

公開日 2026.10.09


マツダ・セールス・タイランド
COO
サラーウット・バンヨンクン 氏
Mr. Sarawut Bunyongkul
マツダ・セールス・タイランド勤務歴25年。アフターセールスやカスタマーサービス部門などを長年担当し、顧客サービスの向上に携わってきた。
「お客様を誠実にサポートする」。マツダが守り続けてきた姿勢だ。その真価が問われるのが、ショールームや整備工場など顧客と接する現場である。過去12ヶ月に正規サービス工場を再訪した顧客の割合は92%を誇り※1、うち車齢7年超が40%を占める(図表3)。長期にわたる高いサービス継続率は、保証期間が終われば離れるというタイ市場の通念とは対照的だ。今年1~8月の新規登録台数も前年同期比6.1%増というデータもある※2。何が顧客を離さないのか。事業運営を統括するCOO、サラーウット・バンヨンクン氏に聞いた。
参考
※1:ロントゥンマン「マツダのサービス・リテンション92%の舞台裏を読み解く」(2026年3月27日)
※2:タイ運輸省陸運局


COOのサラーウット氏がマツダ・セールスに入社しておよそ25年。顧客フォローやアフターサービスの現場から始まり、マーケティング、商品企画、営業、部品事業まで経験し、現在は事業運営全般を統括する。顧客の高い継続率を支える理由として、同氏は「まず何よりお客様自身が当社のアフターケアの継続を希望しているからだ」という。マツダを選ぶ人の多くは、購入後の定期的な整備サービスや修理時の品質の良さを重視している。そのため、保証期間が終わっても同社との関係が途切れにくい。
さらにもうひとつ、同社のサービス品質の根底にあるのが「マツダ・ファミリー」という、顧客を単なる購入者ではなく、家族の一員のように捉える考え方だ。たとえば、再購入する顧客には優遇サービスを用意し、整備費など維持にかかる費用を見通せる仕組みをつくり、予想外の出費への不安をなくす。さらに全国どこのサービス工場でも同じ基準で対応できる体制を整えている。「お客様が安心して快適に車に乗り続けられることを第一にする」と、サラーウット氏は語る。こうした購入後の安心感が、顧客と長く信頼関係を築く秘訣である。
全国どこでも同じ水準の対応を実現するには、本社と現場が同じ方向を向いていなければならない。ここが、サラーウット氏が長く携わってきた分野だ。マーケティングから商品企画、営業、アフターサービスまで幅広い現場を経験してきたからこそ、本社の判断と販売店の実情とのずれにもいち早く気づくことができる。
「当社は販売店を重要なパートナーと捉えている。販売店なくしてマツダは存在しえない。われわれの成功は、彼らの成功から生まれる」。同氏がモットーとする考え方である。販売やサービスの方針を決める際には、まず販売店の意見を聞く。現場で機能しないだろうと思われる施策は、本社に持ち帰って見直す。トップから一方的に指示を出すのではなく、本社と現場をつなぎ、双方向で意見を活発に交わす。こうして対話を深めることが自らの役割だと説明する。
一方で、長年築いてきた関係が試される局面も迎えている。マツダのショールームは、かつて120拠点を超えていたが、現在はおよそ80拠点まで減少しているのだ。その一因は、一部の自動車メーカーが既存の日系メーカーのショールームに看板のかけ替えを働きかけていることにある。新たに販売網を築くよりも、短期間で展開できるためである。こうした動きが日系メーカーの低調に少なからず影響を与えている、とサラーウット氏も認める。
だが、マツダとこの先もパートナーシップを組むと判断し、残った販売店も少なくない。その販売店の中から、新たなショールームの開設を決めた例もある。「現在残っている販売店こそ、マツダと長期的に歩む真のパートナーだ」と同氏は語る。
本社と販売店をひとつの「One Mazda」ととらえ、長期的かつ強固な結びつきを築く。全国で同じ販売条件を採用するのも、どの販売店で購入しても変わらないサービスを受けられるという顧客の安心感へつなげるためだ。自動車産業再編の時代だからこそ、同社のこうした指針を理解し、ともに歩む販売店との関係を築き直す時期と見ている。


75年の歴史が示す通り、タイでのマツダの歩みはさまざまな局面があった。主力モデルの「MAZDA2」、「MAZDA3」では高い評価を得てマツダのプレゼンスを一気に高めた。さらに同社の先進技術「スカイアクティブ」を搭載するSUV「CX-5」の世界的な成功は、記憶にも新しいだろう。こうした成功を支えてきたのは、その時々の市場ニーズに応えながらも、デザインや走る楽しさといった「マツダらしさ」の追求にある。
そして今、自動車市場は再び大きな転換期を迎えている。世界的にSUVへのシフトが進み、電動化が加速するなか、今年3月には新型EV「MAZDA6e」をタイ市場に投入。提携する長安汽車とプラットフォームを共有しながらも、「マツダのDNAを保つため、全面的な調整を施した」とサラーウット氏は強調する。
市場の変化に合わせて製品を変えるだけではない。日本本社に現地社員を派遣し、安全性や高電圧システムに関する研修を実施するなど、EV時代を見据えた人材育成にも取り組んでいる。さらに、バンコクの部品倉庫ではEV用部品を保管し、何か問題が生じた際にも素早く対応できる体制を整えた。
マツダが目指すのは、顧客満足度で業界をリードする企業だ。優れた車を届けるだけでなく、その後のカーライフまで支え、より良い人生の体験につなげる。そこに顧客がついてくるのだろう。高い継続率の答えである。
本社の考えを販売店が理解し、均一水準のサービスを提供する。顧客が何度もマツダ車に乗ることを選ぶ。こうした循環も、支える人がいなければ機能しない。サラーウット氏自身が、その好例である。なぜ25年もマツダひと筋で働いてきたのかと問うと、「マツダが大切にしてきたことを知るうちに、自然と生まれた結びつきだ」と答えた。最大手のメーカーというわけではない。それでも顧客に最良の価値を届ける志があり、その思いが従業員の間で受け継がれてきたという。
アフターサービスの現場から、全社を統括する立場へと歩んできたサラーウット氏自身のキャリアも、目の前の成果だけではなく、長期的な関係性を大切にするマツダの姿勢を体現している。
ファミリーの一員として長年乗り続ける顧客、競合の誘いを断り、マツダとともに歩む販売店、長年同社で働く従業員。三者に共通するのは、マツダが示すアイデンティティへの共感だ。長く付き合うことに価値を見出しているのだ。「お客様を誠実にサポートする」という約束は、単なるキャンペーンに掲げる言葉ではない。日々、現場が真摯に向き合い、示し続けてきたものだ。これは短い期間では決して築けない強さである。


THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 杉浦亜希子





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