THAIBIZ No.151 2024年7月発行スマートシティ構想で日タイ協創なるか
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2024.07.10
タイ国内のみならず、海外でも多大な影響力を見せる財閥系コングロマリット。在タイ日系企業にとって、その動向は見逃せない。本稿では、平日の平均利用者数が約59万人と、市民の足として欠かせない存在であるBTSスカイトレインを運営するBTS Groupを取り上げる。大量輸送事業をはじめ、広告、デジタルマーケティング、金融、小売へと事業拡大させているタイ有数のコングロマリットである同社の事業多角化の現状と今後の方向性について解説する。
BTS Groupは1968年にTanayong Company Limited という不動産開発業からその歴史が始まる。
1992年にバンコク都とバンコク初の大量輸送システムの設計、構築、運営を担うコンセッション契約を締結したことで、主要事業を鉄道事業へと転換していった。1999年にバンコク初の鉄道であるグリーンライン開通後、ゴールドライン、ピンクライン、イエローラインの新設による鉄道事業を主軸として、出資、買収を繰り返しながら、バス、船、空港などの非鉄道事業、広告メディア業、小売業、飲食業、金融業へ事業の多角化を進めている。
具体的には、2009年に広告業であるVGI PLCを買収(2012年にタイ証券取引所へ上場)、2015年には、不動産開発業の強化を狙い、U City PLCに35.6%出資。2018年には子会社VGIを通じた、タイの配送業リーディングカンパニーKerry Expressへ23%出資(2024年3月現在はBTS Groupによる2.96%出資)。2020年にはBTS Groupが出資するJV(BTS Group40%、Thai Airways40%、STEC20%)がタイ第三番目となるウタパオ空港のPPAを受託し空港事業へも参入している。
同社は、2021年度に主要事業を大量輸送事業である「Move」、広告およびデジタルサービス、小売業である「Mix」、不動産開発と他業種とのJVによるパートナーシップ事業である「Match」の3事業に整理した際、10年単位での企業としての方向性を以下の様に定義している。
初期の10年(2001〜2010年)はパイオニアとしての鉄道建設、今までの10年(2011〜2020年)は鉄道事業、広告事業の拡大、これからの10年(2021〜2030年)は同社保有のプラットフォームを基盤としたシェアリングエコノミー推進である。
Move事業は、BTSスカイトレイン事業である鉄道事業と、バス、船、空港、高速道路事業である非鉄道事業で構成される。BTSスカイトレイン事業は、1999年に運行開始したコアグリーンラインであるスクンビットライン(Mochit-On Nut間)とシーロムライン(National Stadium-Saphan Taksin間)以降、グリーンライン延長、ゴールドライン(Krung Thon Buri-Khlong San間)、ピンクライン(Khae Rai – Min Buri間)、イエローライン(Lad Prao – Sam Rong間)が新設され運行範囲が拡大した。2024年4月時点でのコアグリーンラインの平均平日利用者数は約59万人と、市民の足として不可欠な存在となっている。
現在は2025年完成予定であるピンクライン延長工事が行われ、Muang Thongまで延線し、新駅IMPACT Muang Thong Thani Station(Challenger 1)が予定されている。
非鉄道分野では、バス運営やBangchak Group傘下のWinnonieとの提携による電動バイクレンタルサービス、EEC地域インフラ開発の一つであるウタパオ空港開発も進められている。今後の目標としては、グリーンライン延線を含む4ライン新設落札をターゲットとしつつ、現在ほぼ0%である非鉄道利用者割合を2025年度までに33%に上昇させタッチポイント増加を計画している。
MIX事業は、2009年に買収したVGI PLCを主軸とした事業である。鉄道やバスなど輸送機関での消費者とのタッチポイントを活用したビルボードなどのオフライン広告、デジタルマーケティングによるオンライン広告、Rabbit Pay、Rabbit Cashに代表されるデジタルサービス事業の他、小売業としてBTS駅構内に出店するモダントレードであるTurtle Shopが主要事業である。
VGI PLCの2023年度売上高 は48.1億バーツであり、内訳は広告43.7%、デジタルサービス32.1%、小売24.2%と分散が図られているが、収益面では、Turtle Shop新設に伴う販管費増加、配送業の競争激化を理由としたKerry Express株式売却に伴う売却損により純利益▲34.8億バーツと赤字であり、事業再編による収益回復が注目される。
2025年度までにRabbit Reward会員数を2020年度の500万人から、1,000万人へ倍増させる目標を掲げており、タッチポイントで得たデータのデータセンターとして、O2O(Offline to Online)での広告、Rabbit Cardを基盤としたデジタルサービス、Turtle shop等の小売に活用する計画である。
Match事業は、もとは不動産開発業が分類されていたが、2021年度より戦略的パートナーシップによるプラットフォーム事業が加わった。Rabbit CardやRabbit Reward運営による消費者データを活用できる生命保険事業、飲食事業、不動産開発事業などシナジー効果が期待できる企業とパートナーシップを締結しポートフォリオ拡大を狙う。
今後の方向性としては、BTSスカイトレイン構内のインフラネットワーク、BTSスカイトレイン利用者、Rabbit Card会員へのリーチ力、用地取得力など生かしパートナー企業への出資や、JVを推進する。具体的な数値目標は開示されていないが、2030年度までに主要3事業の総収入(図表2)における割合を増加させる青写真を描いている。
BTS Groupがこれほどまでに事業多角化を進める背景としては、鉄道事業の収入構造が影響していると考えられる。2018年度のMove事業売上高はピンクライン、イエローラインの建設による押し上げ効果にて、413.2億バーツと大幅に増加した。その内訳(図表3)は鉄道建設74%、鉄道運営21%、運賃収入5%である。その後、鉄道建設、引渡が進むにつれ、Move事業は減収し、2023年度の売上高は、120.3億バーツと2018年度対比で約70%減収、鉄道建設割合は37%に減少しており、鉄道新設に業績が大きく左右される収入構造となっている。
事業多角化は安定収入源を求めた結果といえる。鉄道事業から着実に事業範囲を拡大させた同社は、消費者タッチポイントから得られるデータを最大の武器として金融業、小売業に参入し、今やプラットフォーマーとしての成長を目指している。Match事業拡大により更なる多角化が注目されるBTS Groupであるが、懸念材料としては鉄道新ラインの落札可否、多角化を進める中での事業不採算化が挙げられる。
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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant
榎本 里実 氏
メガバンクで法人営業に従事。2022年チュラロンコン大学サシン経営大学院(EMBA)卒業。2023年にMURCタイ入社。タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希 氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。
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