「日タイ貿易経済委」8年ぶり開催 〜JSCCIBと経団連がMOU調印~

「日タイ貿易経済委」8年ぶり開催 〜JSCCIBと経団連がMOU調印~

公開日 2023.04.11

タイの商工会議所(TCC)、工業連盟(FTI)、銀行協会の民間経済3団体で構成する商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)と日本の経団連は3月16日、バンコク市内のホテルで、「日タイ合同貿易経済委員会」を8年ぶりに開催した。今回で24回目となる同委員会は経済団体幹部や民間企業の専門家が両国のビジネスの現状をめぐり活発な議論を交わした。ここでは開会式でのあいさつやタイ企業のプレゼンテーションを紹介する。

日タイは戦略的パートナーシップを強化

JSCCIB会長を務めるクリアンクライFTI会長は開会あいさつで、「日本とタイは長期間、特に経済面で緊密な関係がある。日本はタイへの投資国のトップであり、タイの重要な貿易相手国だ」と強調。今回の会合について、民間企業同士が情報や意見、ビジネス機会を交換し、「タイと日本の経済協力や貿易、産業、投資などを促進し、経済関係を拡大することを目指している」と、その意義を訴えた。

JSCCIB会長を務めるクリアンクライFTI会長
JSCCIB会長を務めるクリアンクライFTI会長(写真:FTI提供)

また、クリアンクライ会長はこの日午後の記者会見で、岸田文雄首相が、昨年11月にバンコクで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席する前の同年5月に日本の首相としては9年ぶりにタイを公式訪問し、日タイ両国の戦略的パートナーシップを強化する方針を表明したことに言及。そして、経団連が日タイ民間協力推進委員会を創設し、日本の大企業が多数参加した今回の日タイ合同貿易経済委員会で、今後、双方が重視する課題に取り組み、より緊密な協力関係を推進していくための覚書(MOU)に調印したことを明らかにした。

MOU締結後の日タイ合同貿易経済委員会の幹部ら
MOU締結後の日タイ合同貿易経済委員会の幹部ら

サプライチェーン見直しがさらなる発展チャンスに

一方、経団連で日タイ貿易経済委員長を務める伊藤忠商事の鈴木善久副会長が日本側を代表してあいさつし、「日本企業はこれまでにタイに積極的に投資し、産業集積を通じて、タイを一大拠点と位置づけ、グローバルなサプライチェーンを構築してきた」と説明。その上で、大国間の競争激化、新型コロナウイルスまん延によりサプライチェーンが寸断されたことから、「各国、各企業で課題となっているのがサプライチェーンの強じん化」であり、「サプライチェーン見直しがタイにさらなる発展の機会をもたらす可能性を示唆している」と強調した。また、気候変動などの地球規模の課題に対し、タイ政府がバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済の実現を国家の重要アジェンダに掲げ、具体的な取り組みを進めていることに敬意を表する一方、経団連も「サステナブルな資本主義」を掲げ、グリーントランスフォーメーションを推進しているとアピールし、両国の協力により地球規模の課題解決に貢献していくと訴えた。

開会式では、梨田和也駐タイ特命全権大使が来賓あいさつし、この委員会が前回開催された8年前は「日本はタイとの貿易額で2位であり、直接投資でも日本の存在感は圧倒的な1位だった」ものの、その後、「直接投資額は他国の猛追を受けており、貿易額にいたっては昨年、米国に抜かれ第3位に転落。タイにおける日本の存在感は相対的に低下している」と警鐘を鳴らした。一方で、「タイはBCG経済の推進を中核に据え、既に水素、CO2回収・利用・貯留技術 (CCUS)、バイオマスなどの脱炭素、バイオ化学や循環経済といった分野でスタートアップも含め日本企業とタイ企業のパートナーシップが数多く結ばれている新たなフェーズに入った」などと評価した。

タイは質の高い観光を目指す

午後の「タイ日間のビジネス協力の主要有望分野」と題するセッションではまず、カリン・サラシンTCC前会頭が「ハッピーモデルと質の高い観光」というテーマで講演。「新型コロナウイルス感染拡大前の2019年には、日本人の海外旅行者数は約2008万人で、そのうちタイへの旅行者数は約178万人と8.7%を占めていた。一方、タイの外国人観光客の総数における日本人観光客の比率は約4.48%と、トップ5に入っていた。コロナが収束しつつあった2022年には、タイへの日本人観光客は30万人近くまで回復した」などと報告した。

さらに、同氏はコロナ前のタイの観光収入は3兆バーツで、そのうち外国人観光客からの収入が2兆バーツ、国内観光からが1兆バーツで、観光支出では宿泊が25%、買い物が24%、食事が21%だったと指摘。さらに、「タイが日本から学びたいことは、観光バリューチェーン全体で収入を分散させることだ。また、ストーリーテリングや国内観光の推進、ソフトパワーなどでも日本を見習いたい。今後は、ロジスティクスや交通の接続性の向上、原材料の輸出、ウェルネスハブ化などの多くの分野で協力の機会があるだろう」との認識を示した。

また、「オーバーツーリズムや資源・環境の劣化などの観光客の行動がもたらす問題もあり、社会・環境への責任を持った質の高い観光客を重視する必要がある」と強調。「ハッピーモデル」とは、質の高い観光のための観光商品やサービスの開発指針であり、①Eat Well:ご当地グルメの支援 ②Live Well:宿泊やサービス施設の標準化 ③Fit Well:各県のスポーツや活動の支援 ④Give Well:地域特産品やまだ知らない場所などの知識共有-の4つの観光活動を通じて、タイの観光の質を向上させるとともに、観光客の心身の健康を増進し、地域住民も利益を得られるように支援することを目指していると説明した。

EAは商用車EVにフォーカス

同じセッションではタイの再生可能エネルギー大手として注目されるエナジー・アブソリュート(EA)のソムポート・アーフナイ最高経営責任者(CEO)も登壇し、「タイにおけるバッテリー電気自動車(BEV)の機会」と題してスピーチした。同CEOはEVシフトについて、「タイには十分な発電能力があり、全国的に電力普及率も高く、充電設備などのインフラを整備する能力もある。自動車サプライチェーンへの投資も多く、政府もEV振興策を表明しており、タイはEV普及に適した国だ」と強調した。

そして、同CEOは「2023年2月には約8000台のEVが登録され、飛躍的に増加している。主な要因は政府がEV1台につき15万バーツの補助金を支給する振興策であり、政府はさらにバッテリーの生産に補助金を支給し、外国からの輸入バッテリーとの競争力を向上させようとしている」と述べた。また、『タイランド4.0』戦略を通じて、2030年までに自動車生産台数の30%をEVにし、充電ステーションも増やす計画だと改めて政府目標を説明。さらに、「バスやトラックなどの商用車市場は大きな市場で興味深い。タイには約180万台の商用車市場があり、年間約8万台登録されている。今後5年以内に商用車をEVに切り替えていくと、年間30万台以上の商用EVの潜在需要が生まれる」と指摘した。

エナジー・アブソリュート(EA)のソムポートCEO
エナジー・アブソリュート(EA)のソムポートCEO(前列右から3人目)

また同氏は、エナジー・アブソリュートの事業を改めて紹介。低コストのEV急速充電を実現するために、「Ultra Fast Charge」というエコシステムを開発し、このプラットフォームを採用した商用車は15分以内に80%まで充電できるという。

このほか、 ①商用車を年間約9000台製造・組み立てを行う工場「Absolute Assembly」②全国に490カ所あるEV充電ステーション「EA Anywhere」③EAが買収したリチウム-イオンポリマー電池製造「Amita Technology」-の3事業を説明した。

アマタ、スマートシティを展開

最後のセッションでは工業団地大手アマタ・コーポレーションのヴィクロム・クロマディット最高経営責任者(CEO)が登場し、「サプライチェーン混乱に対応するタイと日本のパートナーシップ」という題で講演。同CEOは「タイのサプライチェーンは非常に強いと考えられている。タイは地理的な強みを持っており、東南アジアのハブと見なされている。もし飛行機でタイから出発すれば、1〜2時間以内にベトナムやミャンマー、カンボジアなどの近隣諸国だけでなく、シンガポールや香港まで行くことができる」とその優位性をアピールした。

同CEOはアマタ・コーポレーションの現状について、タイとベトナムでのアマタ工業団地に入居する日本の工場は企業数で604社、工場数で700ヵ所以上だと説明。2017年には横浜市と提携し、アマタシティ・チョンブリ工業団地に「2nd Yokohama」という名称で、住宅や商業ビル、デパートなどがある住宅や商業施設が混在するスマート・シティプロジェクトの展開を始めた。アマタシティには日本企業の工場数は400ヵ所以上あり、このプロジェクトは日本人駐在員を主なターゲットにしている。2022年10月に東部経済回廊(EEC)内では初の日系ホテルとなるホテル・ニッコー・アマタシティー・チョンブリが開業したと報告した。

TJRI編集部

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