伝統を打ち破れ!タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

THAIBIZ No.152 2024年8月発行

THAIBIZ No.152 2024年8月発行タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

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伝統を打ち破れ!タイ老舗メーカーのブランド再生術の極意

公開日 2024.08.09

タイティーの生みの親、老舗茶葉メーカー「チャトラムー」の変革マインド

(左)チャトラムー・タイティー・オリジナル缶(茶葉) (右)店舗で販売しているタイティー

「タイティー(タイ式ミルクティー)」の元祖といえば、ほとんどのタイ人がまず「チャトラムー(ChaTraMue)」を思い浮かべるだろう。チャトラムーはタイで広く知られており、赤やゴールドのレトロな缶入り茶葉は、外国人観光客のタイ土産としても定番の人気商品だ。鮮やかなオレンジ色の見た目に、甘くて独特な香りの濃厚な味わいは病みつきになる人も多い。老舗の茶葉メーカーでありながら、革新を続けるチャトラムーの歴史とイノベーティブなビジネス戦略に迫る。

お茶の常識を覆すタイティー誕生

チャトラムーの起源は、1920年に中国の潮州からタイに移住した8人兄弟の三男が、1925年にバンコクの中華街ヤワラートで中国茶葉を輸入販売する「リム・メン・キー」という店を開いたことがはじまりだ。その後の約20年間は事業を順調に成長させていたが、時は第二次世界大戦下、爆撃で店が被害に遭う。それでも近隣に店を移転して営業を続けた。

当時の主力商品は中国茶やウーロン茶、緑茶であったが、この頃から紅茶の輸入も開始した。しかし、熱帯の国タイでは、熱い中国茶はタイ人には人気がなかった。そこで1945年にタイ人のニーズに合わせて、紅茶やミルクティーに氷を入れて「冷たいお茶」を提供したところ、タイ人に受けて、大ヒット。ブランド名をチャトラムーと名付け、これがタイティーの原点となった。

タイ初の茶葉の現地生産

タイティーがヒットした後もチャトラムーのあくなき挑戦は続く。創業当時から茶葉は中国から輸入していたが、当時の店主は、より安く現地調達するために調査を開始したところ、タイ北部で食用に茶葉が栽培されていることを発見。そこで、生産農家の近くのチェンライ県メースアイ地区のワーウィーの丘の上にタイ初の「製茶工場」を建てたのだ。

農家から茶葉の仕入れには成功したが、丘の上の工場まで機械や資材を運ぶには不便だった。そこで、1989年にサイアム・ティー・ファクトリーをチェンライ県の別の地区に設立し、今でもそこでタイティーを作り続けている。

一軒の茶屋「リム・メン・キー」からスタートし、現チャタイ・インターナショナル社に至るまで、何十年もチャトラムーはタイティーのナンバー1ブランドとして愛されており、今なお、街角の屋台やカフェのタイティーの材料として広く利用されている。

BtoBからBtoCで市場拡大を目指す

同社では長らく茶葉製造と卸売業のみであったが、1994年に茶葉を缶に詰めて、小売を開始。さらに2010年代に入り、BtoC向けにティー専門店チェーンを開始し、一気に知名度を上げた。マーケティング戦略では展示会への出展から始まり、ショッピングモールやデパートに加え、バンコクの高架鉄道BTS駅にも店舗を拡大した。現在は、タイ全国に145店舗以上を展開している。

タイティーは同社の最初のイノベーションであったが、現在も緑茶やウーロン茶などのほか、ミルクグリーンティーやローズティーなどのお茶の伝統を覆す新製品の開発に余念がない。2021年に大々的に発売した、タイティーやお茶を素材にしたソフトクリームも大ヒットしている。

また、人々の記憶にも残りやすくするために、独自のアイデンティティを保ちながら、インパクトのあるロゴと商品の美しいパッケージ開発にも力を入れているという。

出所:タイ商務省事業開発局(DBD)

時代の変化と消費者ニーズをキャッチアップ

チャトラムーの成功の秘訣は、お茶というコアの商品は守りつつ、常に消費者ニーズを敏感に捉え、柔軟な発想でイノベーションを起こしていることだ。タイの気候やタイ人の嗜好に合わせてタイティーを開発、ヒットさせ、お茶を飲む消費者の行動がより一般化されたことで、小売事業に参入し、一気に店舗を拡大。それぞれのターニングポイントでリブランディングをし、常に消費者に目新しい価値を提供している。

現在、同社はタイティーを世界に広めることを目指しており、マレーシアやシンガポール、中国、韓国など海外にも店舗を拡大中だ。

また、同社の3代目のプラウナリン・ルアンリッデート最高経営責任者(CEO)は、会社のイメージを向上させる上で重要な人物とみなされている。2017年にはバレンタインデーに合わせて「ローズティー」を発売。ローズティーは、「便秘解消が期待できる」という触れ込みで、さらにカップの見た目の美しさも相まって大ヒットとなった。

時代の変化に合わせて、消費者のニーズも変化していく。しかし、チャトラムーは変化を恐れず、常に消費者ニーズに合わせて、新たな挑戦をし続けている。タイティーが今なお多くの人に親しまれている理由は、消費者に向き合う企業のたゆまぬ努力の賜物なのかもしれない。

(ガンタトーン解説)チャトラムーが成功した3つのポイントを紐解く

①商品のイノベーション

タイの暑い気候に合わせて、氷を入れた冷たいお茶(タイティーの原型)を作り、「茶葉にお湯を入れて飲む」中国の伝統的なお茶の常識を覆したことが最初のイノベーションだ。チャトラムーの商品イノベーションはタイティーにとどまらず、2代目は卸売から缶入りの小売用茶葉を発売、多店舗展開、3代目はローズティーなどお茶をベースにしたヒット商品を続々と開発し、消費者を飽きさせない努力を続けている。

②商流のイノベーション

調達コストを抑えるために中国からの輸入から現地調達を模索していたところ、当時飲料用ではなく食用に栽培されていた茶葉を発見。チェンライ県の生産農家の近くにタイ初の製茶工場を設立し、新たなサプライチェーンを確立した。

③守るものと変革すべきものの見極め

変革を恐れないマインドがファミリー代々受け継がれている。常に革新的な挑戦をしている印象の強い3代目の現CEOだが、タイ地元メディアのインタビューに対して、「実はロゴはほとんど変えていない。当初は商品名も呼び方も統一されていなかったが、今のチャトラムーは当時のお客さんのことを考えて選んだもの。事業はどんどん進化するが、創業時から『大切にしてきたもの』と『歴史』はこれからも時代に流されないものにしていきたい」と語っている。

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THAIBIZ編集部

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