カテゴリー: ビジネス・経済, バイオ・BCG・農業
公開日 2022.10.26
タイ複合企業大手TCCグループ傘下の飲料大手タイ・ビバレッジ(タイビバ)などタイの大手企業は9月26日~10月2日、バンコクのクイーンシリキット国際会議場(QSNCC)で、東南アジア諸国連合(ASEAN)最大規模というサステナビリティーイベント「Sustainability Expo 2022」(SX2022)を開催した。同EXPOは2020年にオフラインでスタートし、オンラインのみだった2021年を含め今回が3回目で、プミポン前国王が提唱した「足るを知る経済(Sufficiency Economy)」を基本哲学とし、今年は「Good Balance, Better World」というテーマを掲げた。
主要パートナーはタイビバのほか、TCC傘下の不動産大手フレーザーズ・プロパティー、化学大手PTTグローバルケミカル(PTTGC)、サイアム・セメント・グループ(SCG)、タイユニオングループの5社で、その他100社以上のタイ企業が参集。7日間の来場者数は25万3000人以上に達した。持続可能性をテーマにした展示ブースや販売店舗が開設されたほか、150人以上もの専門家による講演会、パネルディスカッションも行われた。
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26日に行われた開幕セレモニーではSX2022の主催者であるタイビバのタパナ・シリワタナパクディ社長兼最高経営責任者(CEO)が「環境問題や現在の世界が直面している大きな問題は複雑化するにつれ、解決にはグローバルネットワークの協力が必要になる」と同イベントの意義を強調。またSX2022の組織委員会のディレクター、トンジャイ・タナチャナン氏は「持続可能性の重要性を伝えるには消費者に知識を伝え、理解してもらう必要がある。皆が責任を持ち、協力し合うことで世界をより持続可能なものにしていくことができる」と訴えた。
SX2022では実に93の講演会、パネルディスカッションが行われたが、そのうち今回は29日の「テクノロジーが日常生活をより良くする」というタイトルのパネルディスカッションを中心に紹介する。同討論会では国営タイ石油会社(PTT)傘下で給油所・小売店を展開するPTTオイル・アンド・リテール(PTTOR)のジラポン最高経営責任者(CEO)が登壇し、「世界ではさまざまな産業が飛躍的に発展した結果、環境問題がより深刻になっている。持続可能な価値に基づき創造的に変化していくことが必要だ」と強調。その上で、PTTORは「電気自動車(EV)をサポートする充電スタンドを整備。アマゾンカフェでは環境に優しいプラスチックを使用しており、 スタッフはプラスチックをリサイクルした繊維によるシャツを着ている」などさまざまな製品で持続可能性を目指しているとアピールした。
サイアム・セメント・グループ(SCG)のデジタル担当ディレクター、アピラット氏は「自分たちの問題は自分たちで解決し、人間、動物、生物など誰も苦しめないことが重要だ。イノベーションを十分な注意を払わずに利用した場合、現在の問題は解決できたとしても、将来、問題を引き起こす可能性がある。持続可能性と両立するイノベーションは、最初から考えて計画し、誰も置き去りにしない形で行う必要がある」との認識を示した。
同氏によると、SCGは持続可能性経営に関し、①2050年までに温室効果ガス排出量のネットゼロを目指す ②環境に配慮したイノベーションを展開する ③市場が必要とする人材のスキルを開発し、社会の不平等を解消する ④さまざまな組織と環境・社会・ガバナンス(ESG)推進のための協力関係を構築する-ことをガイドラインに設定しているという。
一方、同討論会に参加したチュラロンコン病院のラタプリー副院長は、テクノロジーは医療、そして治療に活用でき、さまざまな病気を予防し、人々が健康で長生きできるようにすると指摘。「患者は治療に病院に来る必要はない。例えば携帯型心臓モニター、携帯型血糖測定器もある」と述べ、テクノロジーにより遠隔治療が可能になっていると報告した。
さらに、「IoTデバイスは手頃な価格で簡単に購入、設置することができる。家でも、ガソリンスタンドでも、人々はスマホで病院サービスを受けられるようになる。例えば、ガソリンスタンドなどで電気自動車(EV)を充電している間に、トイレで尿検査ができ、脂肪分が測定できるようになる。今こそ、医療技術の普及を強化すべきだ」と訴えた。
タイではごみ問題、環境問題に対する住民意識がようやく高まってきており、今回のSX2022でも環境問題に関するさまざまな講演やイベントが行われた。タイの著名ドキュメンタリー作家で環境保護活動家のワナシング・プラサートクン氏も26日に「どうすればごみ問題を解決できるか?」をテーマに講演。「タイはプラスチックごみの海への放出量で世界のトップ10入りしている。タイのごみ処理の失敗が多くの汚染を引き起こし、世界に影響を与えている」と警鐘を鳴らした。さらに、この問題の原因は国民の意識に起因するだけでなく、構造的な問題があることが分かったと指摘。例えば、「行政管理、法的サポート、予算の問題、技術の問題などを具体的に解決しなければならない」と訴えた。
バンコク都庁は今年9月上旬、ごみ分別のパイロットプロジェクトとして生ごみとその他のごみを分別する取り組みを始めたが、ワナシング氏は、「たった2つのごみ箱からスタートしたことでごみ処理がとても楽になった」と評価。「タイ人はごみの分別が良いことだとは分かっているが、10人中9人は最終的にごみの分別処理はされないと思っているので自分でも分別しない」との見方を示した。
さらにタイには今、民間のシステムだけしかなく、強制力のある法的な仕組み、あるいは経済的な動機付けをする仕組みが必要だと強調。例えば、捨てる日を決めて違反したらペナルティを課したり、ごみを分別すればごみ処理代を安くしたりするなどの例を挙げた。
現在、タイではごみ処理で国の基準がなく、監督権限は地方自治体にあり、地方自治体も予算が十分ではないという。ワナシング氏は、学校でごみ分別についてきちんと教える必要があるとも指摘。タイの環境問題を解決するためにはごみ処理などのインフラ構築が急務だと述べ、講演を締めくくった。
TJRI編集部
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