在タイ日系企業におけるスマート工場実現に向けた成功のポイントウェビナー開催レポート

在タイ日系企業におけるスマート工場実現に向けた成功のポイントウェビナー開催レポート

公開日 2024.07.30 Sponsered

THAIBIZは7月10日、リブ・コンサルティング(タイランド)と共催で「在タイ日系企業におけるスマート工場実現に向けた成功のポイントを大公開」と題するウェビナーを開催した。リブ・コンサルティング(タイランド)は、これまでタイでのスマート工場の実現に向けたプロジェクトの支援実績を多数持つ。今回は、そこから見えてきた在タイ日系企業が陥りやすい「落とし穴」とスマート工場実現に向けた成功の秘訣を同社の香月義嗣マネージング・ディレクター(MD)とアソシエイト・パートナーのラリター・ハリタイパン(ミン)氏に解説いただいた。

課題解決の手段としてのスマート工場

昨今スマート工場はさまざまな分野で注目されているが、香月氏によると、「タイでは2019年頃から人件費の高騰に対応するためのソリューションとして注目されはじめ、2020年のコロナ禍においては製造業の稼働率が下がり、コスト削減で早急な事業の立て直しの手段として、さらに2023年からは脱炭素化など環境への対応のため」というようにスマート工場の導入目的も時代ごとに変わってきているという。一方で、「スマート工場の概念や定義は曖昧で取り掛かりにくいという声も多く、今回のセミナーではシンプルでわかりやすく紐解いていきたい」とセミナーの目的を説明した。

まずスマート工場は、「短期的なトレンドではなく、長期的なトレンドであり、近年のタイにおけるメガトレンドを理解する必要がある」と強調した上で、「具体的にはグローバルサプライチェーンでタイの製造業の競争優位性が低下している現状や消費者から求められる持続可能な事業活動、少子高齢化や脱炭素経営、電気自動車(BEV)の浸透による競争環境の変化などの大きなトレンドがある」と解説。

このようなトレンドを踏まえ、日系製造業が生き残っていくためには、課題解決やリスクへの備えが必要であり、その手段の一つとして「スマート工場の導入がある」と述べた。

また、「タイでも近年スマート工場は、流行りの言葉となっており、製造業の90%以上が競争力を高めるためにスマート工場を目指している。特に、①コスト最適化、②経営効率化、③品質向上、④市場対応力­—の4つが求められている」と概観した。

では、どのようなステップで取り組むべきか。香月氏は、「スマート工場のトランスフォーメーションにおいて、3つの段階的なアプローチが鍵となる」(図1)とした上で、「自社がどの状況にあり、目指す姿のステージ(1.0:問題解決、2.0業務改善、3.0革新)を明確にすることでどこから取り組むか見極めることができる」という。

図1「スマート工場トランスフォーメーションの3つの段階」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.
図1「スマート工場トランスフォーメーションの3つの段階」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

また香月氏は、スマート工場を人間に例えて、「普通の人間がサイボーグのようになることと捉えられがちだが、必ずしもサイボーグを目指す必要はなく、必要な部分に必要な機能を導入することでスマート工場になる。“解決したい課題”と“あるべき姿“をきちんと定義して、それと比較しながら、どの段階までスマート化を進めるかを見極めることが大切だ。スマート工場は、あくまで課題を解決する一つの手段に過ぎない。重要なのは、工場の競争力を高めるために、最小限のソリューションによって実現していくことだ」と強調した。

タイにおけるスマート工場の現状と落とし穴

続いてミン氏は、タイのスマート工場の現状について、「日・タイ経済協力協会(JTECS)の調査によるとタイ企業の90%がスマート工場の改革を望んでいる。問題は実際に取り組んでいる企業は、その内の40%で残りの50%は取り組んでいない。さらに取り組んだ内の10%は失敗したという結果が出ている」とした上で、失敗の主な要因として、「①トップダウン方針の曖昧さ、②期待される成果の曖昧さ、③ビジネスではなくテクノロジー主導、④継続性の欠如」を指摘した。

スマート工場実現に向けた成功のポイント

一方で、スマート工場を成功させるための要因としては、「①戦略、②順序、③構造」の3つを挙げた。1つ目の戦略は、まず「何のための変革なのかを明確にすることが最も重要」で、ただ何となく今より良くしたいという理由ではじめると失敗する。根本原因を見つけたら、方針、組織、プロセス、システム—の4つ全てを考慮し、解決策を検討することになるが、その際に最後のシステムはあくまでツールの一つであることを念頭に置いておく必要がある。「最初に方針をどうするかを明確にした後、組織で対応できるか、あるべきプロセスは何かを特定するべき。そうした議論をせずに、システム導入から入るとインパクトがあまりでないばかりか、投資が無駄になるケースが多い」と訴えた。

2つ目の順序で重要なポイントは、何をいつやるかではなく、「どの成果がいつ得られるかの観点から明確な計画を立て、マスタープランを作成すること。短期間で大きなインパクトをもたらすことができるかが鍵となる」と説明。

3つ目の構造は、「長期的な継続性を確保するために、社員が理解して持続的に仕事を進められるかが鍵となる。専任のチームを作ることが重要だが、その際は各組織から影響度の高い人を選任することがポイント」だとした上で、その理由を「影響力のあるメンバーが短期間にインパクトを見せることで、残りのメンバーがフォロワーとして動いてくれるためだ」と付け加えた。

具体的なアプローチとタイのスマート工場の事例

また、ミン氏はスマート工場の実現に向けた具体的なアプローチとして、同社が実施するマスタープランを紹介。このマスタープランは、「縦軸にレベル1〜5のステージ、横軸に4つのスコープ(作業領域)をマトリックス化(図2)することができる」とした上で、「重要なのは、すべてを100%達成する必要はなく、各工場によってインパクトが大きい部分を必要なレベルにもっていくこと」と強調した。

図2「LiBが提唱するスマート工場化のマスタープラン」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.
図2「LiBが提唱するスマート工場化のマスタープラン」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

ステージのレベル1(データ収集)、2(視覚化)は、スマート工場の導入をはじめた工場でよく見られるレベルだが、効果を得るにはレベル3(分析とコントロール)が必要だという。レベル4(最適化)はリソースを最も効率的に利用できる仕組み、さらにレベル5(オートメーション)はシミュレーションで最適化でき、これはAIの普及によって可能になったステージだ(図3)。ただし、タイの工場ではレベル3までで十分という回答が7割にのぼるという。

図3「スマート工場化のマスタープランの各ステージの取り組み」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.
図3「スマート工場化のマスタープランの各ステージの取り組み」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

スコープについては、主に最近のトレンドとなっている生産、サプライチェーン、製品ライフサイクルチェーン、カーボンニュートラル—の4つが挙げられるが、タイでは、「生産」と「サプライチェーン」での改善が集中しており、「製品ライフサイクルチェーン」については、タイでは開発をしていない企業が多いため、あまり議論に上がらないという。カーボンニュートラルについては、各社の目標は異なるが、生産とともに実施されることが多い(図4)。

図4「スマート工場化のマスタープランの4つのスコープのゴール設定」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.
図4「スマート工場化のマスタープランの4つのスコープのゴール設定」出所:LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

マスタープランで重要なのは、「全てに着手するのではなく、自社にとってインパクトの高いエリアを選択してから改善すること。あるべきプロセスを考えて、どのような方針、組織、プロセスが必要なのか、さらにその3つを包括的にサポートできるシステムがどういうものなのか、順番に決めることで成果が出る」とした上で、「ステージ1(データ収集)と2(視覚化)を行なっただけでも効果が見られた事例もある。データを可視化するだけでもコミュニケーションギャップを減らし、経営判断を迅速に行うことができるようになる。ソリューションに頼るのではなく、プロセスからしっかり考えることが肝となる」と改めて強調した。

まとめ

最後に香月氏は総括として、「スマート工場を成功に導くには、現場の実態を理解し、目的を明確にして意思決定をすること。また、本セミナーで解説した内容は現場で活躍しているタイ人に伝え、共通認識を作ることが不可欠」と述べた。一方で、「製造部門だけを見ていると小さな意思決定しかできなくなるため、その他の部門や顧客、サプライヤーなどあらゆるステークホルダーとの連携を強化し、期待値や課題を明確にすることが重要。ITソリューションなどの解決策はたくさんあるが、まずは上流でしっかり戦略を設計し、それに必要な最小限のソリューションを導入することが、長期的な競争力を向上させるための投資対効果の高い業務改革になる」と締め括った。


LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd. コンサルタント紹介

香月 義嗣 氏

Managing Director, LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

東京大学工学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。2012年からリブコンサルティングにて勤務。東アジア・東南アジア各国で約180社、270プロジェクトのコンサルティング実績、約1万人への講演実績を持つ。2006年~2017年まで韓国・ソウルに駐在後、2018年よりタイ・バンコクに駐在。趣味は、マラソン・サッカー・飲み会幹事。著書に『アジア進出企業の経営「成功のメカニズム」(2023年3月出版 / プレジデント社)』、『日本企業が韓国企業に勝つ4つの方法(中経出版、日本語)』がある。

Dr.Lalita-Haritaipan(Min)_LiB

ラリター・ハリタイパン(ミン)氏

Associate Partner, LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

文部科学省の奨学金を受け日本に留学、東京工業大学工学部卒業、同大学工学院機械系修士・博士課程を修了。日本機械学会畠山賞を受賞。リブ・コンサルティング・タイでは、主に製造業のスマートファクトリーやコストダウン支援をリードし、モビリティ業界の将来シナリオ・新規事業開発を担当している。講演履歴:EVAT(タイ電気自動車協会)、TAPMA (タイ自動車部品協会)、FTI(タイ工業連盟)

金谷 泰佑 氏

Director / Client Representative, LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd.

東京大学文学部卒業後、大手物流企業に入社。内部統制や子会社管理等に携わった後、主に国際物流分野にてAPAC地域の法人営業の企画・推進に従事。2017年より豪州、シンガポール、2018年~2022年までタイ・バンコクに駐在。タイにおいて日系自動車関連、電機メーカー等への国際輸送や倉庫、配送に関して幅広い支援経験を持つ。2024年よりリブコンサルティング・タイランドに入社。

THAIBIZ編集部

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