自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」〜価格競争ではなく、顧客との絆で勝負する

THAIBIZ No.178 2026年10月発行

THAIBIZ No.178 2026年10月発行自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」

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自動車激変時代に光る、マツダの「信頼経営」〜価格競争ではなく、顧客との絆で勝負する

公開日 2026.10.09

中国EV時代、日本ブランドはどう戦うべきか

タイでは日系のシェア低下が止まらず、中華系の躍進が注目されている。日系としては、長年築いてきた品質への信頼やブランド、サービスを守る「守りの戦略」に加え、自らの「強み」を再定義する「攻めの戦略」が欠かせない。本稿では、マツダの反攻策から、日系の勝ち筋の手がかりを探りたい。

OPINION LEADER:NRI Consulting & Solutions (Thailand) Co., Ltd.

Principal/山本 肇 氏

シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラーロンコーン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

Tel:02-611-2951
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タイの市場動向と中華系躍進の要因

ブランド別販売※1をみると、日系ブランドのシェアは、2020年の85.4%から2025年末時点で69.0%まで低下(図表4)。それに対して、EVの販売台数の伸びにより中華系ブランドの市場シェアは2025年に22%まで拡大し、今年7月時点では全体の3割近くに迫る。なかでもBYDは約7%に達し、トヨタ、いすゞ、ホンダに次ぐ第4位まで上り詰めた。

図表4 タイ新車販売のブランド別シェア

中華系EVブランドがタイで躍進する最大の要因は、「新しい低価格車」を投入したことである。日系車を3割下回る価格ながらも、広いディスプレイと360度カメラを搭載したスマートコックピット、先進運転支援システム(ADAS)機能、コネクテッド機能などを備え、「技術の民主化」を先導した。これにより、EVの初期普及段階で「新しいもの好き」や富裕層が購入した。

2つ目は、ランニングコスト・メンテナンスコストが安く、「節約志向」の中間層での普及が進んだことである。街乗り中心のユーザーであれば、自宅充電により充電代が安く、ガソリン車の3分の1以下におさまる※2。ホルムズ危機による燃料高騰もEVへのシフトを後押しした。

3つ目は、「迅速な製品の展開力」である。2年間という短いモデルサイクルで、次々と新モデルを投入し、ラインナップを拡大。例えば、BYDは「高級志向」の顧客に向け、2024~2025年に高級乗用車「Seals」、高級SUVの「Sealion7」、DENZAブランドのMPVなどを矢継ぎ早に投入した。今年3月にも4つの新モデルを公開している。一方、日系はモデルチェンジや新モデル投入に4~6年近くかかり、トレンドに敏感な顧客層からは「時代遅れ」とみなされた。

4つ目は、中華系ブランドが、タイ政府のEV奨励策を最大限活用し、拡張路線をとったことである。EV奨励策や中国からのEV輸入免税措置を利用し、大量の車とモデルを一気に国内で展開、値下げ競争という新しい競争ルールを作り上げた。

特にシェア4位以下の日系ブランドは最も打撃を受けた。マツダは2018年の6.5%から2025年には1.2%に、台数では6万6,000台から8,000台へ減少した。最大の人気モデルであったエコカー「MAZDA2」のモデルチェンジが10年行われていないことも大きい。では、マツダはこの厳しい市場環境にどう向き合っているのか。

参考
※1:ブランド別販売データは、登録ベースのため販売台数と異なる。
※2:家で普通充電すれば、1キロワットアワーあたり4バーツとすれば、100キロメートルあたり60バーツ程度で走るのに対して、燃費25キロメートルのICE車であれば100キロメートルあたり126バーツかかる。

マツダから学ぶ日系ブランドの勝ち筋

①「パートナーとの絆」と「現場力」

筆者はマツダのディーラー店舗の経営者との対話を通して、日系の勝ち筋の示唆を得た。マツダのディーラーを訪問して痛感した強みは、日系ブランドが長年かけて磨き上げた「パートナーとの絆」と「現場力」である。中華系のEV旋風のなかで生き残ったディーラーは、店舗経営が強固なうえ、長期的な関係を重視する「マツダ・ファミリー」の意識が強い。顧客に対しても平日の朝7時半から開店し、ガラス張りのサービス待合室から整備中の車を見られるなど「おもてなし」を徹底している。

保証期間が終わってもサービスや点検で戻ってくる顧客は50%に達し、実際に現場を見てみると、平日の入庫は1日40台、14のサービスベイは満杯である。サービス収入で、店舗の経費や人件費を補填できているという。長年事業を続け、既存顧客を多く抱えるからこそできることである。これに対して、中華系ディーラーは、歴史が浅く、メーカーや顧客との接点も少ない。新車が売れなくなれば、入庫が少ないために、経営的に厳しくなるのが落ちだ。

マツダ販売店のサービス待合室

②「個性」を訴求するブランド価値経営

マツダブランドの最大の強みは、「個性」にある。その「個性」とは、マツダの独自の足回りとシャーシ設計による走りにある。そして他社にはない「ワインレッド」をフラッグシップカラーに選んでいる。他のブランドでは特殊な色の車は中古価格が落ちるが、ディーラーによると、マツダ車の場合は他ブランドと違うことを理由に買う人が多く、価格が落ちにくいとのことだ。マツダが掲げる「ブランド価値経営」は、その顧客対象層を絞りながらも、ロイヤルティの高い顧客にその「個性」を訴求することで成り立ってきた。

タイでの売れ筋は、エコカーの「MAZDA2」や小型SUVの「CX-3」であったが、中華系の仕掛ける新しい競争ルールの下で最近は苦戦を強いられた。しかし現在、2つの大胆な反攻策によって、マツダへの注目が高まっている。

③マツダの反攻策

1つ目に注目される動きが、今年3月に発売を開始したEV「MAZDA6e」である。最近のマツダの販売台数の半分を占めている。販売価格が117万バーツであり、100万バーツ以下の中華系よりは高いが、130万バーツ以上する日系より安く、人気に火が付いた。「6e」は中国の合弁先・長安汽車のプラットフォームをベースにマツダが内外装をデザインしているが、元々のモデルを想起させないほど差別化されている。これは中華系メーカーの強みであるコスト競争力や開発力を活用しながら、日系の強みである品質やブランドへの信頼を兼ね備えることで勝ち得た。

中華系メーカーの強みを自社に取り込み「同質化」しながら、マツダの個性である質の高い走りを実現するため、ねじ1本まで徹底的にこだわり「差別化」するという二面戦略である。もっとも、同モデルは中国からの完成車輸入であることから、現地のサプライチェーンの発展や雇用には貢献しないという批判は覚悟の上でだろう。しかし、EVを購入する新しい顧客層のマツダへの注目度を高め、ブランド価値を上げ、次の手に備える戦略として欠かせなかったのだろう。

新型EV MAZDA6e

そして2つ目の反攻策は、74億バーツを投じて、来年以降に予定されているMHEVの10万台規模の生産拠点化である。CX-3の後継車とされる小型SUVをタイを唯一の生産拠点として世界中に輸出し、タイに量を寄せる「選択と集中」を展開する。地域を超えた集約化を進めなければ、量産効果を誇る中華勢の攻勢には対抗できない(図表5)。

図表5 マツダの反攻策

新しい競争の時代における二面戦略

日系が幅広い顧客層向けに多様なモデルを販売し、高いシェアを競い合う時代は終わった。マツダのディーラーの幹部は「中華系のEVを購入する顧客と日本の車を購入する顧客は、淡水魚と海水魚のように違う」と言う。

日系としては、マツダのように「個性」を強調し、品質、サービスを掲げて顧客を取り込む「差別化戦略」が欠かせない。しかし、日系が全技術分野で優位に立てる時代も終わった。EVのような日系にとって新しい領域では、中華系の「強み」を自社に取り込む「同質化戦略」も選択肢の一つになることを示している。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 杉浦亜希子

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