公開日 2022.08.09
地球温暖化問題への認識の高まりなどを背景に世界的に二輪車、四輪車の電動化の動きが加速する中で、タイでも電気自動車(EV)の利用促進を目的に2015年11月に設立されたタイ電気自動車協会(EVAT)の活動が注目され始めている。2022年5月時点での会員数は世界の主要自動車・同部品メーカー、関連業界企業などの法人会員が233社、個人会員は109人だ。
EVATは6月中旬にバンコクで2022年度の年次総会を開催し、活動報告を行うとともに、タイ国内で販売されているEVの車種、販売台数、充電装置数などの最新データを公表した。今号のFeatureでは7月末に実施したEVATのクリサダ会長(独自動車大手BMWタイランドの広報担当ディレクター)のインタビューを掲載する。
目次
2022年6月末時点の統計では、バッテリー電気自動車(BEV)の累計登録台数は約1万8644台で、そのうち四輪車は約7173台(38%)、二輪車は1万0791台(58%)だ。このほか、プラグインハイブリッド車(PHEV)は約3万7075台、ハイブリッド車は22万8894台だ。一方で、世界のEVの累計販売台数を見ると、二輪・三輪のシェアが全体の44%を占めており、二輪のシェアが多いという傾向はタイも似ている。
2018年以後のEVの年間登録台数の推移をみるとタイのEV市場の成長ぶりがうかがえる。例えば、BEV車の登録台数は2018年には325台に過ぎなかったが、2019年には1572台に急増。これは中国・上海汽車グループによる「MG」ブランドの「ZS EV」(販売価格約100万バーツ)が発売されて人気となったためだ。その後、2020年には2999台、2021年には約5781台に増加、今年上半期は7325台(乗用車3042台)で、すでに2021年のBEVの総登録台数を超えている。
今後も3月に開始した政府による補助金支給などの支援策もあり、サプライチェーン障害の影響がなければ、今年の新規登録台数は1万台に達するだろう。
ガソリン価格の高騰に伴い、EVに乗り換えたいと考える消費者は増え始めている。これは、内燃機関(ICE)車ではガソリン代が1キロあたり約3〜4バーツかかるのに対し、自宅から充電したEVの使用コストは1キロ当たり0.6~0.7バーツで済むためだ。しかし、サプライチェーン障害という問題で顧客は納車まで長く待たされるという課題が残っている。
現在、世界ではウクライナ・ロシア戦争などの影響で、各種電子機器に使われる重要な部品である半導体の不足が問題視されている。一方で、新型コロナウイルスの流行による在宅勤務の普及に伴い、電子機器向けの半導体需要は増えている。これらはすべて、全世界の自動車産業に長期間の影響を及ぼしていくことになるだろう。
電気自動車(EV)のエコシステムの要となる充電装置(スタンド)の数を、EVの増加ペースに合わせて十分に増やしていけるかという問題もある。タイの最新データでは現在、全国855カ所に充電ステーションがあり、充電装置の総数は2459基だが、主要なDC(直流)急速充電装置(DC CCS2、DC チャデモ)は合計約1100基で、現在のEV走行台数なら十分だ。
タイ政府はEVの乗用車・ピックアップトラックの2025年時点の新規登録台数目標を約22万5000台に設定している。しかし、先に述べたように今年の登録台数予想は年間でも1万台で、今後3年間で目標を達成するのはかなりチャレンジングだと考えている。
EVの走行台数に応じて、充電装置の設置数を増やさなければならないことも背景にある。そこで、タイの国家電気自動車委員会(NEVC)は、DC急速充電装置を設置した充電ステーションの数を2025年までに2000〜4000カ所まで増やすという目標を掲げている。しかし現在はまだ、充電インフラに投資する企業は政府の支援や補助金を受けられていない。EVの普及目標を達成するには、NEVCが充電インフラ投資を支援する措置を検討すべきだろう。
EVは計画的な利用が前提だ。タイで販売されているEVはすでに1回の充電で400〜500キロメートルほど走れる。うまく計画を立てれば、移動中に充電をする必要はない。また、長距離の移動が必要な場合でも、約80%の充電で大丈夫なので、思ったほど時間はかからない。充電スタンドを道路沿いのレストランやサービス業のセールスポイントとして追加するビジネスモデルもある。消費者がEVの充電をしながら、サービスも利用したいという需要を喚起するモデルともなる。
タイのエネルギー政策の根幹である国家エネルギー総合計画は常に改訂されている。石炭の使用は削減される方向だ。水力発電ダムも一部使用しているが、統計によると発電にはほとんど天然ガスを使っていることがわかる。同計画では、よりクリーンなエネルギーを使っていこうという方向性が示されている。石炭火力発電所はいずれほぼゼロになる一方で、水力や太陽エネルギーへの切り替えが行われていく。例えば、タイ発電公社(EGAT)はウボンラチャタニ県のシリントンダムの水面に浮体式太陽光パネルを設置、既存の水力発電と組み合わせる「ハイブリッド発電」も始まっている。タイのトレンドはすでにクリーンエネルギーに向かっている。
また、ビジネス分野でより大きな影響を与える「炭素クレジット」の問題がある。企業は排出した二酸化炭素(CO2)の排出量を補償する炭素クレジットを購入することで、こうした新たな挑戦と商機に備えなければならない。これからのタイは、よりクリーンなエネルギーを生産する方向に向かう必要があるということだ。
MGブランドがタイの電気自動車市場を開拓し、その後、長城汽車(GWM)が追随し、現在では中国の自動車メーカーがタイの主要EVブランドになっている。長安汽車もタイ進出に関心を示していると伝えられ、さらに合衆新能源汽車がタイ現地法人「ネタ・オート(タイランド)」を設立、国営タイ石油会社(PTT)のEV関連子会社アルンプラスと提携するなど新しいプレーヤーが出てきている。市場のトレンドがEVの方向に向かっている時に、日本企業が同じ方向に進まないと、すぐに中国や欧州などのブランドにシェアを奪われてしまうかもしれない。
一方、注目すべきはトヨタ自動車の動向で、今年タイで生産・販売するBEV車「bZ4X」についてタイ政府の補助金支給と輸入税などの割引の適用を受ける方針を表明し、200万バーツ以下の販売価格を設定すると予想されている。トヨタはまずこのモデルを電気自動車市場のテスターとして投入し、その後、徐々に異なるモデルを投入していくのだろう。
タイでEVを普及させるという明確な目標が見えてきた。タイ政府はさまざまな政策を打ち出し、自動車メーカーにはEV生産に投資するよう働きかけている。
EV生産拡大には、バッテリーのほか、「インバーター」「トラクションモーター」の生産も必要だが、これらの部品はまだタイ国内にはほとんど存在していない。そのため日本を含め各国の自動車メーカーにとって良いチャンスだ。これらの部品を生産するサプライヤーを引き込むことができれば、日本のメーカーだけでなく、すべての自動車ブランドが生産拠点を設け、タイ製部品を使用するサプライチェーンとなる。そして、内燃機関車部品のサプライチェーンを、すでに需要が顕在化しているEV部品の生産拠点に転換する大きなチャンスとなる。
TJRI編集部
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