ArayZ No.146 2024年2月発行タイ自動車市場〜潮目が変わった2023年と日系メーカーの挽回策〜
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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, 特集
公開日 2024.02.10
みずほ銀行バンコック支店メコン5課が発行する企業向け会報誌『Mekong 5 Journal』よりメコン川周辺国の最新情報を一部抜粋して紹介
目次
2023年は観光などコロナ禍で落ち込んだ産業が共通して復活を遂げる一方で、EVの浸透や製造業の製品多角化などコロナ前に戻るにとどまらない発展も各地で垣間見えた。今後は財政状況や投資誘致施策など各国固有の事情を背景とした、より個別性の高い経済成長模様が見られるであろう。
23年及び24年のメコン5各国GDP成長率見通しは各国ともにコロナ前の水準へ回復するという予測であるも、細かくみると23年の成長率は昨年予測未達になるなど、自国の事情だけでなく大国経済の影響を受けやすい地域であることも伺える。
本特集では、メコン5各国の23年を、経済動向、各国独自のトピックをもとに振り返るとともに、24年は各国がどう成長し、何が課題となるのかなどについてメコン5編集室のメンバーが解説する。
21年2月の政変以降、非常事態宣言が今も尚発出され不透明な政治・経済情勢が継続しており、23年8月までに実施すると公約されていた総選挙は国内の治安悪化を背景に延期となった。23年10月27日にはミャンマー北東部の少数民族武装勢力による国軍への一斉攻撃が発生。この戦闘の広がりにより、政治・経済情勢の先行きは更に見通せない状況となっている。
また、国内紛争により国境貿易は停滞し、輸出不振に伴う貿易赤字の拡大や輸送路の封鎖に伴う物流コストの増加でインフレ圧力が強まっている。貿易赤字の拡大に伴い外貨調達環境は厳しさを増しており、医薬品等の輸入品の在庫不足や燃料調達が市内で困難になる等悪影響を及ぼしている。係る中、23年10月に国軍は国外で働くミャンマー人労働者から徴税を行うことを発表するなど新たな外貨収入源の確保を狙った動きも出てきている。そうした結果、23年12月12日に世界銀行はミャンマーの23年度(23年4月~24年3月)の実質国内総生産(GDP)成長率は1%にとどまるとの見通しを示した。
24年度のGDP成長率は2%になる見通し(世界銀行)。国軍による全権掌握から間もなく3年となるが、政治的な混乱が長期化する可能性を否定できず、外貨不足に伴う外貨管理規制も当面継続もしくは更なる引き締めに動く公算が高いことを踏まえると、引き続きミャンマーでの事業環境は厳しいと想定される。また、足許ミャンマーから事業撤退を進める日系企業の動きは限定的と考えられるが、今後の投資環境の改善を見通せない中、制裁等の外部要因、燃料調達難、安全面、政変の長期化によっては、投資計画の先送りや既存ビジネスの一部中断・縮小、或いは周辺国への移転・撤退といった経営判断も選択肢の一つとなり得る。
22年4月にミャンマー中央銀行(Central Bank of Myanmar、以下CBM)より発出された海外送金の事前承認や外貨の強制的なミャンマーチャット兌換(実質固定相場)を柱とする新外貨管理規制が継続運用されている。外貨調達難が企業の事業活動にも影響を与えており、特に内需型ビジネスの企業は外貨が調達できず原材料の輸入が滞り生産を維持できないなど厳しい状況が続いている。一方で、23年6月にCBMは銀行を通じて外貨売買を希望する取引をオンラインで報告・承認する仕組み、通称「オンラインマッチング」を新たに導入。このシステムを通じてCBMは事前に個別の為替申請1件1件の必要性やレートの適切性を確認し承認している。
23年12月には、オンラインマッチングにおける為替レートをCBMが設定せず、売り手と買い手で自由に設定できる旨の新たな通達をCBMが発出。これにより、市中レートに近い水準での為替取引が行われ始めている(実際の運営では、USD1=MMK3,500を超えるレートでの取引申請はCBMが否認しており、行き過ぎたチャット安水準での為替取引を防ぐため管理を継続している模様)。
外務省が公表している「海外進出日系企業拠点数調査」によると、22年10月1日時点の日系企業拠点数は540となっている。政変前の20年をピークに拠点数は微減しているが、多くの日系企業が急激に撤退へ舵を切っている訳ではないことがわかる。他方、JETROの在ミャンマー日系企業を対象としたアンケート調査(調査時期:23年8月21日~9月20日)によると、全体の約70%程度が今後の事業展開について「拡大」または「現状維持」と回答している。政治不安やそれに伴う金融規制により事業活動の制約を受けながらも、その進退については引き続き状況を注視するとしている日系企業が多いと考えられる。
23年はラオスにとっては外部環境要因の影響を大きく受けた一年であった。
まず経済活動について見ると、中国を中心とした大国の経済活動低迷の影響により輸出が伸び悩んだうえ、食料・燃料といった日用品輸入物価の高騰も相まって、国民所得への打撃とともに、国家としての外貨準備高の低下懸念も引き起こした。更に、エルニーニョ現象による降水量減少は、一過性ではあるものの主力産業である売電収入の低下とともに電力輸入負担をもたらした。
上記の影響を受けて、もともと収入に比して水準の高さが危険視されていた対外債務が、年平均25%程度の自国通貨安によりGDP比の債務はついに100%を上回り、これらは全て、国家としての外貨準備を低下させ、緊縮財政を引き起こした。
緊縮財政は短期的にはデフォルト不安を後退させるものの、思うように対外直接投資の呼び込みや人的資本への投資といった将来の産業育成につながる前向き施策に資金を投下できず、FDIの不調、そして働き口の伸び悩みを経て産業停滞により直接的な税収停滞にもつながるため、中長期的には解消すべき課題と言える。
更に23年度は上記に加えて恒常的な通貨安・外貨準備の流出に起因するインフレが前年同期比20-30%のレベルで起きてしまったため、タイを中心とした出稼ぎ労働が助長され、国内の労働力不足を引き起こしており、冒頭で述べた輸出伸び悩みの一因ともなっている。これも「タイ・プラスワン」や「ベトナム・プラスワン」といった雇用創出力の高い投資需要を取り込んで高度成長を遂げたいラオスにとって、成長率を制限してしまう頭の痛い課題になっている。
直近2年続けて財政および国民生活を苦しませてきたインフレについては、大国・周辺国のインフレ圧力の弱まりを受けて15%程度に収まる予測が立てられている。加えて近年取り組んでいる徴税効率の向上や国営企業向けを中心とした債務の厳格管理がうまく成果を生み出すことができれば、前向き施策の実施、産業の育成、歳入の増加による再投資、といった順回転の成長ストーリーを想定することも可能である。
特に24年、ラオスはアセアン議長国に就任するため、世間から注目を集めるチャンスである。「Visit Lao Year 2024」と銘打ったキャンペーンによる短期的な観光特需も期待されるが、これを機にラオスが誇る豊かな自然資源が観光やクリーンエネルギーといった観点から投資機会と捉えられ、持続可能性の高い投資が増えるよう期待したい。
ラオスは債務償還スケジュールを公表しており、21年より年間10億USD超の既存債務の返済+利払いが予定されていた。しかし21年・22年の実績を見ると、元本の返済や利払いの額がスケジュール通りに履行されていないことが分かる。この大半は対外債務の約半分を占める中国を債権者としたリスケジュール交渉が奏功した結果と見られている。いずれにしてもコロナ禍後、本格的にデフォルト不安が囁かれてから数年間凌ぎ続けてきたことは事実であり、今後もこういった延命策が、重要なファクターであり続けることは間違いない。
GDP成長率は5.6%(IMF)と昨年の成長率を上回る見込み。特に観光を含むサービス業についてはコロナ前の旅客数には届かないものの、前年比のGDP成長という点において大きく貢献した。対照的に、これまで観光に次いで成長を牽引してきた縫製業と建設業は、23年の成長に寄与することができなかった。
縫製業は、昨年・一昨年といち早くコロナ禍からの回復を遂げたものの、もともと加工貿易が中心で 最終需要地である欧米市況の影響を受ける構造になっており、23年は若干の前年比マイナスとなる見込み。更に建設業については20年以降ほぼ横ばいで成長を牽引出来ておらず、国内の建材需要の落ち込みが輸入量の減少という形で表れている。
注目すべきは電子部品や自転車、自動車部品、プラスチックなどその他の製造業で、観光業とともに成長牽引ドライバーとなっている。実際、21年10月に施行された新投資法でも製品多角化の意図が 見られ、海外直接投資(FDI)も伸長している。カンボジア開発評議会(CDC)によると、23年の9月までに認可した新規のFDI事業191件のうち製造関連事業は175件で、前年同期の132件から約33%増加。主な投資先は、鉄鋼や自動車用タイヤ、セメント、段ボール、電気・電子(E&E)製品などで、縫製や履物などこれまでの主力製品と異なる製造業が目立つ。その結果、輸出総額に占める縫製品の割合は2000年は91%と圧倒的であったが22年には62%まで低下している。
引き続き観光を含むサービス業・その他製造業が牽引し、GDP成長率6.1%の見込み。基本的には23年の経済動向と同じような動向が予想されるが、課題としては、構造的な主要輸出国依存傾向が挙げられる。輸出先上位5ヵ国で輸出総額の75%を占めており、欧米諸国・中国といった大国の景気下振れリスクや地政学リスクが一層高まった場合、国全体に対して与える影響は大きい。更に、歴史的に「ドル化経済」となっているため、金融政策の自由度が乏しく、米国にて想定以上に金融引き締めが長期化した場合、国民の生活実態とはかけ離れた意図しない金融引き締めをせざるを得なくなるリスクをはらんでいる。
23年には7月23日に5年ぶりとなる第7回下院議会選挙(総選挙)が実施された。投票率は84.6%で、与党である人民党が総投票数の82.3%を獲得した。この結果、人民党は125議席中120議席を占有し、残りの5議席を第一野党のフンシンペック党が獲得した。
選挙の結果を受け、40年近く首相を務めたフン・セン氏に代わり、長男のフン・マネット氏が後継首相として選任された。フン・マネット首相は直近まで陸軍総司令官であり、これまで政治の表舞台に出てきたことが無かったが、就任以来精力的に外交活動を展開しており、12月には日本でJETRO・みずほ銀行等により共催された投資セミナーにて基調講演を行うなど、日本企業への期待がうかがえる。
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