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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2025.04.30
日系大手アビームコンサルティングの現地法人、アビームコンサルティング(タイランド)が4月、急成長するタイの医薬品・ヘルスケア市場についての調査報告を発表している。本レポートは、成長要因や政府の支援策、サプライチェーンの構造などを多角的に分析するだけでなく、販路開拓の手段として注目される医薬品販売受託会社(CSO※)の活用までを取り上げ、外資系企業が市場に参入しポジションを築くためのヒントを明かしている。
※Contract Sales Organization : 製薬企業に代わって医薬品の営業を担う医薬品販売受託会社は日本でも普及が進んでおり、タイ市場では外資にとっての効果的な販売戦略として注目されている。
目次
アビームコンサルティング(タイランド)のレポートによると、タイの医薬品・ヘルスケア市場は、政府の政策支援や医療ニーズの高まり、医療技術の進歩を背景に、急速な成長を遂げている。現在、タイのヘルスケア産業は経済成長をけん引する注目分野となっており、国内外の投資家から高い関心を集めているという。
また、政府も医療アクセスの拡充や医療費の削減、そして東南アジアにおける「医療ハブ」の実現に向け、さまざまな政策を積極的に展開している。
なかでもタイの医薬品市場は、ジェネリック医薬品の推進政策と医療費削減策の後押しを受け、2025年までに69億2,000万ドルに達すると予測されている。政府は医療コストの抑制策として、低価格のジェネリック医薬品の利用促進を図っており、また、遠隔診療(テレメディスン)やオンライン薬局(e-pharmacy)といったデジタルヘルス技術も医療をより身近で効率的なものにしているようだ。
なお、この成長は、国内における需要拡大と供給側のインフラ強化の両面によって支えられている。需要面を挙げると、タイは高齢社会へと移行しており、2023年には65歳以上の人口が13.07%となった。また、医療ツーリズムの主要拠点としても知られており、2023年には国際患者の受け入れ数が286万人に達し、今後も年平均5.27%で成長する見込みだ。このことから、外国企業にとっては、慢性疾患や医療ツーリズムで訪れる患者に向けた製品展開に注力することが有利と言える。
一方、供給面では、タイには国際的な医薬品・医療機器メーカー、政府系メーカー、卸業者、営業代行会社(CSO)などから構成される医療バリューチェーンが形成されており、こうした強固なインフラが医療産業の成長を後押しし、タイを医療ツーリズムの目的地としてさらに魅力的な存在にしている。さらに外資系企業にとっては、販路が確立していることや規制面の支援、商業化に向けたスムーズなプロセスが整っていることから、市場参入のハードルが抑えられていることも大きいだろう。ただし、政府系メーカーがニーズの高いジェネリック医薬品を低価格で製造・販売するため、同様の製品を持つ民間企業にとっては市場機会が制限される可能性がある。
タイ政府は現在、高付加価値の投資を呼び込み、国内のヘルスケア・エコシステムの強化を進めている。輸入依存を抑えるとともに、国内の製造体制を整え、医療産業の自立を促すことが狙いだ。また、高齢化が進む国内の需要に対応するため、高齢者向けの介護施設や病院への支援にも注力。加えて、50歳以上の富裕層外国人に向けた長期滞在ビザ制度を活用し、医療・介護サービスを目的とした外国人の誘致にも力を入れている。
タイの医薬品市場は非常に魅力的だが、新規参入を目指す外資系企業にとっては、投資コストの見極めが重要なポイントとなる。製造や医療サービス分野では多額の初期投資が必要となる一方で、流通やアウトソーシングを活用すれば、比較的低コストでの参入も可能だ。
成功の鍵を握るのは、市場ニーズと競争環境を的確に把握することである。高齢化の進行に伴い、医療やバイオ医薬品分野は今後の成長が期待される一方、小売や流通では競争が激しく、差別化が求められる。
さらに、タイ政府は研究開発(R&D)や製造分野への投資を積極的に支援しており、こうした制度や環境も含めた総合的な評価が、市場戦略を立てるうえで不可欠だ。
タイの医療品市場への参入戦略には、現地法人の設立、M&A、合弁事業、パートナーシップの構築、フランチャイズ契約、輸出など、さまざまな選択肢がある。その選択肢によって、投資コストや経営の自由度、規制の複雑さ、市場へのアクセス、リスク許容、スケーラビリティ(事業の拡張性)といった要素に違いが生じる。投資額が大きいほど自社による管理・運営の自由度は高くなるが、その分リスクや負担も増す。一方、低コストでの参入は、現地パートナーや第三者への依存を伴うケースが多い。市場へのアクセススピード、つまり商業化までの時間軸も、自前でネットワークを構築するのか、既存の流通網を活用するのかによって左右される。
考慮すべきリスクには、財務的な負担、サプライチェーン上の課題、知的財産の保護などが含まれる。また、選んだ参入方法が将来的な事業拡大に対応できるかどうかースケーラビリティ(事業の拡張性)も、中長期的な成功の鍵を握る。
市場参入の一般的な選択肢の一つとして、医薬品会社がよく活用するのが営業代行会社(CSO)とのパートナーシップである。CSOは通常、販売や流通などのサービスを提供しており、市場参入を目指す医薬品会社にとっての戦略的なパートナーとなり得る。実際、多くの医薬品会社がCSOと連携し、販売体制やアフターサービスの最適化を図っている。
タイにおけるCSO市場は、すでに一定の成熟度を持ちながらも成長を続けており、2030年には年平均成長率(CAGR)6%で7,500万ドル規模に達する見通しだ。大手では、営業力・人脈・物流ネットワークに強みを持つDKSHやズーリング・ファーマが市場をリードしているが、バイオファームやベルリン・ファーマといったニッチな製品に特化したローカル企業も存在感を示している。
アビームコンサルタント(タイランド)は本レポートのまとめとして、政府による支援が充実していることも踏まえ、タイの医薬品・ヘルスケア市場は収益性が高く、かつ制度面での支援も充実した魅力的なビジネス環境であると評価している。
最後に、この市場で成功を収めるための鍵は、タイ独自の制度や資源をいかに戦略的に活用するかにあると明記。また、日本企業を含む外資企業は、強固なサプライチェーンの活用、CSOによる主要機能の外部委託、医療ツーリズムや高齢化といった社会的な潮流の取り込みなどを通じて、この市場で、持続性と競争力のある基盤を築くことができると締めくくっている。
THAIBIZ編集部
急成長するタイのヘルスケア市場、商機はあるか 〜アビームコンサルティングのレポートより 〜
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