奇瑞汽車のタイ工場開所式で見た現地化の実態

THAIBIZ No.174 2026年6月発行

THAIBIZ No.174 2026年6月発行日タイで磨く開発力!三菱ケミカルの環境素材革命

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奇瑞汽車のタイ工場開所式で見た現地化の実態

公開日 2026.06.10

4月20日、タイに新たにオープンした奇瑞汽車(Chery、チェリー)グループの工場「Omoda&Jaecoo Manufacturing」の開所式が行われた。スパマス首相府付大臣、工業省のナタポン次官などの政府関係者、タイメディアなどが招かれるなか、筆者は幸運にも唯一の日本人として参加することが許され、中国政府の要人や中華系自動車メーカーの考えを生で聞くことができた。本稿では、開所式で中国勢が打ち出す「現地化」方針と今後の戦略を読み解く。

Cheryグループの概要

同グループがタイ市場に本格参入したのは2025年のビッグモーターセールであり、55万バーツと安値な中型SUV「Jaecoo5」が大ヒットする衝撃的なデビューであった。進出してわずか1年余りでSUVブランドの「Omoda&Jaecoo」、オリジナルブランドの「Chery」、高級ブランドの「Lepas」と3つのブランドより次々とモデルを投入し、販売台数を伸ばすマルチブランド戦略を展開。

同年のバンコク国際モーターショーでの成約台数は3ブランドで2万2,697台(同社による申告値)を記録し、合計台数でBYDグループ(DENZAを含む)を上回った。タイの1〜2月の電気自動車(EV)販売台数でも1万530台と、BYDに次ぐ2位の座を確保している。

タイ市場では10社以上進出している中華系メーカーの中で後発組に入るが、海外進出実績では最大を誇る。同グループの発表によると、工場は世界に19拠点、3,000以上のディーラーネットワークを有する。累計輸出台数(現地生産含む)は2026年2月は600万台で、月間10万台以上を輸出する中国最大の自動車輸出メーカーだ(図表1)。

主要輸出先(現地組立含む)は、一時期全輸出の50%以上を占めていたロシアが突出しており、エジプト、カザフスタンと共にEV乗用車分野ではシェアトップに立つ。2025年以降は欧州、ASEAN、中東・アフリカなど新しい市場で販売が伸びており、ASEANではマレーシアとインドネシア(委託生産工場)に進出し、2026年中にはタイに続き、ベトナムでも工場を完成する予定である。

グループの特徴は、各国の市場や規制に合わせて製造拠点を「委託生産」「合弁会社」「子会社」と使い分けていることである。

タイ工場の概要

今後タイで現地生産を行っていくOmoda&Jaecoo Manufacturing(Thailand)は、上海汽車(MG)やBYD、長城汽車(GWM)、長安汽車(Changan)、広州汽車(GAC)などに続く8社目の中華系工場である。同工場は、50億バーツを投資し104ライ(約16ヘクタール)の敷地で建設された。

2030年までに年間生産能力は8万台を予定しており、初期段階ではタイ国内市場向けに年間3,000~4,000台を生産する計画だ。中華系の製造会社のほとんどが外資100%で設立されているなかで、同社はチェリーグループと現地企業KING GENグループとの60:40の合弁会社である。

開所式で、会長兼アドバイザーを務めるカニット・シーワシラプラパー氏(元商用EV車組立会社Nex Point創業者およびCEO)は「タイ企業との合弁により、産業の現地化にさらに貢献できる」と強調した。なお、同氏が創業したNex Pointは、中国のバス・商用車メーカーの技術協力を受けて設立されていることから、KING GENグループについても中国との関係が深いとみられている。

中国政府代表が公約した「タイへの貢献」

工場の開所式で特に筆者の印象に残ったのは、中国政府とチェリーグループそれぞれが流暢なタイ語で「タイ自動車産業への貢献」を強調したことである(図表2)。これに対してタイ側も、厚い御礼と今後の期待を表明し、両国の蜜月ぶりを目の当たりにした。

【図表2】中国政府とチェリーグループが掲げるタイへの貢献策

中国のタイへの貢献策
政府民間(Cheryグループ)
過去の実績今後の方針今回の実績今後の方針
・工場進出:8社
・投資金額:1,000億バーツ
・現地雇用創出:数万人
・現地バリューチェーン強化
・タイ消費者の信頼構築
・タイ政府と連携、循環型経済とグリーン産業の推進
・EV製造で初となる現地企業との合弁
・工業専門学校二校と技術研修のMOU締結
・生産計画:初期段階でタイ国内市場向け年間3,000~4,000台、2030年までに年間8万台生産目標
・現調達45%達成、タイをグローバルサプライチェーンへ組み込み
出所:NRI作成

中国政府代表として登壇した在タイ中国大使館商務班のZhang Xiaoxiao参事官は「貢献策」の方針として、①チェリーグループの現地調達率を引き上げ(45%を目標)現地のバリューチェーンを強化、②確かなビジネスセンスと責任感をもってタイの消費者からの信頼を築くこと、③タイ政府との連携強化によるタイにおける循環型経済とグリーン産業の推進、を打ち出した。また、これまでの貢献の実績として、8社の工場進出、1,000億バーツの投資、数万人の雇用などを挙げた。

チェリーグループが掲げた「In Thailand, For Thailand」

開所式の最後に登壇したカニット氏もまた、タイ自動車産業への貢献策を「In Thailand, For Thailand」と表現。海外展開を積極的に進める同グループは「In something, For Something」というスローガンを世界共通で掲げているが、前の言葉はタイに進出する中華系企業が地元にほとんどカネを落とさず、「ゼロバーツ工場」と批判されるなかでの返し文句と解釈できる。

同氏は、今回がタイEV工場初の合弁会社であることを強調した上で、タイを同グループのサプライチェーンに組み込んでいくこと、将来的に生産ハブとしてタイ産業を活性化していくことを明言。来賓あいさつの後、ラヨーンとチョンブリーの工業専門学校二校と技術研修における覚書(MOU)署名式を行い、早速タイへの貢献を「有言実行」してみせた。

最低限の組立で、最大限の現地調達率

開所式では簡単な工場視察会も設けられた。驚いたのは、通常の自動車工場に比べて組立ラインが短く、全工程が単純化されていることである。説明員の話では、工程は組立のみで、タクトタイムは5分(つまり1時間に12台生産)。中国から輸入された溶接・塗装済みのボディがラインで組み付けられる。

バッテリーやモーターも、中国から輸入されたものを装着する。少なくとも視察している間は、それぞれの組み付けステーションで車が定位置で固定されており、まだ自動化工程になっていなかった。将来的には、工場内にバッテリーの生産ラインを設立するという。

このような中華系のセミノックダウン(SKD)工場をインドネシアでも見たことがあるが、その際、対外的には40%以上の現地調達を達成していると表明していた。中華系メーカーの海外工場は、「最低限の組立で、最大限の現地調達率」を達成できるノウハウを共有しているようである。

中国のアナリストのレポートを読むと、チェリーグループの海外工場は関税を回避するため、基本部品を中国から輸入するノックダウン(KD)方式であるとされている。これは、中国政府がバッテリーや駆動系などの中核部品・技術は自国に残し、部材輸出を通じて海外投資の利益を本国へ還流させようとする基本方針に合致している。さらには、中国国内でEVの価格競争が激化しているなかで、ほぼ完成車の輸出は過剰供給の受け皿にもなりうる。

現地化方針と「ゼロバーツ工場」型生産の矛盾

注目されるのは、タイ側には現地化を目指すとしながら、製造の実態はSKD工場であることの矛盾である(図表3)。

タイ政府は「ゼロバーツ工場」という批判を意識して、チェリーグループにはより現地のサプライチェーンを活用することを求めている。しかし、同社のように年間3,000~4,000台の生産能力では現実的に限界がある。ゆくゆくは8万台生産を目標にしているが、タイ国内市場規模は限られており、輸出拡大が欠かせない。

今後は、チェリーだけでなくBYDなどの中華系がどこまでタイを輸出拠点として発展させようとしているかが焦点となる。

現地産業の育成と、中国本土への利益還流をどう両立するのか。後者を優先するのであれば、タイは単なる迂回基地にとどまり、表向きの現地化=「ゼロバーツ工場型」生産が続くことになる。

NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal

山本 肇 氏

シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

野村総合研究所タイ

ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)

《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

TEL: 02-611-2951
Email:nrith-info@nri.co.jp
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua,
Wattana, Bangkok 10110

Website : https://www.nri.com/

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