THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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カテゴリー: 自動車・製造業
公開日 2024.08.09
7月4日にラヨーン県のWHA工業団地に設立したBYDの工場がいよいよ稼働を開始した。組立、溶接、プレス成型、塗装工場を擁する15万台規模のフルセット型工場であり、将来的に1万人の雇用を見込む。中国製のEVに対して欧米を中心に締め付けが強くなるなかで、BRICSにも参加し親中色を強めているタイの拠点の戦略的な重要性は高く、今後ともあらゆるリソースを投入することが見込まれる。
7月4日のBYD工場の開所式に、筆者は参加することができた。工場は500メートル以上の奥行があり、その約半分が組立工程、残りが部品棚スペースであった。組立工場は2階建てになっており、別の建物にある塗装工程を出た車両が2階部分に入ると、ドアが取り外され、1階部分でシャーシ、外装、内装を完成するという流れとなっている。
1階部分と2階部分の連結は完全に自動化されており、1階部分の最終組立ラインも半自動車ロボットや作業支援装置が取り付けられ、生産の効率化を図っている。BYDの案内員の説明では、自動化率は50%に達し、組立工場の人員は2,000人程度。現在は、「Dolphin」の1車種のみ生産しているが、BYDの広報資料によれば、近く「Atto3」、「Seal」、「Sealion6」など複数モデルを混流生産する計画である。
筆者が工場を見学して気になったのは、作業人員が少ないことである。電気自動車は元々部品点数が内燃機関車に比べて少ないことに加え、部品があらかじめユニットとして組み立てられていることから、最終組付け工数が少ないためだと考えられる。その代わり、部品倉庫スペースが広く、部品倉庫から組立ラインまで、部品箱の多くがAGV(自動部品配送車)で運ばれており、ロジ用人員も減らしている。
ただし、筆者が工場見学したところ、自動化が進んでいる反面、生産ラインの熟成度はまだ低い。日系の工場では、組立のタクトタイムは60秒から70秒程度であるが、BYDの案内員によると、120秒を目標としているが、現在は600秒に留まっている。バッテリーの自動組付け工程が5分以上かかっており、ボトルネックとなっている。これでは目標生産台数の3万台を達成するのは難しいかもしれない。
工場見学では、組立ラインのみ公開し、別の建物にある溶接ラインやプレスラインは見られなかった。従って、組立以外の工程の現地化がどこまで進んでいるかは確認できなかった。しかし、周辺情報によると、BYDに現地工場から供給しているサプライヤーはまだ殆どないことから、ノックダウン部品の輸入・組立中心になっているとみられる。BYDは半導体等の電子部品、バッテリー、モーターまで内製する垂直統合型であることから、今後現地化するとしても、内製部品が大多数を占めるとみられる。
BYDの特徴は、先述のようにサプライチェーンの垂直統合型であることにある。更に、Siam Motorsのオーナー一族が保有するRever Automotiveと組むことで、卸売り・販売・サービス、ファイナンス・保険、充電サービス、物流までのバリューチェーンの水平展開を図っていることが注目される(図表1)。
BYDは、既に全国に115拠点のディーラー網を構築し、全国77県を網羅したと発表。卸売り・販売パートナーのRever Automotiveグループが最近力を入れているのは、ファイナンス・保険、充電サービスである。報道によると、EV向け自動車ローンで2026年までに40%以上のシェアをとることを目指すという。
また、同グループは2022年に充電オペレーターのSharge Managementへの出資に伴い、Shargeのブランド名をRever Shargerに変更し、BYDのディーラーやガソリンスタンド等を中心に急速充電400ヵ所を含む約1,000ヵ所の整備を計画している。また、Rever Bus & Truckを設立し、商用車分野にも近く参入する見通しだ。
国内ディーラーは輸入した完成車の在庫を処分するために、車両価格をモデルによっては最大30%近く引き下げており、それ以前に購入したユーザーがBYDを不当に高く購入させたと消費者保護委員会に訴えた。筆者が前稿で触れたように、中国勢は現地生産開始により、稼働を維持するために今後供給圧力に直面することは間違いない。
BYDは、補助金の支給を受けているために、昨年の補助金付きで輸入・販売した約3万台以上の完成車を今年中に国内生産しなければならない。中長期的に、BYDは供給過剰リスクに対応するために、4つの戦略を実施することが予想される。
一つ目は、今後とも値下げ攻勢を継続しながら、廉価EVの投入などによりEVのボリュームの確保を優先すること。二つ目は、サプライチェーンの垂直統合を図りながら国内生産コストを下げて、輸出拠点化を図ること。三つ目は、PHEVや商用車のような新しい車種を相次いで投入することで、顧客ベースや新規分野を拡げていくこと。四つ目は、バリューチェーンを水平展開することで顧客を囲い込み、新車販売以外のレベニューストリームを確保すること。
いずれにせよ、BYDにとって、タイは将来的な地政学的リスクに対応した拠点であり、短期的な採算性を度外視してもあらゆるリソースを今後とも投入することが予想される。
THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意
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NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
TEL: 02-611-2951
Email:[email protected]
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua,
Wattana, Bangkok 10110
Website : https://www.nri.com/
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