公開日 2024.01.11
日本とタイをビジネスでつなぐことをミッションに2021年6月にスタートしたTJRI。3年目を迎えた2023年はTJRIにとって大きな実りある1年でした。そこで今回は、弊社代表ガンタトーンに2023年のTJRIの活動の振り返りと、そこから見えてきた日本企業がタイで事業を拡大していく上での課題と将来シナリオについて聞きました。今後の皆様の会社運営のヒントにお役立ていただけたら幸いです。
目次
この1〜2年はTJRIにとって小さな発見をプロジェクトの大きな変革にしようと活動の数をこなしながら、さまざまな改善を行ってきた期間でした。新しいことをはじめる時に大事なことはプロジェクトの収益性よりも目指している「成果」を作り出せるかどうかの検証を確信に変えていくこと。昨年はまさに試行錯誤の1年だったと思います。
数値実績ベースで以下の通りです。
イベント数 38回
イベント参加人数 3825人
投稿記事数 230本
メルマガ配信数 134本
インタビューした経営者の人数 30人(日本人12人、タイ人18人)
私は日本で暮らしていた時に日本語の「反復練習」という言葉がとても印象に残っていました。スポーツでよく使われている言葉ですが、何事も通用する考え方だと思います。
今までやったことのないことをやろうとすると、最初の数回は必ず予想もしていなかったいろんな問題が起きますが、それを乗り越えてだんだん慣れてきます。ルーティン化された仕事でも必ず新たな発見があり、繰り返し改善していくとさらに新たな発見があります。そこで重要なことは、チームのどんな小さな発見も見過ごさず大事にすることです。
タイ企業経営者の方々にインタビューをして感じたことは、タイの経営者は創業者または創業家が多いせいか、世界の経済や動きにとても敏感でたくさんの情報収集と分析をしている点です。大手企業の場合はタイ国内またはタイ企業同士のみで事業をどう発展させていくか考えている方はほとんどいなく、外国企業となんらかの形、例えば資本提携や業務提携、子会社の合弁会社設立、販売代理店契約、製造技術・機械設備のサプライヤーなどで関わることを前提にしています。
日本に対しては、よい印象を持っている経営者も多く、観光地や日本食など文化的な要素だけではなく、日本には「学びになる」「参考になる」ノウハウや哲学、課題解決するための「技術力」や「思考力」を持っていると考えています。
タイでの日本の存在感が大きかった数十年前と比べ、今はパートナーとして選べる企業や国の選択肢が増えました。タイ企業経営者と話をする中で、日本企業もタイ企業ともっと積極的に関係構築をしていく必要があると改めて感じました。
日本をまだ有望な選択肢の一つとして見てくれている今のうちに、タイ企業から「これ、こうしたいんだけど、できる人(日本企業)知りませんか?」と気軽に相談してもらえる、戦略的な対人関係担当者(CRO:Chief Relationship Officer)を設けるとよいと思います。
タイ企業にはGovernment Affairs Officer、つまりタイ政府の専任窓口担当者を設けることが多々ありますが、そのように「タイ政府やタイ企業に対する窓口や広報」的なポジションで、トップの社長から3番レベルくらいまでの決裁権を持つ上層部が理想です。長期的に関係性を構築できる能力があれば、日本人に限らず、タイ人でもよいと思います。
はい、EVAT(タイ電気自動車協会)の交流会とTAPMA(タイ自動車部品製造業協会)の交流会はタイ企業も日本企業も非常に感心が高く、想像以上に反応がよかったです。業界団体の集まりに来るような人は、タイ企業のキーパーソンが多く、日本企業が直接知り合うにはとてもよい機会と手段だということも再認識できました。
タイの自動車部品メーカーは、日本語の媒体でよく報道されているような「中国ひいき」ではなく、むしろ今のタイ政府の恩典では輸入関税0%である限りは中国の自動車メーカーとの商流にどう入り込めるか懸念している傾向にあります。
私の肌感覚では日本の自動車業界の日本人駐在員と同じような考え方を持っていると感じています。タイの自動車部品メーカーは、中国の自動車メーカーが関係部品すべてを自社や中国企業同士のみで完結するような生産体制になってしまうことを恐れており、EVATやFTI(タイ工業連盟)自動車部会を通じて、タイ政府にも訴え続けています。
自分たちの特徴や強みを出して、中国の自動車メーカーと取引を望んでいますが、自社で開発した技術を持っていないため、技術を持っている日本企業とタッグを組めないか期待をしているのです。
さまざまな会話をしている中で、仮に中国の自動車メーカーが世界的に大きなサプライチェーンを構築しようとしている場合、日本企業が直接中国の自動車メーカーとやりとりすることが難しいのであれば、交渉や関係構築がより得意なタイのオーナー企業に中国の自動車メーカーを取りまとめてもらい、そこで受けた仕事を日本の自動車部品メーカーに割り振るというアイデアは新しい一つの連携の形だと思いました。ただ日本企業がタイ企業のサプライヤーになるという心理的課題はあるかもしれませんが・・・
将来はどうなるか誰にもわかりませんが、もしタイが日本の自動車メーカーにとって重要な製造拠点なのであれば、日タイの政府間の政策に頼るだけではなく、日本とタイの自動車部品メーカー同士が仕事以外でも5〜10年後の少し先の未来のお互いのあり方について議論する場、例えばFTI(タイ工業連盟)自動車部会で日系企業のキーパーソンが出席し意見交換するなどあってもよいのではないかと考えています。
ここ数年間はタイにおける中国の存在感は大きいことは確かですが、日本企業は「中国」という国籍にとらわれ過ぎているような気がします。その原因の一つは、日本企業が経済発展の指標にしているマクロ的な数字でしか物差しがないからではないでしょうか。国の経済規模や競争力は人口減少に伴って低下していく今の日本においては、かつての世界経済規模の順位に代わる新たな「評価軸」を持っていないことが根底にあると考えます。
一方タイにとっては、中国企業の進出は捉え方次第で「機会(Opportunity)」となり、例えばCP x Foton、CP x MG、CP x Alibaba(Ascend Money)、PTT x CATL(リチウムイオンバッテリー、車載用世界No.1)、Pornprapha family x BYDなどほとんどがタイの大手企業が合弁や協業の相手になっています。
昨年はEV業界を中心に中国企業のタイ進出が目立ち、流れは「タイを市場として捉えるためにタイ大手と組む」進出から、かつての日本企業と同じように中国の自動車メーカーが独資で会社登録をし、「タイを製造・東南アジアの輸出拠点の位置付けでBOIやEECのインセンティブを使う」進出に変わってきています。これは、50年前に日本企業がやったことを繰り返しているような見方もあると思います。
中国企業よりも何十年も前からタイに進出している日本企業としてタイ企業のやり方を参考にするのであれば、日本企業も中国企業の東南アジア進出を「脅威(Threat)」ではなく、「機会(Opportunity)」として捉え、うまく中国企業と付き合っているタイ企業のように自社の資産は何かを見極めた上で、自社の弱みに対して中国企業が持っている強みをどう活かすかの戦略を立てるべきでしょう。そのためには、タイという地を拠点に多国籍企業と協力し、グローバルに展開するための絶好のチャンスと場所として活用していく、「競争」ではなく「共創」のマインドセットがより必要になってくるのではないでしょうか。
TJRIは日本企業とタイ企業の協創をゴールにしており、それに向けた日本人駐在員の研修や教育の機能も担っていきたいと考え、2023年5月から本格的に日本人駐在員に対する情報発信や自己成長につながる研修機会を設けました。そのご案内もかねて、昨年は約50社の日本企業の経営者と会話をしましたが、会社や業種によって自社の日本人駐在員に対する考え方や扱い方に大きな違いがあり、個人的に驚きました。
「海外赴任」=「自己成長の機会」だと解釈し、会社側もそれを全面的にサポートするものだと勝手な先入観を持っていましたが、全くそんなことはなく、現法の会社の仕組みとして「日本人駐在員の自己成長は自己責任」であり、「作業者として仕事をこなしてもらえればよい」としている企業がまだ多く存在していることがわかりました。
これは、日本本社の事情もあることなので、人事制度を変えることや赴任者への扱い方を変えることは現実的なことではないと理解していますが、全員ではなくても、せめてタイ駐在を何らかの形で自己成長の機会として捉えている30代〜40代前半の若手日本人駐在員の役に立てられるようなことが出来ないかと常に考えています。
そうですね。昨年、梨田大使にインタビューした日に、「JCCには在タイ日本企業の経営者層の交流の場はあるのに、会社の未来を担う30代〜40代前半の公な交流な場がない」ことに対して、これからの日本を担う若手ビジネスパーソンの成長機会となるような交流の場を一緒に作れないかという話がきっかけで実現したのが、「日タイ若手交流会」と「日本人若手駐在員交流会」です。
梨田大使のご好意で過去2回は大使公邸で実施することができましたが、今後もTJRIとして継続していきたいと考えています。帰る場所がない(帰任することのない)タイ人の私だからこそできることがあると。TJRIのネットワークやメディアリソースなどを活用して、若手日本人駐在員同士が「共鳴」するような情報発信や場を設けていきたいと考えています。
駐在員という制度そのものは日本人を「国際人材」に育てるための素晴らしい制度だと思いますが、その「カリキュラム」が今は足りていない。各社が自社用のカリキュラムを設けることや、せめて海外赴任したら日本人が目指す「共通の目標」、例えばわかりやすく目標を数値化し、「自社以外の35歳以上の社会人のタイ人と知り合いになれた人数」などを設けられたらよいのではないかと考えています。
SX2023(Sustainability Expo2023)は、ASEAN最大規模のサステナビリティ関連のイベントです。主催者のタイ・ビバレッジ(ThaiBev)から「グローバル目標となっているサステナビリティをテーマとした展示会にもかかわらず、日本企業は1社も出展していない」ことを聞かされ、何とかしなければと考え、自主的に日本企業に声をかけて出展させたいと思いました。
その結果、サステナブルな新資源である藻類をあらゆる産業に活用し、社会課題の解決に取り組んでいるアルガルバイオ社と衛星データと人工知能(AI)を活用した土壌分析サービスで農業と気候変動の課題解決に取り組んでいるサグリ社の2社の日系スタートアップの出展をサポート。
さらにメインステージでは、アルガルバイオ社及びサグリ社とポーラスター・スペース社(超小型衛星・ドローン等を利用したリモートセンシング技術を活用し、農業をはじめ様々な分野で課題解決型サービスを提供する日系スタートアップ)の3社を招き、セミナーを開催したほか、個別のビジネスマッチングのサポートもしました。
メインステージで開催したセミナーは、Bangkok Postをはじめ、タイのメディアにも多数取り上げられ、タイ人の関心を多く集めました。また、ビジネスマッチングおいても事業連携に向けた動きが進んでいると複数の報告を受けており、「展示会に出展することを起点にビジネスを拡大」させるよい取り組みができました。
タイはMICE産業が盛んで年間を通して数多くの展示会が行われおり、海外からの出展や来場者も多く、BtoBの営業目的というよりは、「マーケティング」よりの考え方で出展する企業がほとんどです。さらにタイの大手企業は、マーケティングに加え、「企業ブランディング」「採用ブランディング」「出展者同士の交流、関係構築」の目的で出展しています。
もちろん展示会への出展は、技術の紹介や販売機会(販路開拓)にもなりますが、日本企業には営業目線だけでなく、もう少しマーケティング目線で、タイでの展示会をぜひ活用して欲しいと思っています。
まず、TJRI全体としては、引き続き日タイの協創のプラットフォームとなることを目指しており、日タイのビジネスならTJRIと言われるまで認知度を高めていくことが目標です。
昨年のビジネス交流会では自動車業界がメインとなっていましたが、今年はさらに業界を広げて開催していきます。そのためにも業界団体や関連企業・組織などとも積極的にパートナーシップを結び、日タイのビジネス機会の創出を加速させていきたいと考えています。
また、メディア事業(TJRIとArayZ)も今年はさらに相乗効果が生まれるように改革します。準備が整い次第、皆様にも報告しますので、ぜひ今後の活動にご期待ください。
TJRI編集部
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