カテゴリー: 特集
公開日 2015.10.20
そもそも再生可能エネルギーとは何なのか?エネルギーの基礎知識、そして日本とタイ各国のエネルギープランについて、技術士(衛生工学部門)の資格を持つ、エイト日本技術開発・バンコク駐在員事務所の大寺泰輔氏に話を伺った。
エイト日本技術開発・バンコク駐在員事務所の大寺泰輔氏
再生可能エネルギーは資源が枯渇せず、繰り返し使用可能で、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しない優れたエネルギーと言われている。
「日本では〝エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(図表1)〞において、『エネルギー源として永続的に利用することができると認められるもの』として、太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、大気中の熱、そのほかの自然界に存する熱、バイオマスが規定されています。必ずしも発電するものに限ったものを指すわけではありません」。
エネルギー源が太陽光であるため、基本的には設置する地域に制限がなく、導入しやすいシステムであることが特徴。太陽光を利用するため、発電するための資源が無尽蔵、また、メンテナンスも非常に簡単だ。屋根や壁などの未利用スペースに設置する場合には、新たに用地を用意する必要もなく、送電設備のない遠隔地(山岳部、農地など)の電源として活用されている。
「災害時の貴重な非常用電源としても利用できます。また、ご存知の通り腕時計や計算機などにも利用されており、もっとも身近に、そしてもっとも利用されている再生可能エネルギーと言えるのではないでしょうか。太陽光パネルは熱くなり過ぎると発電力が落ちてしまうため、タイで発電量が一番多くなるのは年末年始の頃です」。
デメリットとして、気候条件により発電出力が左右されること。技術革新により徐々に下がってきてはいるものの、導入への費用負担が比較的高いことが挙げられる。
太陽の熱エネルギーを太陽集熱器に集め、水や空気などの熱媒体を暖め給湯や冷暖房などに活用するシステム。機器の構成が単純であり、導入の歴史が古く実績も多い。現状、天候による熱変動、利用用途が熱のみといった課題があるが、新たな構造によるシステム開発が進んでおり、公共施設など新分野への導入拡大が期待されている。
日本で古くからエネルギー供給源として重要な役割を果たしてきたのが水力発電だ。大規模なものはスケールメリットなどの面で、ほかの再生可能エネルギーに比べてコストが低い。すでに高度な技術が確立されており、今まで未利用だった中小規模の河川や農業用水路などでも中小規模水力発電(1000kw以下)が可能となった。特に河川や用水路などの流れをそのまま利用する「流れ込み式中小水力発電所」は、大規模ダムなどの施設が不要で、河川の未利用水資源を活用することで河川環境の改善にもメリットがあり、総合的な環境保全に結びついている。
「日本の自治体では非常用電源の確保などを目的に、水路を利用した中小規模の水力発電が導入されており、タイでも田舎など、地方で中小規模水力発電の実用化が始まっていると聞いています。中小規模では数kwから数百kwまで発電できるものもあります。太陽光と比べて比較的低コストではありますが、気候による影響で出力が変動すること、小規模サイズのものではまだ高コストといった課題もあります」。
地域(地点)が持つ、使用可能な水量や有効落差などの条件に左右されるほか、環境保護の観点から魚など生息する動植物への影響度調査が必要な場合がある。
また、水利権の取得など、法的な問題をクリアする必要もある。
バイオマスとは、動植物などから生まれた生物資源の総称(図表2)で、この生物資源を「直接燃焼」したり「バイオガス化」するなどして発電するのがバイオマス発電だ(図表3)。技術開発が進んだ現在では、さまざまな生物資源が有効活用されている。
光合成により二酸化炭素を吸収して成長するバイオマス資源を燃料とした発電は「京都議定書」における取り扱い上、〝二酸化炭素を排出しないもの〞とされている。
また、未活用の廃棄物を燃料とするバイオマス発電は、廃棄物の再利用や減少につながり、循環型社会構築に大きく寄与する。家畜排泄物、稲わら、林地残材など、国内の農産漁村に存在するバイオマス資源を利活用することで、農産漁村の自然循環環境機能を維持増進し、その持続的発展を図ることが期待されている。家畜排泄物や生ゴミなど、捨てていたものを資源として活用することで、地域環境の改善にも貢献できる。
課題としては資源が広い地域に分散しているため、収集・運搬・管理にコストがかかり、広範囲での資源集約による大規模事業はリスクが高いという点が挙げられる。
「〝直接燃焼〞は化石燃料で発電する火力発電と基本構造は同じで、化石燃料の代わりとしてバイオマスを使用します。〝バイオガス化〞によるバイオガスの利用は、自動車のエンジンにガソリンを使うのと似ており、バイオマスを発酵させて発生したガスを、ガスエンジン発電機に送ってピストンを動かすことで発電します。バイオマスはそのほかにも燃料として利用されており、製材所端材やおがくず、樹皮などは木質ペレットに加工され、ペレットストーブやペレットボイラーで使われています。トウモロコシやサトウキビはバイオエタノールとしてガソリン車の、廃油や植物油はバイオディーゼルとして、ディーゼル車の燃料になるバイオ燃料を製造することができます」。
左:燃料として使用される木質ペレット
右:直接燃焼して電力に変える籾殻
風でブレード(羽根)を回し、そのエネルギーを電気エネルギーに変える風力発電。東南アジアは欧米諸国に比べると導入が遅れているものの、タイではFIT制度で優遇されている。日本においては2000年以降導入件数が急激に増え、11年度末で1870基、累積設備容量は255.6万kwまで増加している。
再生可能エネルギーの中では発電コストが比較的低く、近年では従来の電気事業者以外の商業目的での導入も進められている。工期が比較的短いのも特徴だ。
風車の高さや縦型や風レンズ型などブレードによって異なるものの、風力エネルギーは高効率で電気エネルギーに変換できる。また、太陽光発電と異なり、風さえあれば夜間でも発電が可能。天候による出力変動(台風時対応など)、低周波などの対策が求められる点にも留意が必要だ。
火山の地中にある、滞留水が沸騰した蒸気を利用し、タービンを回すことで発電する。地下の地熱エネルギーを使うため、化石燃料のように枯渇する心配が無く、長期間にわたる供給が期待されている。地下に掘削した井戸の深さは1000〜3000mまで達し、昼夜を問わず坑井から天然の蒸気を噴出させるため、発電も連続して安定的に行われる。
「課題として、地熱発電所の性格上、立地地区は国立公園や温泉などの施設が点在する地域と重なるため、景観や温泉への影響などからの観点から、地元関係者との調整が必要なことが挙げられます。その対策として、日本では縦に穴を掘るのではなく、国立公園や温泉街から距離を置いたところから斜めに坑井を掘削するなどの方法が認められています」。
地中熱とは、浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギー。大気の温度に対して、地中は地下10〜15mの深さになると年間を通して温度の変化が見られないため、夏場は外気温度よりも地中温度が低く、冬場は外気温度よりも地中温度が高い。この温度差を利用して効率的な冷暖房などに利用することができる。
「この地中熱利用はヒートポンプとも呼ばれており、空気を地下に送って地上と循環させます。地下の温度は1年通しておよそ15度程度で安定していますので、その温度差を利用した仕組みです」。
設備導入に係る初期コストが高く設備費用の回収期間が長いこと。また、設備の低コスト化と高性能化が十分に進んでいないという技術的課題もある。
※参考:経済産業省資源エネルギー庁HP「なっとく!再生可能エネルギー」
次ページ:日本とタイのエネルギー政策
THAIBIZ編集部
ネットゼロに向け気候変動法と炭素税の導入が果たす役割 ~タイ温室効果ガス管理機構(TGO)副事務局長インタビュー~
対談・インタビュー ー 2024.10.07
タイの気候変動対策の現在地 ~炭素税導入間近、再エネシフトの行方は~
カーボンニュートラル ー 2024.10.07
デュシタニとサイアムモーター、日本のプレミアム食品
ニュース ー 2024.10.07
ジェトロ・バンコク事務所が70周年記念フォーラム開催
ニュース ー 2024.09.30
タイから日本食文化を世界へ広める 〜 ヤマモリトレーディング長縄光和社長インタビュー
対談・インタビュー ー 2024.09.30
「生成AI」は社会をどう変えるのか ~人間にしかできないこととは~
ビジネス・経済 ー 2024.09.30
SHARE