THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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カテゴリー: 対談・インタビュー
公開日 2024.05.10
タイの1970〜1980年代は開発の時代として知られる。全土に高速自動車網が整備され、モータリゼーションが一気に加速した。これをきっかけに国土は発展。工業化に大きく舵を切る。しかしながら、その背後には、取り残されてきたメンテナンスの問題があった。これに取り組むのが総合建設会社の淺沼組だ。
株式会社淺沼組
桑原 茂雄 顧問
株式会社淺沼組 大阪市浪速区を拠点とするゼネコン会社。1692年、柳澤吉保が武蔵野国川越大名となった際に淺沼仁左衛門が同藩の普請方として仕え、以降8代目まで普請方を務めた。1892年、奈良県に淺沼組を創業。1937年、株式会社淺沼組を設立。現在は官公庁建設に実績を持ち、関西をベースに全国展開している。
木下 事業内容を教えてください。
桑原 当社は1892年創業の総合建設会社です。誠実なモノづくりがモットーで、日本ではビル建設を中心に事業を展開しています。
2000年代以降、海外展開を模索。将来性のあるASEAN市場に狙いを定めました。その中でもタイは、大型の幹線道路などの建造物がメンテナンス時期を迎えています。コンクリート製建造物は修繕を行わないと鉄筋が錆び、コンクリートが剥がれてきます。こうしたメンテナンス需要がタイには数多く存在します。
木下 タイでメンテナンスの需要が多く存在する理由は何ですか。
桑原 これまで十分にメンテナンスが行われてこなかったのが一番の要因です。予算の制約などもあったのでしょうが、コンクリート製建造物に対する理解も足りなかったと思われます。加えて、熱帯という過酷な自然環境です。タイ運輸省の調査で、今から40〜50年前に建てられた建造物の半数強は、待ったなしの状況にあります。
すでに予兆は各地で現れています。コンクリートに入るひび割れはもちろん、橋梁などではコンクリート片が剥がれ落ちるケースも見られます。ひび割れから、塩分を含んだ空気や雨水が侵入し、鉄筋を腐食させる事例も少なくありません。さらにバンコクなどの臨海部では、河川の汽水域から侵入した塩化物イオンが腐食を進行させています。
木下 どのようにメンテナンスを行っているのですか。
桑原 老朽化した建造物に対しては、解体と建て直しが従来手法です。しかし、この方法は二酸化炭素を多く排出するばかりか、現場の交通渋滞を引き起こすなど国際社会が取り組むSDGsの姿勢とも合致せず、タイ政府が求めるものでもありません。
そこで当社では、薄くて軽い炭素繊維シートを使って補強を行う方法を選択しました。建て替えをしないため、重機も必要なく、工期も短く済みます。強い紫外線から表面を守るための劣化保護策も施し、耐久性も維持しました。鉄筋を腐食させないために防錆剤をコンクリートの外側から塗布するという対策も行っています。
木下 トラブルや困難はありませんでしたか。
桑原 炭素繊維シートを使用する際に含浸樹脂を添加して繊維強化プラスチック(FRP)とするのですが、輸入品であるため100%の成分開示が必要になりました。しかしながら、100%の成分開示は難しいため、タイ国内での現地調達に切り替えたのですが、今度は求める品質に見合う製品となかなか巡り合えませんでした。現在はどうにか代替品を見つけるに至りましたが、期待通りの効果を出すために、用途と目的に合わせた対応を工夫しています。
木下 JICA事業を活用された理由は何ですか。
桑原 海外の一企業が、詳細なデータを携えてタイのメンテナンス需要を訴えたとしても、タイ運輸省当局は営業セールスにしか受け止めてくれません。担当者レベルでの理解が得られ意識は高まったとしても、意思決定者にまで話が及び、面会に至るケースもほとんどありません。巨大官庁ならではの難しさがあります。
こうした時に、JICAなど国対国の関係が背後にあると、話はスムーズに進みます。説明の機会をいただければ、我々には十分納得いただけるだけのデータとメンテナンスの技術、豊富な経験があります。異国での事業は、国レベルでの人脈が何よりも左右します。
人口の高齢化が進んでいるのと同じように、コンクリート製建造物の老朽化も着々と進行しています。しっかりとした手当を施さなければ、そのつけを背負うのは将来の子どもたちです。定期的な点検→診断→施工のサイクルをしっかりとタイの社会に根付かせ、この国の未来に貢献できたらうれしい限りです。
THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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JICAタイ事務所
Representative
木下 真人 氏
タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]
JICAタイ事務所
31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250
Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html
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