最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中
カテゴリー: ニュース
公開日 2026.08.28
中国企業の東南アジア進出が新たな段階に入っている。電子商取引(EC)や決済から始まり、電気自動車(EV)やコンテンツ、実店舗、さらに日用品の現地生産へ。ドイツのコンサルティング大手ローランド・ベルガーのプリンシパルでアジア・ジャパンデスクを統括する下村健一氏は、この変化を「チャイニフィケーション(中国化)」と捉える。中国勢はなぜ急速に浸透したのか。生活圏が中国化しつつある東南アジアで、日本企業が描くべき勝ち筋を聞いた。

消費の出入り口を掌握
――中国企業の進出の手法は。
4つのステージに分かれる。第1はECと決済による「デジタルインフラの掌握」だ。2010年代後半から「ショッピー」や「ラザダ」など中国資本が入るECを通じ、中国の商品が東南アジアの消費者の日常に自然に入り込んだ。中国企業は自社ブランドを前面に出すことなく、消費者が商品を探し、比較し、購入する「入り口」をまず押さえた。
決済では、各国の電子ウォレットの背後で、阿里巴巴集団(アリババグループ)系の「支付宝(アリペイ)プラス」が国境を越えてサービス(ウォレット同士)を接続する。ECが「何を買うか」、決済が「どう支払うか」。消費の入り口と出口を押さえ、購買データを商品開発につなげる「マーケットイン」の基盤を築いた。実店舗で実績を重ねた日系とは逆のアプローチだ。
EVとOTTで中国ブランド再評価
――第2ステージでは何が起こったか。
EVを大きな転換点として、中国ブランドが再評価された。かつての「安かろう、悪かろう」というイメージに対し、20年以降に本格進出した中国製EVは「先進的でクール」という新たな印象をつくった。日系が強い品質や信頼性ではなく「先進性」という別の競争軸を打ち出し、若者に「中国製EVは自分の世代に合う選択肢」だと認識させた。
中国系のオーバー・ザ・トップ(OTT、動画や音楽などのコンテンツ配信サービス)も存在感を高めている。香港系の「Viu」はインドネシアで483万件、マレーシアで414万件の契約件数を誇り、米「ネットフリックス」を上回る業界1位。中国本土の「iQIYI」はベトナムで業界2位、タイで3位に付けている。

iQIYIなど中国系は、東南アジアの消費者が文化的に共感できる中国やアジアのコンテンツを月額2~3米ドル(約320~480円)程度で提供。広告収入を組み合わせて所得水準の高くない層も取り込み、感情的な「親しみ」を醸成した。
中国発のドラマやゲーム、コスメの支持も広がる。「ジュディードール」や「シーグラム」といった中国のコスメブランドは機能、価格、パッケージ、交流サイト(SNS)映えするデザインまで含めてブランドを構築。中国発であることを積極的に打ち出し、消費者の意識は「この中国ブランドを選びたい」という段階へ移りつつある。
地上戦で生活圏が中国化
――中国企業は実店舗も急速に増やしている。
第3ステージでは中国ブランドの店が街中に増え、消費者の日常に入り込んだ。中国勢は「体験型」と「システム型」でトレンドを生んでいる。

体験型の代表はフィギュア・玩具の「ポップマート」だ。ブラインドボックスをわくわくしながら開ける体験とSNSへの開封動画の投稿、投稿を見た消費者の店舗訪問という循環を構築。さらに店舗とオンラインでの消費者の反応・コメントをデータとして収集し、知的財産(IP)と商品を改善する「自己強化ループ」が強みだ。
飲料チェーンの「ラッキンコーヒー」や「ミーシュエ(MIXUE)」はシステム型で、小型店で固定費を最小化して大量出店している。アプリ注文、テイクアウトを軸に店頭運営を簡素化。注文をアプリに寄せることで購入時間や頻度などのデータも取得できる。
例えばミーシュエは東南アジアに4,000店以上ある。中国系は効率的な運営と圧倒的な接触頻度で、消費者のマインドシェアをとっている。
若者、中国への好感度高く
チャイニフィケーションが進むにつれて、東南アジアの消費者から見た日本、中国の印象は既に変化している。当社が24年に東南アジア6カ国の消費者500人を対象に行った「好きな国」を問うアンケート(複数回答)では、30歳未満の63%が中国と答え、日本の55%を上回った。韓国は74%だ。
30歳以上の回答では日本が72%、中国が31%と日本支持が高く、若者と中高年層で評価は分かれている。

――第4ステージの「生活圏の中国化」とは。
日用消費財(FMCG)を現地でつくり、現地で売る段階だ。乳製品の「伊利」やうま味調味料の蓮花控股などは買収を通じて東南アジアで現地生産・流通を拡大している。
現地生産すれば輸送コストを抑えられ価格競争力が増す。商品を細かくローカライズでき、短期間で商品の改善(PDCA=計画、実行、評価、改善のサイクル)を回せるようになる。
流通にも深く入り込み、専売店に限らず一般のスーパーや小売店の棚に現地生産された中国企業の商品が増える。競争の軸は「商品力・ブランド力・売り方」から、製造・物流・流通を含む「供給基盤」に移っていく。
――第5ステージがあるとすれば。
日系を対象とした買収も増える可能性がある。日系の東南アジア法人や現地のオペレーションを引き取るケースが、今後はそれほどめずらしくなくなるのではないか。
中国企業にとって、工場や現地人材、取引先、許認可をまとめて取得できるのは大きな利点だ。日系にとっては、成長投資が難しい事業や遊休化した資産を整理する選択肢になる。
日系は「自ら勝てる競争軸を」
――中国企業の強さに、日系はどう対抗すべきか。
まず、後追いをしても勝てない。中国勢はスピード、低コスト、大量のPDCAを得意としていて、同じ土俵で戦うのは厳しい。日系には東南アジアで長年築いてきた品質、信頼性、耐久性といった資産があるが、日本品質を掲げれば評価されると考えるべきではない。その価値は「現在の東南アジアの文脈」に合わせて再編する必要がある。
第2に、「良い商品をつくれば売れる」というプロダクトアウトの考え方を変えることだ。商品に着目するというよりは生活者を軸に、商品が生活のなかでどう位置付けられるかを徹底的に考え抜く必要がある。
第3に、日系単独で戦うのは難しいため、現地パートナーとの連携を一段と深めることだ。商品設計の段階からパートナーを巻き込み、共同で議論し、ブランド運営や企業運営そのものを現地パートナーとつくる発想が必要だろう。
冷凍食品では「高品質・安全」という既存価値に「時短・健康・手軽さ」という生活の文脈を加えて再編集する、モビリティーでは現地政府や財閥と合弁で「モビリティーエコシステム」を共同設計するといった例が考えられる。
――中国企業から学ぶべきものは。

「ゲームルールを変える」という発想だ。中国企業は、日系が強い既存のルールの中で勝とうとせず、自分たちが勝てる競争軸をつくった。
日系もすべての顧客を取りにいく必要はない。安全性、長期使用、保守体制、信頼性など、自社の強みが最も評価される市場を選び、価格だけでは比較できないルールをつくっていく。
市場の既存ルールに適応するだけでなく、消費者が商品を選ぶ理由そのものを再設計するということだ。中国企業から学ぶべきなのは、同じ速度や価格を追うことではなく、「自分たちが勝てるゲームを自ら設計する姿勢」ではないだろうか。
※下村氏へのインタビューは、NNAアプリの音声コンテンツ「アジアキャスト」でも公開しています(1回目は8月21日、2回目は28日、3回目は9月4日に公開)

NNA ASIA
12カ国・地域から1日300本のアジア発のビジネスニュースを発信。累計100万本以上の圧倒的な情報量で日系企業のビジネス拡大に貢献します。
NNAの購読について詳細はこちら

東南アジアで進む「中国化」 デジタル基盤、消費者の日常に浸透
ニュース ー 2026.08.28

転換期の製造業、「何を作るか」から「何を解決できるか」へ 〜ジェトロ・バンコクが多角化支援プログラムを始動〜
イベントレポート ー 2026.08.24

日系大手5社が、タイ理系学生に熱視線 ~AI人材育成講座の成果発表会を開催
DX・AI ー 2026.08.24

AIブーム、景気楽観を牽引 駐在員調査、車業界と明暗分ける
ニュース ー 2026.08.21

タイ人営業が自ら動く組織をどうつくるのか|THAIBIZ×Kintoneセミナー開催リポート
DX・AI ー 2026.08.21

分断の時代、アジアはどう勝ち残るか 〜Nikkei Asia Forum APAC 2026、経営の最前線から見えた「次の成長条件」〜
協創・進出 ー 2026.08.20