような取り組みに投資をすると決断をしてくれて、本当に嬉しく思っています。小神野さんには感謝しています」と述べ、アピラック氏は「弊社内でのコミュニケーションが圧倒的に変わりました。今までは社内でコミュニケーションが起きるのは何かトラブルがあった時。それが、そうではない時にコミュニケーションが起きるようになった。トラブルの防止、あるいは、新しい挑戦をすることに向けてのコミュニケーションです。とても新鮮で、可能性を感じています」と話した。
小神野氏は「我々日本人は、数年で入れ替わります。ですが、彼らタイ人社員は残ります。本当の意味で、彼らの会社になったらいいと思うのです。難しいことかもしれませんが、きっと実現できることと思います」と期待する。
2020年1月からは、「Hold in One」プロジェクトのSeason2と称して、プロジェクト第二期が始まった。数年かけて、全社のカルチャーを変える、「日本から、日本人から指示されたことを実施する」ことが当たり前のところから、「自ら提案し、部門、時には会社の枠を越えて助け合いながら実現する」ことを当たり前にしようという取り組みとも言える。
その実現に向けてプロジェクト第二期では、更に3人の推進リーダー、25人のキーパーソンがプロジェクトに参画をすることとなった。
Furukawa FITEL (Thailand) 社の挑戦は続く。
プロジェクト打ち合わせは、熱がありながらも、笑顔溢れる和やかな雰囲気。
筆者は冒頭、「『タイ人社員は、言われたことしかしない。自発性がない。上に物申すということがない』。タイにいる日本人ならば、一度は耳にしたことがある、あるいは口にしたことがあるセリフではないだろうか」と記載した。
インドネシア、マレーシアでも日系企業に取材をさせていただいたことがあるが、そこでも、「インドネシア人社員は・・・」「マレーシア人社員は・・・」ということは多く耳にした。
そんな話を小神野氏にしたところ、「実はあまり、そういう『タイ人だから・・・、日本人だから・・・』という話は好きじゃなくて。一人ひとり違うじゃないですか。我々日本人もそうですよね。勿論、海外は教育水準や環境もバラバラなので、苦労は多いと思います。ですが、社員一人ひとりを見て、その可能性を信じて、共に未来に向かうことが、拠点長である私の役目かな、と思ったりします」との言葉をいただいた。
我々日本人の日々の周囲や部下への見方、関わりが、この地での未来を変え、創っていく。そんな事を、Furukawa FITEL (Thailand) 社の取組から教えていただいたように思う。
このタイで、働き、住んでいる我々には、これから何ができるだろうか。
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THAIBIZ編集部
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