カテゴリー: ビジネス・経済, バイオ・BCG・農業
公開日 2022.07.26
国営タイ石油会社(PTT)は2020年11月下旬に子会社としてInnobic (Asia) Co., Ltd.(イノビック・アジア)を設立し、ライフサイエンス(生命科学)分野に進出すると発表し、当時も大きなニュースとして伝えられた。イノビックは現在、医薬品、医療技術・機器、栄養・健康食品の各事業分野で矢継ぎ早に企業買収などの投資を行っている。TJRI(タイ日投資リサーチ)では7月7日に、タイ企業のニーズを日本企業向けに発信するオンライン説明会『Open Innovation Talk』の第10回として、イノビックの事業開発担当マネジャーのカニッター・マニーソートセーン氏を招いて同社の現在の事業内容、将来展望、そして日本企業との協業の方向性について語ってもらった。
目次
タイは高齢化社会に突入し、健康管理への意識が高まっている。また、環境汚染や現代的なライフスタイルに起因する疾病が医療費増大につながっている。タイには質の高い医療・公衆衛生システムがあるが、海外から輸入される技術や医薬品への依存度が高いのが現状。そこでPTTは人々がより質の高い生活を送り、タイ国内の格差を解消するためにライフサイエンス(生命科学)分野に事業機会を見出した。ライフサイエンスは成長が期待できる分野だ。PTTは生命科学事業への投資を拡大する方針で2020年12月にイノビック・アジアを設立した。S-Curve産業分野で、①医薬品 ②医療技術・機器 ③栄養-という3つのコア事業への投資に注力している。
イノビックのビジョンは東南アジア地域をリードするライフサイエンス企業になることだ。科学的知識を通じてイノベーションと信頼を創造し、タイの人々の生活の質を向上させたいと考えている。イノビックは生命科学ビジネスのプラットフォームとして、研究者、国内起業家、海外パートナーとつながってタイにないものを探し、タイが抱える弱点を解消、タイ国内のエコシステムを発展させていく。
イノビックには医薬品事業、医療技術・機器事業、ニュートリション(栄養)事業の3つのビジネスユニットがある。
(1)医薬品事業は、「バイオファーマ」に焦点を絞り、最初にジェネリック医薬品を販売する。患者がより使いやすくなる高度な製剤を開発している。糖尿病、高血圧、癌などさまざまな非感染性疾患(Non-Communicable Diseases=NCDs)に焦点を当てる。
(2)医療技術分野では、医療用品、医療機器、ハイテク医療機器に関心を持っている。
(3)ニュートリション(栄養)事業は当初、「未来食品」すなわち植物由来食品、ニュートラシューティカル(栄養補助食品)、メディカルニュートリション(医学的栄養)、未来の個人栄養分野の基盤構築に重点を置いている。
2020年12月 = イノビック・アジア設立。
2021年4月 = 米製薬大手アルボジェン傘下の台湾のロータスファーマシューティカルズの株式を取得。新型コロナウイルス流行時にファビピラビルを輸入して、国民に寄付するためにロータスのネットワークを活用。
同年4月 = タイは2020年の新型コロナ流行時にマスク不足に直面したが、マスクの素材「メルトブローン不織布」は国内生産ができず、100%輸入に依存していたため、イノビックはPTTの化学子会社であるIRPCと合弁で「イノポリメッド」を設立、工場を開設した。
同年5月 = 植物由来食品事業を行うために、NRインスタント・プロデュース(NRF)の子会社ノーブ・フードと合弁でニュートラ・リジェネレーティブ・プロテイン(NRPT)を設立。現在は「alt.Eatery」というコンセプトストアをスクンビット・ソイ51に開店。また、英国プラント&ビーン社との合弁会社設立。タイに代替タンパク製品の工場を開設。
同年11月 = CBCグループ(プライベートエクイティ)の医薬品・医療機器事業に出資。
2022年5月 = ロータスファーマへの出資比率を6.66%から約37%に引き上げるとともに、マルタを拠点とする製薬会社アダルボの株式の約60%を保有。
同年5月 = 殺菌・消毒用医療機器の生産販売を行うナムウィワット・エンジニアリング(NAM)に出資。NAMはタイ最大の殺菌用医療機器の製造・輸出企業グループになることを目指しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域への輸出・進出の準備を整えている。
同年5月 = 長期的な戦略パートナーとしてインターファーマ(IP)に出資。総合的な健康ビジネスを世界各国の輸出市場に展開するため、製品を国際水準に高める準備をしている。市場拡大に向け、大手薬局(22支店とオンラインストア)ネットワークを持つLABファーマシーの協力を得ている。
イノビックのニュートリション(栄養)事業は3つのグループに分かれている。
(1)「未来食品」という食品テクノロジーグループでは植物由来タンパク質などを手掛けるNRPTが旗艦企業。
(2)「ニュートラシューティカルズ(栄養補助食品)」という機能性グループは、栄養サプリメント、ハーブ製品などに焦点を合わせている。高品質の製品を提供することで製品面での差別化を図る。健康志向の高い人々に受け入れられ、検証可能なテスト結果を提供する。
(3)「メディカルニュートリション(医学的栄養)」は、高齢者向け食品・飲料などの「健康技術」や、嚥下困難など特別なニーズを持つ人々のための新しいイノベーションに焦点を合わせ、国内の研究機関との連携や海外からのパートナー探しを行う。タイにはまだこの種の製品がほとんどないことを認めざるを得ず、イノビックは革新的な製品を見つけることを望んでいる。タイに近代的な生産技術を持つ「栄養工場」を開設し、農業部門をサポートしていきたい。そして、このグループの製品を製造する知識を持ったパートナーを探している。
イノビックのニュートリション(栄養)事業のロードマップでは、これまでにタイ国内の多くの研究・技術機関と連携している。
2021年3月 = タイ伝統医学に強みを持つシリラート病院と、漢方処方を強化し、服用しやすい漢方薬を開発する覚書(MOU)締結。
2022年1月 = マヒドン大学などと共同で通常の食事ができない高齢者や患者のための「UHT配合食品の処方と製造プロセスの開発」を行うことでMOU締結。
同年2月 = タイ科学技術研究所(TISTR)と微生物のタイ株から栄養サプリメントを開発し、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを推進することでMOU締結。
同年5月 = 総合的な健康ビジネスのための長期的な戦略パートナーとしてインターファーマに投資。世界中に輸出するために製品を国際標準に引き上げる準備をする。LABファーマシーの大手薬局(22支店とオンラインストア)ネットワークを通じた市場拡大で協力する。
将来的には、新しい形の医療用食品を研究開発する「イノビック・ラボ」、そして「パーソナライズド栄養センター」を開設する。
ニュートリション事業では、栄養サプリメントとメディカルニュートリション(医療用栄養)の2つの分野に関心を持っている。医療用栄養分野は重要グループだ。高齢社会に突入したタイの現状に対し、市場の製品数が少なく、需要を満たさず価格もかなり高い。市場のプレーヤーがすべて外国企業であるため、この製品群へのアクセスはまだ限定的だ。人々はまだこの製品群に対する知識と理解に欠けている。この製品群は高い成長ポテンシャルを秘めている。高齢者や通常食困難者、嚥下困難者、運動困難者、がん患者など特別な食事が必要な人向けの食品・飲料機能製品だ。
【ニーズ1】
高齢者や嚥下障害など特別なニーズを持つ人向けの食品・飲料、医療食、栄養サプリメントという製品群でパートナーを見つけ、タイなどの市場を拡大したい。
イノビックが持つアセットはNRPTやLABファーマシーなどの関連会社のパートナーがおり、製品流通を支援できる。病院、薬局、オンラインなど全国のさまざまな販売チャンネルに対応する営業・マーケティングチームを準備する。
【ニーズ2】
食品製造のための工場を開設するパートナーを探している。生産コストを削減し、製品の価格を下げ、タイおよび地域の他の国の消費者がより入手しやすくするのが目的。具体的には高齢者や嚥下障害など特別なニーズを持つ人々のための食品・飲料、医療用食品だ。
イノビックが持つアセットは投資力に加え、大学や医療学校、研究機関とのコネクションだ。
【ニーズ3】
「イノビック」ブランドでOEM製品を製造できるパートナーを探している。具体的には高齢者や嚥下障害などの特別なニーズを持つ人向けの食品・飲料、医療用食品、栄養サプリメント。
イノビックが持つアセットはNRPTやLABファーマシーなどの関連会社のパートナーがおり、製品流通を支援できる。病院、薬局、オンラインなど全国のさまざまな販売チャンネルに対応する営業・マーケティングチームを準備する。
TJRI編集部
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