スマートシティ構想で日タイ協創なるか

THAIBIZ No.151 2024年7月発行

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スマートシティ構想で日タイ協創なるか

公開日 2024.07.10

キーワードは「包括的なアプローチ」タイのスマートシティ開発における課題と提言

注目されるスマートシティ構想だが、具体的に推進するにあたり、どのような課題があるのか。日本企業が参画する場合に、留意すべきポイントはどこにあるのか。JICA長期専門家であり、タイ内務省地方自治振興局アドバイザーでもある是澤優氏が、タイのスマートシティ開発における課題と提言を説く。

本来の目的は「市民の生活向上」

JICAは、内務省地方自治振興局(DLA)およびDEPAと協力し、タイ全国の地方自治体が推進するスマートシティ開発を支援している。これに伴い、タイの関係省庁、地方自治体、大学、日本の国土交通省、国連、ASEANなどの国際機関と連携し、2023年4月と11月に国際ワークショップ、2024年4月には専門家会合を開催し、タイ、日本、その他の事例と経験の共有化や政策対話の促進を図ってきた。

第2回国際ワークショップのテーマは「すべての人のためのスマートシティ:包摂と持続可能性の推進」とした。その背景には、スマートシティの取り組みが急速に広がり、地方自治体や企業の関心が高まっている一方で、その具体的な成果が見えにくい現状に対する認識があった。最先端のデジタル技術や機材に関する議論や企業による実験に留まっており、期待とのギャップが課題である。

例えば、タイ国内で先進事例とされる都市を訪問した際、CCDカメラやデータセンターの整備についての説明が中心であり、それが市民の生活の質向上にどのように寄与するのかについては、必ずしも納得のいく説明が得られなかった。最先端のデジタル機材の導入がスマートシティの主目的となっている感があり、本来の目的である市民の生活向上が見過ごされがちである。

課題認識を背景に策定された10項目の政策提言

このような技術先導型のスマートシティの問題を克服し、人間中心のスマートシティへ転換する提案や議論は世界中で行われているが、その具体的な内容は依然として明確ではない。

そのような中で、バンコク都知事は「交通渋滞、廃棄物管理、健康と福祉などの日常生活の課題に対処することがスマートシティへの移行に不可欠」と述べ、DEPAの局長も「スマートシティは市民中心であるべき。必ずしもスーパーハイテクである必要はなく、人々の福祉や生活を支える実用的な技術が望ましい」との示唆に富む見解を示している。

ワークショップで発表されたチョンブリー県センスック町の高齢者支援システムやメーホンソーン県パンムー町のEスマートサービスは、地域の課題に対応した革新的な取り組みの先進事例である。また、本特集でフィーチャーされたコーンケーンの官民連携プロジェクト(いわゆる「コーンケーンモデル」)は興味深い取り組みである。

これらの課題認識を背景に、包摂と持続可能性を推進することにより「人間中心のスマートシティ」へと導くための政策ガイドラインを策定することが第2回ワークショップで合意された。その後、DLA、DEPA、JICAの代表からなる作業グループで検討が進められ、4月の専門家会合での議論を踏まえ、「包摂的で持続可能なスマートシティのための政策ガイドライン」を策定するに至った。

1.戦略的ビジョンと統合計画
▶︎ 持続可能な開発目標(SDGs)と「足るを知る経済哲学(SEP)」に沿った戦略
▶︎ 都市計画、交通、エネルギー、社会サービスなどの政策セクターを統合し、包括的で一貫性のある枠組みを作成
▶︎ セクター間の協力を促進し、持続可能で公平な成長を支援


2.包括的なコミュニティ参加
▶︎ コミュニティの参加とエンパワーメントを優先し、人間中心および市民中心のスマートシティを構築
▶︎ 公共の協議のためのプラットフォームを作成し、透明な意思決定プロセスを促進
▶︎ 教育と能力構築プログラムを通じて市民をエンパワー


3.直面する課題中心のアプローチを適用
▶︎ 差し迫った都市の課題に対処するためのターゲットを絞った実用的で革新的なソリューション
▶︎ パイロットプロジェクトを実施し、成功した戦略を洗練および拡大


4.県や市の地方自治体事務所のエンパワーメント
▶︎ 必要なリソースと専門知識を提供し、スマートシティイニシアティブを効果的に実施
▶︎ 技術支援とメンターシップのサポートネットワークを確立


5.公平で包括的なスマートシティ開発の促進
▶︎ すべての人口セグメントが恩恵を受けるように、ターゲットを絞った投資と政策を通じて公平な成長を促進
▶︎ 社会的結束を促進し、周辺化されたグループの生活の質を向上


6.持続可能性と気候レジリエンスの主流化
▶︎ 持続可能性と気候レジリエンスをスマートシティ計画と実施のすべての側面に統合
▶︎ 再生可能エネルギーインフラや持続可能な交通オプションへの投資


7.中間都市をバランスの取れた開発の触媒としてエンパワーメント
▶︎ 中間都市を地域のバランスの取れた成長を促進する触媒として活用
▶︎ 経済多様化と地元産業の促進を通じた雇用創出


8.統合ガバナンスと効率的な資源配分の促進
▶︎ 透明性、説明責任、および効果を向上させるための統合ガバナンスと効率的な資源配分
▶︎ オープンデータプラットフォームやリアルタイム監視システムの活用


9.成功のためのパートナーシップと協力の強化
▶︎ 公共、民間、コミュニティの利害関係者間のパートナーシップと協力を奨励
▶︎ 定期的な利害関係者会議と協力フォーラムの促進


10.統合されたデータ収集、利用、管理の促進
▶︎ データ収集、利用、管理の統合システムを開発し、情報に基づく意思決定と継続的な改善をサポート
▶︎ 高度な分析、空間分析、リアルタイムデータの監視を活用

様々なステークホルダーと連携し、包括的なアプローチを

日本からの貢献として、最新技術の導入に加え、以下の観点をより深く検討する必要がある。

日本は急速な都市化に伴う都市課題や地方都市の衰退、環境問題や自然災害に対処してきた豊富な経験があり、タイの大都市や地方の課題解決に役立てることが重要である。そのためには、個々の技術の移転や導入にとどまらず、包括的なシステムの導入が必要である。

例えば、タイでは都市内鉄道網やその沿線での大規模不動産開発が進んでいるが、駅周辺のまちづくりやフィーダー輸送網の整備が十分ではなく、交通モード間の相互乗り入れやスムーズな乗り換えも図られていないため、公共交通利用の促進が遅れている。日本の成功事例であり、タイでも関心が高い公共交通指向型開発(TOD)をもっと浸透させることが重要である。

また、歩きやすいまち、活気のあるまちを実現することも重要なテーマである。バンコク市内では鉄道網にエレベーターやエスカレーターが設置され、駅員が目の不自由な方や高齢者を支えている微笑ましい光景をよく見かける。しかし、まちなかには段差が多く、狭くて舗装が平らでない箇所や、点字ブロックが適切に設置されていない場所が多く、歩行空間には多くの課題が残っている。このような身近な環境の改善に、日本の経験が大いに役立つと考えられる。

2000年代以降、日本は全国都市再生から地方創生へと進展し、最近では「デジタル田園都市国家構想」が進められ、全国で多様な取り組みが行われている。このようなムーブメントにはタイの研究者も高い関心を示しており、個別の事例の紹介にとどまらず、都市・地域システムとしてのアプローチを紹介し、仕組みを構築する支援が求められる。

出生率の低下とそれに伴う人口減少・高齢化は、タイ社会に既に到来している課題であり、そのような課題の先進国である日本の経験から、子育て支援、健康長寿、地域包括ケア、居場所づくりなどのシステムについて貴重な提案が可能である。

これらは、日本が貢献できる分野の一端に過ぎない。日本の経験と知識を活かして、タイのスマートシティ開発において持続可能で包摂的な未来を実現するためには、包括的なアプローチによる協力が不可欠である。そのためには、日本の団体や企業が連携し、タイの関係機関のニーズを丁寧に聞き取りながら、協働して課題に取り組むことが求められる。

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THAIBIZ編集部

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