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カテゴリー: 組織・人事
公開日 2025.07.30
グローバル化と市場環境の急激な変化に対応するうえで、いま企業に問われているのは、「どのような人材を選び、いかに育てるか」という点です。特に海外拠点においては、駐在員の役割が変化しつつある中、人材戦略の舵取りがより困難になってきています。
こうした背景のもと、THAIBIZは株式会社マネジメントサービスセンター(以下、MSC)と連携し、初級・中級管理職向けのアセスメントツール「リーダーシップ・スナップショット」を活用した調査を実施。THAIBIZ法人会員(※)である在タイ日系企業の駐在員45人を対象に、その能力とパーソナリティの傾向を分析しました。
その結果、特に“高いパフォーマンスを発揮している”タイ駐在員に共通する特性が明らかになりました。
本記事では、7月8日に開催された分析結果報告会(法人会員限定)の内容をもとに、「戦略人材の見極めと育成」に向けたヒントを探ります。
(※)THAIBIZ法人会員…THAIBIZが提供する有料サービスで、THAIBIZ主催セミナーや交流会に何度でも参加できるほか、タイ企業とのビジネスマッチング支援もご提供しています。
目次
リーダーシップ・スナップショット(以下、LS)は、人材育成、昇進・昇格、人材配置などに活用可能な、初級・中級管理職向けのオンラインアセスメントツールです。受講時間は約40分で、選択式の質問に回答することで、受講者の「リーダーとしての将来のパフォーマンスや成長可能性」を予測します。
具体的には、LSでは「コンピテンシー」と「個人特性」の2領域を診断することが可能です。コンピテンシーとは、リーダーシップ、ビジネスマネジメント、対人関係の3つのカテゴリーに分かれた能力要件で、リーダーシップ行動の発揮が求められる状況下で効果的な行動を知っているかどうか(知っているということは、行動として発揮する可能性が高いと解釈できる)を測定する指標です。一方、個人特性は、「達成指向」「人をリードすることへの意欲」「学習指向」「人脈作り」など、リーダーシップに関わる個々人の特性を指します。
つまり、LSを受講することで、能力(行動)とパーソナリティ(特性)の両面から、「リーダーとして成功する可能性」を測定することができます。
同ツールを活用することで、組織は自社内におけるリーダーシップ適性の高い人材の可視化や、人事施策を検討するためのデータ収集が可能となります。個人にとっても、リーダーとして最も効果的な行動を把握できるほか、成長や行動を阻害している要因を認識することで、自身の能力開発に役立てることができるといいます。
今回の調査は、タイで活躍する日本人マネジャーが共通して持つコンピテンシーと個人特性を把握し、世界や日本のベンチマークと比較分析することを目的に、高いパフォーマンスを発揮している在タイ日系企業の日本人駐在員45人を対象に実施しました(調査期間は2025年1月上旬~2月28日)。さらに、対象者45人のコンピテンシーおよび個人特性の平均を、日本平均(母数:約1,500人)とグローバル平均(母数:約1万6,000人)の比較も実施しました。
受講者45人のコンピテンシー平均スコアを分析した結果、「権限委譲/エンパワメント」「意思決定」「パートナーシップの構築」の3項目が上位を占めました。一方で、下位3項目は「コーチング」「顧客重視」「対立の解消」でした。
この結果について、MSCの営業本部ストラテジックパートナーズ部の小須田氏は「傾向として、組織内外での人間関係の構築が得意であり、ネットワークを効果的に活用していることが挙げられる。また、権限の範囲を明確にしながら、部下に業務を委ねつつ、適切なフォローを行い、明確な判断基準に基づいた迅速かつ効果的な意思決定ができる点も特徴だ。これにより、日本とは異なる環境下でも、業務を円滑に遂行できる強みを発揮していると考えられる」と分析しました。
一方で、課題としては「市場起点で“あるべき姿”を明確化し、課題解決を図る力に改善の余地があると推察される」とし、「メンバーとの関係性においては、相手の立場や状況に応じたアプローチが手薄になりやすく、また、対立や衝突が生じた際に、効果的に対応するスキルの開発が今後の成長において重要だろう」との見解を示しました。
個人特性の結果では、上位3項目は「人脈づくり」「学習指向」「対人関係の精通度」であり、下位2項目は「達成指向」と「自信」でした。
この結果について、同氏は「広くアンテナを張り、情報を収集し、迅速に人間関係を構築し、そのネットワークを維持する能力に長けている点が特徴として表れている。また、支援や協力に対する姿勢が強い傾向も見受けられる」と分析しました。
一方、課題としては「無理をしてまで高い目標を追い求める傾向はあまり見られず、困難な状況においては自信を持ちにくく、精神的な支えを必要とする傾向がある」との考察を示しました。
続いて同氏からは、グローバルおよび日本の平均値との比較結果についての解説がありました。コンピテンシーに関しては、総じて日本のベンチマークデータを上回る結果となりました。ただし、特徴的な点として、「影響力」のスコアが日本の平均値を下回っていることが挙げられます。
同氏は、「これまでのコンピテンシーや個人特性の分析から、関係構築やネットワークの活用には強みが見られる一方で、相手を巻き込む、あるいは利害の不一致を乗り越えて説得し行動を促すといった、もう一段踏み込んだ働きかけには課題が残るのではないか」と推察しました。
一方、個人特性については全項目で日本のベンチマークを上回る結果となり、特に「人脈づくり」はグローバル平均をも上回る高いスコアを示しました。また、コンピテンシーにおける「パートナーシップの構築」も高いことから、同氏は「ネットワークづくりは、タイ駐在員ならではの強みだろう」と考えを述べました。
MSCの小須田氏は、今回の調査結果と日本・グローバル平均との比較考察を踏まえ、「現在のタイ駐在員には、業務調整の枠を超えた“成果創出型リーダー”が求められている」との見解を示しました。
同氏は続けて、「“成果創出型リーダー”に求められる要件は、各社の事業戦略によって異なる。そのため、まずは事業戦略を起点に、ビジネスを推進するドライバーを特定し、それに基づいた人材プロフィールを描くことが重要である」と指摘。「人材プロフィールを構成する要素のうち、“知識”と“経験”は社内に蓄積されたデータを活用できるケースが多いが、“コンピテンシー”と“個人特性”については、LSのようなアセスメントツールの活用が有効である」と解説しました。
最後に、MSCのグローバルビジネス&イノベーション共創推進部 森山氏は参加者に対し、「自社で今後必要となる人材はどのような人材か。その人材に求められる要件は明確か。現在のメンバーの傾向や特性を把握・可視化できているか」と問いかけた上で、「人材の可視化は単なるスキルの棚卸しではない。戦略実行に直結する“攻めの人材戦略”の出発点である」と強調し、報告会を締めくくりました。
MSCは日英対応の多様なアセスメントおよびトレーニングツールを保有しています。一部はタイ語にも対応しており、LSもその一つです。今回の調査では日本人駐在員45人に受講いただきましたが、重要なポジションに就くタイ人社員にも受講してもらうことで、組織全体の傾向がより明確になり、事業戦略を軸とした組織の人材強化の“次の一手”が見えてくるかもしれません。
今回の調査では、“高いパフォーマンスを発揮している”タイ駐在員に共通する傾向が明らかになり、日本のベンチマークよりも高い値も多く見られました。本結果が、日本企業の本社がタイ駐在員を選出する際の一助にもなれば幸いです。
THABIZ法人会員について
THAIBIZ法人会員サービスでは、今回の報告会のように専門家を招いた会員限定の勉強会を今後も開催予定です。本サービスにご関心をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
THAIBIZ編集部
白井恵里子
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