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公開日 2025.07.14
トランプ米大統領は7日、日本やタイなどに対して8月1日から適用する新たな関税率を明らかにした。タイに関しては米国に輸入する全ての製品に36%の関税をかける。4月発表の「相互関税」の税率を据え置いた。自動車などの分野別関税を課す品目は別の扱いにする。タイ政府が期待していた税率よりも高く、交渉が難航する中で妥協点を探ることが求められる。
トランプ氏が自身の交流サイト(SNS)に各国への書簡を公開したほか、米ホワイトハウスも発表した。新税率はタイが36%になるほか、周辺国ではインドネシアが32%、カンボジアが36%などとなる。ベトナムとは20%で既に合意している。
7月9日に期限を迎える相互関税の交渉期限については、トランプ氏が8月1日まで延期する大統領令に署名した。
トランプ米政権は4月、相互関税でタイに36%を適用すると発表した。一律10%が既に発動し、米側の赤字に応じた上乗せ分の交渉期限が7月9日に迫っていた。
トランプ氏の公開書簡について、ピチャイ副首相兼財務相は8日の記者会見で「8月1日を前に交渉を加速させるべきだとのメッセージだ」と話した。タイはさらなる譲歩案として、米国からの輸入品に対する税率を大半でゼロにすることを提案したとされる。関税率は36%から下がる可能性があるとした上で、下がらない場合でも代替計画があると説明した。
タイ政府は「できるだけ低い税率」を目指して米政府と実務レベルで協議を進めていた。今月3日に初の閣僚級会合を開いた後、ピチャイ氏は「合意できなかったものの、交渉には進展があった」と述べていた。一方で提案内容を修正する必要があることも明らかにしていた。
タイは米国との関税交渉で、既に第三国を経由した中国からの迂回(うかい)輸出を念頭に置いた「原産地偽装」の防止や、タイ企業による米国投資、関税・非関税障壁の見直しを提案している。ただ現時点で交渉はまとまっておらず、さらなる譲歩が求められそうだ。
損失額9千億バーツも
経済界からは懸念の声が出ている。タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ会長は8日、「米国の決定は輸出産業に大きな打撃となる」と危機感を示した。損失額の規模は約8,000億~9,000億バーツ(約3兆6,000億~4兆500億円)になると試算した。影響が大きい業種には、加工食品や農作物、自動車・自動車部品、家電、電子機器、鉄鋼を挙げた。
タイ資本市場協会連盟(FETCO)のコブサク会長は「われわれに残された選択肢は少ない。関税率10%は米国が貿易黒字の国であり、20%は赤字の国だ。タイは最善で20%、現実的な数値で25%だろう」と予想した。タイの対米貿易黒字は354億米ドル(約5兆1,000億円)に上る。
タイは輸出型経済で、関税率の引き上げは経済に打撃を与えている。トランプ政権は相互関税とは別に、4~5月に完成車と自動車部品の輸入に対して25%の自動車関税を発動している。
トランプ氏が今回公表したタイの関税率36%は輸出競合国であるベトナムの20%を大きく上回る。経済界は輸出競争力が下がると懸念を示していた。
キアットナキン・パトラ銀行傘下の研究所KKPリサーチのチーフエコノミストであるピパット氏は「既に競争力の問題を抱えている製造業は労働者の解雇リスクや低税率の国に生産設備の移転を迫られる懸念があり、さらに大きな打撃を受ける恐れがある」と指摘した。海外直接投資(FDI)の魅力も失われると危機感を示した。
長期化する家計債務の高止まりにより個人消費は減少し、国内経済は既に減速感が強まっている。新税率が適用される8月1日までに米国との交渉がまとまらなければ、さらなる下押し要因になりかねない。
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