THAIBIZ No.158 2025年2月発行日タイビジネス70年の軌跡と未来への挑戦
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カテゴリー: ビジネス・経済
連載: SBCS - タイ経済概況
公開日 2025.02.10
弊社には時々、数分遅刻する社員がいる。タイ特有のマイペンライの雰囲気もあるが、理由を聞いてみると、「通勤にAirport Rail Link(以下、ARL)を利用しているが、遅延や混雑が酷く何本も乗れずにやり過ごす時がある」という。日本のように遅延証明が出ないタイ。社員を疑う訳ではなく、職業柄、好奇心が湧いた。
2024年の都市鉄道の各ラインの利用状況を見てみると、BTSグリーンライン(スクンビット線とシーロム線の合計)が最も使われており、2.6億人が利用。2位はブルーライン(地下鉄)の1.6億人。3位以下はパープルライン(2,450万人)、ARL(2,419万人)と続くがグリーンラインに比べると10分の1以下の利用者数になる。近年開業したモノレールのピンクとイエローラインは1,000万人台。割合で見ると都市鉄道利用者の51%がグリーンライン、30%がブルーライン、5%がパープルラインとARLにそれぞれ乗車している(図表1)。
各ラインの詳細を調べて驚いたのはARLは9編成しかなく、他と比べて異常に少ないことだ。このためピーク時でも1時間あたり7本しかなく、電車の運行間隔は9分程度になっている。他のラインは基本的に5分以下(グリーンラインのスクンビット線は2分40秒)なので、間隔が大きく空いている。
混雑具合はどうか。1編成あたりの乗客数を比較すると、ほぼ、グリーンラインと同程度の人数が乗っていることが分かる。しかし、ARLは1編成あたりの車両数が3両のモノもある。その場合、4両編成のグリーンラインと比較して、1編成あたりのキャパシティが25%以上(運転席の無い客車が減るため)少なくなる。
ということは、グリーンラインでさえ混雑時に何本か乗れずに駅で待つことが起きているが、ARLではそれ以上の混雑が起こり得て、しかも乗れないと次の電車が来るまで9分待たなければならない。さらに、次の電車にも乗れなければ18分後に、となる訳だ。「たった9編成しかないのに1編成でも故障したらどうなるんだ」と考えてARLに電話で確認したところ、何と「1編成は予備。通常走っているのは8編成のみ」とのこと。遅刻してくる社員の状況を理解できた気がする。
本人にヒアリングすると、「3両編成が来るときは直前に駅員が『このエリアには車両がありません』とアナウンスする。そうするとさらに混んで来た電車に乗れない。酷い時は諦めて入ってきた改札を出てバイクタクシーで地下鉄の駅まで移動する」とのこと。本人なりに遅刻しないように努力している訳だ。あわせて、タイにも遅延証明のシステムがあれば良いのに、とも思う。
当初、空港アクセス鉄道だったARLは現在は都心への通勤電車となっている。需要の増加に鉄道の整備が追い付いていない。
3空港(ドンムアン、スワンナプーム、ウタパオ)連結鉄道の建設に合わせて、ARLの運営はタイ国鉄から民間に代わっていることから、改善を期待している。
国際協力銀行(JBIC)は、第36回「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」を2024年12月12日に発表した。本調査は同年7〜9月に行われ、495社から回答を得た。中期的な有望事業展開先国・地域では、タイはインド、ベトナム、米国、インドネシアに次ぐ5位。「現地マーケットの現状規模」「現地マーケットの今後の成長性」「インフラが整備されている」が引き続き評価されたほか、「産業集積がある」も有望な理由として挙がった。一方、課題としては、「労働コストの上昇」をはじめ、「他社との厳しい競争」「技術系人材確保が困難」が挙げられた。
タイ商工会議所大学(UTCC)の発表によると、昨年11月の消費者信頼感指数は前月比+0.9の56.9(100以上が好感)。新型コロナ発生後の最高だった2024年2月から下落を続けたが、10月に続き2ヵ月連続上昇した。項目別で見ると「経済全般」が50.4(同比+0.8)、「雇用」が54.3(同比+0.8)、「将来の収入」が66.1(同比+1.0)とすべての項目が前月を上回った。政府の経済刺激策、および洪水の影響緩和で観光者数が増加したことが回復要因とみられる。同時調査された自動車の買い時指数、不動産の買い時指数も9ヵ月ぶりに上昇した。
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タイ商務省の1月6日の発表によると、昨年12月の消費者物価指数(CPI)は108.28となり、前年同月比+1.23%だった。前月比は▲0.18%で、価格変動の激しい生鮮食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年同月比+0.79%だった。部門別では食品・飲料部門が同+1.28%で、飲料(非アルコール)が同+3.34%と上昇率が大きかった。非食品部門は+同1.21%で、運輸・通信が同+2.71(内燃料が同+6.59%)と上昇率が大きかった。2024年通年のCPI上昇率は前年比+0.40%、コアインフレ率は同+0.56%で、商務省は昨年12月に、2025年のインフレ率予測を同+0.3〜1.3%としている。
タイ賃金委員会が昨年12月23日にタイ全国の最低賃金を引き上げると発表した。12月27日に官報に掲載され、今年1月1日より施行。400バーツになる地域は、東部経済回廊(EEC)エリアのチョンブリー県、ラヨーン県、チャチューンサオ県、および南部主要観光地のプーケット県とスラーターニー県、サムイ島。チェンマイ県チェンマイ市およびソンクラー県ハジャイ市は380バーツ。バンコク都および隣接5県では2.5%引き上げの372バーツ、他67県では、2024年の賃金から2%の引き上げとなる。今回の引き上げで恩恵を受ける労働者は約376万人。なお、昨年4月13日施行の主要観光地のホテル従業員の最低賃金400バーツは引き続き適用となる。
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タイ政府は昨年12月11日の閣議で、家計債務問題解決の取り組みとして、個人および中小企業を対象とした債務救済措置を承認した。債務者190万人、債務総額8,900億バーツが対象。第1の措置は住宅や自動車の担保資産を保全できるように支援するもので、3年間元本のみの支払いで、月々の最低返済額は、初年度が従来の50%、2年目が70%、3年目が90%となる(返済額増額可能)。この3年間は金利の支払いが停止される。
さらに期間内の元本返済および本措置への登録後12ヵ月以内に新たなローン契約を結ばないことを遵守した場合、停止期間中の利息は免除される。対象は、2024年1月1日よりも前に契約締結されたローン。具体的には、500万バーツ以下の住宅ローン、80万バーツ以下の自動車ローン、5万バーツ以下のバイクローン、融資限度額500万バーツ以下の中小企業向けローンが対象。第2の措置は1口座あたり5,000バーツ以下の少額の不良債権を国・銀行・債務者で負担し、債務から解放するものである。そのほか、ノンバンクの債務者救済措置もある。いずれの措置も登録必須で、登録期限は2025年2月28日。
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SBCS Co., Ltd.
Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
SBCS Co., Ltd
Mail : [email protected]
URL : www.sbcs.co.th
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
Website : https://www.sbcs.co.th/
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