2024年の東南アジアを占う ~すべては中国次第か~

2024年の東南アジアを占う ~すべては中国次第か~

公開日 2024.01.16

2024年の年頭にあたって、東南アジア(ここでは大陸部であるタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジア、ラオスについて論じる)にとって今年がどのような年になるか占ってみたい。それを考える上で最も重要なキーワードは、「中国不動産バブルの崩壊」である。将来の歴史の教科書には、中国のバブル崩壊は「ソ連崩壊」に匹敵する出来事と書かれることになるだろう。それほどの大事件であるが、まだ始まったばかりだ。それは今後継続的に東南アジアに影響を与え続けることになる。

カンボジア、ラオスは試練の年に

まず考えられることは、中国から東南アジアへの投資が減少することだ。中国からの投資は2021年頃から減少していたが、2024年にそれは一層顕在化するだろう。のみならず、これまでの投資を引き上げるかもしれない。もしそうなれば、東南アジアの景気を大きく冷やすことになる。

特にカンボジアとラオスの経済は中国からの投資によって成り立っている。もし、中国が投資を引き上げれば、両国の経済は致命的な打撃を受ける。カンボジアでは2023年に首相がフン・センから息子のフン・マネットに交代した。フン・マネットは中国への依存を減らすために米国や日本に近づき始めているが、米国や日本からの投資が少し増えたとしても、それは中国からの投資減少を補うことはできない。カンボジアとラオスにとって2024年は試練の年になる。

タイへの中国人旅行者の完全復活はない?

タイにとって観光は重要だ。タイは中国からの観光客によって潤ってきた。しかし、新型コロナウイルス流行が収束したにもかかわらず、2023年の中国からの観光客数はコロナ前の水準には戻らなかった。2024年も中国からの観光客数は伸びないだろう。また観光客1人が落とすお金も減少する。中国政府は為替レートの維持に必死になっているが、すう勢は人民元安だ。今後、元安がより進めば中国からの観光客はもっと減る。

1980年代後半から1990年代半ばまでロンドンやパリは日本人観光客であふれ返った。彼らは高級ブランド品を買い漁ったが、バブルが崩壊すると高級ブランド品を買い求める観光客は潮が引くようにいなくなった。今後、同様のことが中国にも起きる。

中国製EVのタイ輸出ラッシュが与えるインパクト

不動産バブルの崩壊が進む中で、中国は電気自動車(EV)の開発・販売に力を入れている。EV産業に大量の補助金を投入し、EV購入者にも補助金を支給している。バブル崩壊の出口を見つけることができない中国政府は、経済の未来をEV産業に託している。

そんな中国からEVの輸出が急増している。その結果、2023年には車の輸出台数において中国は日本を抜いて世界トップに躍り出た。この動きは2024年に一層加速すると思うが、それはタイ経済に暗い影を落とそう。なぜならタイの自動車産業は日本との関係が深く、日本はEVにおいて中国に大きく遅れをとっているからだ。

本当にEVがガソリン自動車を駆逐してしまうのか、EVではなくプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)などが主流になるのかなど、EVの将来には不確定要素が大きい。それでも中国が2024年もEVの輸出に注力すれば、それはタイ経済にとって大きな脅威になる。

中国を後追いするベトナムの不安

中国政治の変化も東南アジアに影響を与える。習近平が共産党のトップになった2012年以降、中国は改革開放路線から少しずつ毛沢東時代へ逆戻りしていた。それは習近平が3期目に入った2022年から一層鮮明になった。その動きは2024年にはさらに強まるだろう。

同じ社会主義国であるベトナムは中国の習近平のやり方に敏感に反応している。中国の改革開放路線は1978年に始まったが、ベトナムはそれより8年遅れて1986年にドイモイを始めた。ベトナム政治は中国の後追いといって良い。

そんなベトナムでは、左派とされるグエン・フー・チョン書記長の権力基盤が強くなっている。2022年秋からベトナムでも不動産バブルの崩壊が始まり、経済の状況は悪化している。それに加えて政権の左傾化が強まれば、ベトナムの経済はより一層悪化する可能性が高い。ベトナムは経済成長において過去10年ほど東南アジア諸国連合(ASEAN)のトップを走ってきたが、それが今後も継続されるのか、よく分からなくなってしまった。

混迷続くミャンマー情勢に転機は来るか

2024年のミャンマー情勢は混迷を深めるだろう。2021年2月のクーデター以来、ミャンマーでは軍事政権が続いていたが、ここにきて周辺諸国との国境付近に住む少数民族が連携して軍事政権に対して軍事攻勢に出ており、軍事政権は苦戦している。民主派がこの動きに同調しているため、軍事政権はミャンマー全土を掌握できなくなっている。

中国がミャンマーの少数民族にひそかに武器を供与している。中国はこれまでも少数民族に武器を与えることによって、政府に揺さぶりをかけてきた。中国はミャンマー政府を弱体化して、中国の言いなりになる状態を作り出したいと考えている。ミャンマー情勢の裏に中国がいると見て間違いない。現在、少数民族の攻勢によって軍事政権が倒れることはないと見られているが、今後の情勢は余談を許さない。ミャンマーは2024年に大きく動く可能性がある。

「甲辰」年の中国と東南アジア

中国の人口は14億人、それに対して東南アジア大陸部の人口は2.6億人に過ぎない。歴史的に、東南アジアは中国の影響を政治、経済、文化の各方面で強く受けて生きた。特に大陸部は海を隔てた日本よりも中国の情勢に敏感に反応する。

そんな中国が文化大革命の時代に逆戻りするようなことがあれば、それは東南アジアにも大きな影響を及ぼすことになる。中国は東南アジアにとって最も重要な交易相手だ。中国が鎖国状態になり貿易量が減少すれば、それは東南アジア経済に悪い影響しか与えない。

陰陽五行説は中国が発祥であり、東南アジアや日本、韓国にも広く浸透している。その陰陽五行説で2024年は甲辰(きのえたつ)である。「甲」は草木の成長を表すことから、物事の発展を意味する。また辰は権力とその勢いを意味する。特に中国では「辰」は皇帝の象徴である。「辰」である習近平が勢いを増して暴れ回れば、それは東南アジアに大きな影響を及ぼす。

占いに頼るのはどうかと思うが、2024年に中国が大きく変化すると見て間違いない。年初に不吉なことばかり書いたが、それだけ中国情勢は不安であり、先を見通すことが難しい。2024年甲辰は気を抜くことができない一年になると思う。

ベトナム・ビングループ主席経済顧問
Martial Research & Management Co. Ltd.,
チーフ・エコノミック・アドバイザー

川島 博之 氏

1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員、東京大学大学院農学生命科学研究科准教授などを経て、現職。
主な著書に『農民国家・中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』『極東アジアの地政学』など。

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