バリュー発揮のために「生の情報を足で稼ぐ」 移り行く環境と揺るがない信念

THAIBIZ No.158 2025年2月発行

THAIBIZ No.158 2025年2月発行日タイビジネス70年の軌跡と未来への挑戦

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バリュー発揮のために「生の情報を足で稼ぐ」 移り行く環境と揺るがない信念

公開日 2025.02.10

日本企業のタイでの立ち位置やビジネス潮流が大きく移り変わる今、「変わらず自社のバリューを発揮し続けるにはどうすればよいか」と悩む日本人駐在員も少なくないだろう。タイ住友商事会社の松尾英成氏は、顧客企業に優れた価値を提供するには「足で情報を稼ぐことが重要」と語る。

一回目駐在時の立場とのギャップへの戸惑い

Q. タイ住友商事会社と松尾さんについて教えてください

Sumitomo Corporation Thailand Ltd.(以下、「タイ住友商事」)は、アジア・オセアニア住友商事株式会社の子会社で、1960年8月に設立され今年で65周年を迎えます。タイでは、鉄鋼、化学品、自動車、インフラ、食品など多岐にわたる分野において事業投資とトレード(貿易)に関わる事業を展開しています。社員は220人弱、うち日本人は24人です。

私は2005年に住友商事株式会社へ新卒入社して以来、一部期間を除き一貫してアルミ製品のトレーディング業務に従事してきました。名古屋、東京、チェコ、タイなど日本国内外で経験を積んだ後、2020年8月に二度目のタイ赴任となりました。

現在私が部門長を務める資源部門は、東京本社の機構改正に伴い昨年5月に新設された部門ですが、メインの取り扱いアイテムは従来と変わらず非鉄金属、中でもアルミ製品が中心です。具体的には、タイに製造拠点を持つ仕入先様のアルミ製品のグローバルマーケットシェア拡大に向けて、タイ国内外にて積極的に情報収集を行いながら、仕入先の皆様とともに戦略立案・実行までを手掛けています。

Q. 一回目のタイ駐在と今回では、どのような違いを感じますか

2009年からの一回目のタイ駐在時はトレーニーという立場での着任でした。当時20代だった私にとって、全員が年上で、日本人駐在員のみならず、タイ人の先輩社員に教えてもらいながら学んだ日々は今の私のベースとなっています。

今回の駐在では、前回駐在時には先輩・上長だったメンバーをリードしていく立場になりました。当時と変わらないメンバーと仕事ができる「やりやすさ」を感じる一方で、新規ビジネス開拓においては難しい部分が大きく、悩む場面が多々あります。メンバー全員の新規インプットを促進しつつ、新たなチャレンジに対して苦手意識を持つメンバーには厳しいことを言わなくてはならない時もあります。

過去の海外駐在経験を通じ、ローカル社員とは現地語でコミュニケーションを図ることが一番だと認識しています。現在は、前回当地駐在時に必死に勉強したタイ語を少しずつ思い出しながら、特にタイ人のみの会議では極力タイ語でのコミュニケーションに努めています。難しさはありますが、自分から歩み寄る努力を怠りたくはないと考えています。

松尾氏(左)とチームメンバー 提供:タイ住友商事

タイを拠点としてグローバルマーケットを切り拓く

Q. 現在のミッションにおいて、苦労している点は

最重要仕入先様であるアルミ製品製造会社は、近年、一気にグローバル化が進み、様々なバックグラウンドを持つ優秀なメンバーがタイ拠点の営業部に所属するなど、刻一刻と状況が変化しています。自社の販路拡大能力を育み続ける会社に対して、われわれトレード部隊としてどのようなバリューを発揮できるのか、常に問い続ける必要があります。

当社が期待されている側面は、アルミ製品の専門知識、人脈、法務・リスクマネジメント関連の知見、そして資金力だと認識しています。私自身、これまでアルミを専門分野としてキャリアを積んできた人間ですから、専門知識や人脈含め自信を持っています。タイ住友商事としてこれまで築いてきたタイ企業や、仕入先様にとっての競合他社などとのネットワーキングも、グローバルマーケットを切り拓くためには欠かせない強みだと捉えています。特に、世界各地の競合の動向に関する情報を有することで、戦略立案や選択肢の増加などに役立てることが出来ています。

当社が持っている強みを最大限に活かした上で、いかに仕入先様のパートナーとして「目に見える形で」高い価値を発揮できるかが常に課題であり、私にとっての挑戦でもあります。

Q. バリュー発揮のために、特に意識していることは

生の情報を自分の足で稼ぐことです。私自身、各所からデータを収集して市場分析を行う「マーケットインテリジェンス」に引けを取らない知見や推察力を有する自負があるのは、世界各地の同僚とともに自ら絶えず動き、キーマンと直接会話しながら世界中で情報収集しているからです。チャンスがあれば、遠方のアフリカやヨーロッパにも躊躇せずに足を運びます。最近では危険地域にも社内承認を取り付けた上で、地元警察同行のもと訪問しました。タイの駐在員でありながら「殆どタイに居ない」と言われることが多いのは、そのためです。

逆を言えば、そこまでしなければ商社のトレード部隊としての価値を発揮できない状況にあると考えています。特に事業投資が中核事業となりつつある商社ビジネスの中で、自社でトレーディングを担う非鉄金属部隊は当社の特徴の一つでもあります。「非鉄金属製品のトレーディングは住友商事には敵わない」と思われる程の働きが求められていると認識しています。

先人が出来なかったことを成し遂げる

Q. 駐在員としての意識の変化は

住友商事グループ全体では「グローバル連結」を謳っており、グローバル全体を一つの大枠として捉えていますが、個人的には、一度目のタイ駐在を含む過去の海外駐在と比べて「タイで働かせていただいている以上、タイのために何かしたい」という、より強い地域貢献意欲があります。ローカル企業との良好な関係を活かしつつ、新規事業の立ち上げにも挑戦中です。

Q. 帰任までの目標について教えてください

非鉄金属関係での新規投資事業立上げに向けた道筋の確立です。タイ住友商事の非鉄金属部隊では20年以上にわたりトレーディング事業をメインとしてきました。その中で先人たちも幾度か新規投資事業等にチャレンジしたと聞いていますが、様々な困難から、結果的には実現できていない現状があります。先人たちが出来なかったことを現在のチームメンバーとともに成し遂げることが目標です。

グローバルでビジネス潮流も大きく変化する昨今ですが、「自社だからこそ出来ること」「自分だからこそ出来ること」を常に突き詰め、最後まで諦めないことが、商社人生における私の在り方だと考えており、今後もこの考えを貫き通していきたいと思っています。


松尾 英成
Division General Manager Mineral Resources Division
Sumitomo Corporation Thailand Ltd.

2005年4月に住友商事株式会社へ新卒入社。入社後は名古屋勤務を皮切りに2015年まで東京、チェコ、タイにて非鉄金属製品のトレーディング業務に従事。その後、同社労働組合勤務、鉄鋼部門での事業会社管理業務を経て、2020年8月より現職。

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THAIBIZ編集部

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