THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集
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カテゴリー: バイオ・BCG・農業, 食品・小売・サービス
連載: Business Topics in Thailand
公開日 2024.11.11
チェンマイ発のオーガニックレストラン「オーカジュー(Ohkajhu)」を運営するプルーク・パック・プロ・ラック・メー(OKJ)が、今年10月4日にタイ証券取引所(SET)に上場を果たし、話題を呼んだ。調べてみると、タイ石油公社(PTT)傘下で給油所・小売事業を行うPTTオイル・アンド・リテール(OR)が、2021年に同社の株式を20%取得して以降、急速に成長を遂げている。
現在、直営飲食店33店舗に加え、スーパーマーケットや小売店、ORが運営するガソリンスタンドやカフェ・アマゾンなど、500店舗以上の販売チャネルを持ち、売上も2021年の8億バーツから今年は20億バーツを見込んでいるという。今回は同社の成功の秘訣を考察してみたい。
同社の成功の原点は、タイ北部の農家出身の同級生だった青年3人の挑戦にある。化学肥料や農薬に頼らない「持続可能な農業」を目指し、2010年にチェンマイに小さな温室を建て、料理用ハーブとサラダ野菜の栽培を始めた。約3年間の試行錯誤を経て、オーガニック栽培農法を確立し、2013年に「農家から食卓へ」をコンセプトとしたオーガニックカフェ(オーカジュー1号店)をオープンし、翌2014年に法人登記し、本格的に事業がスタートした。
同社は、タイの農業が抱える構造的な課題の解決にも挑戦中だ。タイは農業大国でありながら、焼畑農業による環境問題や、種子や肥料のコスト負担による不採算農業による貧困など、多くの農家が困難を抱えている。こうした課題に対して、同社は地域の農家にオーガニック農法のノウハウを共有する啓蒙活動を展開している。
タイの農家は一般的に変化を嫌う傾向にあるが、同社は根気強く対話を重ね、成功事例を示すことで徐々に信頼を獲得していった。しかし、手間暇のかかるオーガニック野菜を作っても、売れなければ意味がない。そこで同社は、オーガニック農法を実践している農家の農作物を仕入れ、自社レストランや提携小売店で販売する仕組みを構築することで、地域社会の所得向上や雇用創出に貢献している。
さらに同社は、都市部の消費者ニーズへの対応も的確だった。バンコク首都圏を中心とした都市部の中流所得層以上のタイ人は、健康のために野菜中心の食生活を望む一方で、野菜の残留農薬による健康被害への不安を抱えている。実際に筆者の母も野菜の洗い方には、かなり神経質だ。オーガニック野菜は、食の安全性を求める消費者の不安解消にはなるが、都市部では販売店が限られていることや価格が高いため、タイ人の一般消費者には手が届きにくかった。
そうした中、同社は2017年にバンコク進出し、若者が集まるトレンド発信地サイアム・スクエアにオーカジュー3号店をオープン。自社農園から直送の安全で新鮮な野菜を適正な価格で提供し、それまでの「オーガニック野菜は高い」という都市部のタイ人の常識を覆した。
同社の成功は、昨今注目を集めている革新的な技術やビジネスモデルを追求するスタートアップとは一線を画している。タイの強みである農業を軸とした地に足のついたビジネスを地道に展開し、着実に成長を遂げてきた。
プルーク・パック・プロ・ラック・メー(「愛する母のために野菜を育てる」の意)という社名に込められた想いからもわかるように、同社のミッションは極めてシンプルだ。「自社農園で栽培・収穫したオーガニック野菜と提携農家の良質な自然食材を厳選し、人々に健康的な食体験を提供すること」である。この明確な目的意識と、農家の課題を身近に見てきた彼らの経験に基づく視点が、ブレない経営の根幹となっている。
これは、多くの日本企業が実践している「三現主義」(現場、現物、現実)の精神と共通している。ビジネスの成功と失敗を分けるのは、こうした基本原則をいかに徹底できるかの差ではないか。今回の同社の上場ニュースは、そんな示唆を与えてくれた。
THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集
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Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ帰国後の2009年にMediatorを設立。政府機関や日系企業などのプロジェクトを多数手掛けるほか、在タイ日系企業の日本人・タイ人向けに異文化をテーマとしたセミナーを実施(延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTJRIを立ち上げた。
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