公開日 2024.07.26
True Corporation PCL(以下、True)傘下のタイ総合通信・デジタルソリューション会社TrueBusinessは7月18日、Google Workspace(以下、GWS) の導入支援を手掛ける株式会社ストリートスマートのタイ法人STREET SMART(Thailand)Co., Ltd. と業務提携契約締結を発表した。本提携により、STREET SMART(Thailand)はTrueBusinessが企業や教育機関向けに行うGWSの販売支援および、導入後の利活用支援のサービスを提供する。
ストリートスマートは「Google認定パートナー」として、これまで日本で民間企業3000社以上、および自治体や教育機関に向けてGWSの導入支援やトレーニングの提供を行ってきた。GWSにはGmailを始め、Google Drive、Google Meet、Google Calendarなど様々な機能があるが、出来ることの幅が広いが故に、知っておくべきことや習得すべきことも多岐にわたる。そこで同社は、GWSの営業支援および、導入後のテクニカルサポートを行うことで、GWSを「圧倒的に売りやすい最強の製品」へと成長させてきた。この日本での経験と蓄積されたノウハウをタイでも活かすべく、TrueBusinessとの提携に至ったという。
Trueのコマーシャル・戦略・通信技術パートナーシップ部門の責任者であるHow Lih Ren氏はTHAIBIZ編集部の取材に対し、今回の提携について「我々のユーザーの働き方やライフスタイルは大きく変化しており、GWSのソリューションは現代のタイ人に合っていると確信している。総合通信・デジタルソリューションとしてのTrueBusinessの強みと、ストリートスマートのGWSにおけるノウハウを掛け合わせることで、さらなるテレコムテックのマーケット拡大が期待できる」とコメント。日本企業との提携については、「TrueBusinessとしては、タイ企業およびグローバル企業と提携することで、先進的で革新的なソリューションを提供し、私たちのサービスをさらに差別化したいと考えている」と回答した。
ストリートスマートのCEOである松林大輔氏は、TrueBusinessとの提携に対し「日本でも大手通信会社との提携により事業を拡大させた実績があり、同様にTrueBusinessともWin-Winな協業ができると確信している」と胸を張った。提携に至るまでの経緯については、「TrueBusinessとの初対面は今年3月だった。私たちのビジネスモデルについて時間をかけて説明し、理解していただいた後の流れは早かった」と、スピーディーな対話であったことを明かした。
また、How Lih Ren氏は記者会見にて「今後タイ企業が直面するであろう働き方や人材の課題を、AIが解決してくれる日はそう遠くない。AIはビジネスにおいて人々の生産性を向上させ、教育現場では教育の質を上げてくれるだろう」とAIの持つ多大な可能性を示した。さらに「TrueBusinessはGWSのプレミアムパートナーである」と強調し、Googleの持つAIサービス「Gemini」などへ期待を寄せるとともに、今後のタイ国内でのGWSサービス拡大に向けた意気込みを見せた。
TrueBusinessとストリートスマートの提携実現においては、実はある人物が「縁の下の力持ち」として貢献した。樹脂押出成形とディップ成形の製造メーカーであるK.U. Nomura Thai Ltd.(以下、K.U. Nomura)の野村亮太Managing Directorだ。なぜ製造メーカーのMDが、GWSに関する事業提携に関わっているのか。野村氏に話を聞くと「低迷する日系製造業の次の一手」としての新しい挑戦であることが分かった。
K.U. Nomuraは1989年、株式会社ノムラ化成のタイ法人として設立された。ノムラ化成の野村一秀代表取締役社長の息子である野村亮太氏が、タイ法人のMDに着任したのは2020年のことだ。特に近年は、押し寄せる中国企業のサプライヤーなど外的環境の変化により厳しい状況に陥った会社を「何とかしなければ」と、野村氏は試行錯誤していたという。その一つが「工場内の業務効率化」だった。例えば資材の調達においては、在庫管理担当の従業員が紙に書いた記録を、別の従業員がエクセルに入力し、その情報をもとにマネージャーがサプライヤーにメール連絡し、購入していた。アナログな方法によりタイムラグや人的ミスが頻発していた在庫管理状況に危機感を抱いた野村氏は、Googleのサービス「Looker Studio」を活用して一連の作業をデジタル化し、大幅な業務改善に成功した。
「Looker Studioを工場内のあらゆる場面で活用し始めた時期に、ストリートスマートの松林氏に出会い、ノーコードでアプリを開発できるGoogleの『AppSheet』を教えてもらった」と、野村氏は当時を振り返る。すると、社内のIT人材がAppSheetを使用して、日報や勤怠のデジタル化を次々と実現。しかも、GWSのアカウントさえ持っていれば追加料金は一切かからない。「AppSheetの活用がうまくできたことで、当社の総合的な業務効率化に繋がった。このノウハウを他社に横展開すれば、製造業に限らず、あらゆる業種の課題を解決できると思った」と野村氏は話す。
一連の取り組みを見ていた松林氏からの「一緒に製造業DXを推進していこう」という後押しを受け、野村氏はSTREET SMART(Thailand)と2023年に業務提携を結び、GWSやGoogle Cloud製品に関する知見の共有、セミナーなど様々な活動をタイ国内で共に展開した。そして2024年6月、社内のIT人材との共同出資により、デジタルツールの開発支援およびコンサルティングのための新会社Wadfun Digital Solution Co., Ltd.(以下、Wadfun)の設立を発表。同時にSTREET SMART(Thailand)と資本業務提携を締結し、タイ国内企業のデジタルトランスフォーメーションを促進するための大きな第一歩となった。
野村氏は「新会社の設立は、TrueBusinessとストリートスマートの提携の話が動いたタイミングでもあったため、私はストリートスマートのダイレクターの草鞋も履いて、提携を進めるコミュニケーターとしての役割を担った。シンガポール留学時代に培った英語力とビジネススキル、タイで習得したタイ語力、そして前職のPR会社での経験がすべて繋がり、今は多忙ながらも非常に有意義な日々だ」と目を細めた。さらに「本業との相乗効果についても構想がある。将来的には、Wadfunの売上が本業を支える力になれば嬉しい」と、今後の展望を語った。
少子高齢化やタイにおける日本企業のプレゼンス低下により、事業継続が難しいと感じながらも何もできずにいる在タイ日本人ビジネスパーソンは多い。野村氏は「後継者として、このままの状況では持続可能性が見出せないと思い、ずっと悩んでいた。新しい製造技術の考案も、起爆剤にはならなかった。それでも諦めずに試行錯誤した結果、ストリートスマートとの出会いがあり、現在に至っている」とし、「今はまだ新しい挑戦がスタートしたばかり。頑張らなくてはいけないのは、これからだ」と表情を引き締めた。彼にとって新事業は、現状打破のための「次の一手」となりうるのか。新しいことに挑戦し続けること、人との繋がりをチャンスに変えること、過去の経験を総動員して今に繋げることー少なくとも野村氏の道の切り開き方は、苦境に喘ぐ日本企業に何かしらのヒントを与えてくれそうだ。
THAIBIZ編集部
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