カテゴリー: 組織・人事
公開日 2016.07.25
目次
カルロス・ゴーン氏が日産の社長に就任した時、「日産はさまざまな国で事業を展開しているが、グローバル企業ではない。多国籍で事業するマルチカントリーオペレーションカンパニーだ」と言われました。日本を中心に世界を見るのではなく、常に世界を地球儀に想定して、それぞれ、ひとつひとつのマーケットが中心であると考えられる、日本も世界のマーケットのひとつであり、その市場の顧客を大切にして、世界的なビジネスができてこそ、真のグローバル企業です。
「Global But Local」、グローバル企業だけれども、ブランドとしてはローカルに見える。例えばプロクター&ギャンブル(P&G)やネスレのような、商品を販売している国の人がローカル企業だと思っている企業。それがグローバル企業として目指すべき姿だと思います。
グローバル企業は、世界から最適な人材を集めて、最適な人員配置を行い、グローバルでパフォーマンスの最大化を狙います。それには国籍、年齢、性別などは関係なく、その国にとって最適な人材を置くことです。タイであれば、タイ人人材のほかに、技術が必要であれば日本人を置くであるとか、グローバルのステージではさまざまなケースが想定されます。人がそれぞれに持つ才能をベースにした人員配置を展開していくことが重要です。 現地で人材獲得に苦労している話をよく聞きますが、タイであれば、タイ人に活躍してもらうべきですので、ローカル人材をしっかり育成することです。日産ではキャリアパスの一環として、優秀な人材には国外や日本本社でも仕事をしてもらっています。能力の高い人材は機会を得ることで成長していくのです。
私は人材マネジメントについて、〝 発掘・育成・抜擢・評価〞という4つのワードで表現しています。ポテンシャルのあるローカル人材を発掘して、育成する、潜在能力のある人材には抜擢人事で挑戦の機会を与える、それを評価して、能力をさらに上げていく、そうすることで高い効果が得られると思います。中でも〝抜擢〞は非常に重要です。ローカル人材がチャンスを掴むきっかけになりますから。
内部の人材育成と外部からの人材投入、両方必要だと思います。内部で人材を育てながら、外部の人材も常にリサーチして、良い人材は引っ張る。外部からの人材は、内部の育成では得ることができない刺激や経験をたらしてく れます。
Jリーグの例がわかりやすいのです が、1992年、日本にプロリーグができたことで、日本のチームに国外から有名な選手が加わり、外国人選手との切磋琢磨が生まれました。現在では日本人がヨーロッパの各トップリーグをはじめ、国外のチームでプレイしています。
国内で、日本人だけでチームを組めば平均点は取れますが、多様な文化やバックグラウンドを持つ人が交じり合い、お互いの能力を引き上げていくことで化学反応が起こり、グローバルに強い人材が育っていきます。同質の文化で育った日本人同士ならば、言語も同じで居心地は良いですが、居心地の良さがハングリー精神、チャレンジ精神を損なってしまう。そういう意味では、日本から飛び出して、タイで仕事されている方々は評価されるべきだと思いますね。
日本では仕事ができる人が課長、部長、社長というように、どんどん役職についていくケースが一般的ではないでしょうか。リーダーはチームの一人一人が100%、120%の力を出せるように引っ張り、チーム全体でプロジェク トに取り組んでいくべきですが、仕事ができる人は、全部自分でやってしまいます。マイクロマネジメントとして、あれやれ、これやれだけ指示するのではなく、戦略やビジョンをチーム全員に明確に伝えて、全員に同じ方向を向かせて、やる気を引き出して挑戦させるのがリーダーの役割であり、リーダーシップが意味するものです。また、「みんなついて来い!」と言うようなストロングリーダーが理想のリーダー像であると勘違いされていることも多いされていることも多いですね。
しかし、本当のリーダーとは、チームのメンバーが、そのリーダーの戦略やビジョンに付いていきたいと思える人を指すのだと思います。
リーダーとは組織全体を束ねる、現場が見えている人のこと。リーダーに付いていくことで、みんなが成長できる、成長が実感できる、そういう組織作りを目指さなければなりません。それが、仕事ができる人とリーダーは違うということです。
当時、日産のインドネシアでのビジネスは小さくて、それをなんとかしようと思い、1991年に1人駐在として渡りました。インドネシアの現地組織に飛び込んで、一番大切だと感じたのは「同じ思い」を持つことです。私は「共感(Empathy )」とよく言っていますが、インドネシアでのビジネスを大きくしようとする思いを、私は彼らにぶつけ、インドネシア人スタッフがそれに同じ思いを持って応えてくれたことが大きかった。たまたまインドネシア語はそこまで難しくなかったもので、着任して2〜3ヵ月後にはインドネシア語で会議ができるようになりましたが、同じ思いがあれば言葉の壁は関係ないと思いました。日本人1人きりで苦労は多かったですが、この経験が自分を成長させてくれたのは明らかです。言葉の問題ではなく、〝心を通い合わせる〞ということ、異国の人たち と手を取り合い、ひとつの仕事を一緒に成し遂げるダイバーシティ(多様性)の重要性を実感した経験です。
駐在した5年半の間、一度は否決されたプロジェクトから工場を設立、生産、販売までの一通りをインドネシア人と経験して思ったのは、国籍は「全く関係ない」ということです。後任のインドネシア担当者には 「駐在員は置くとしても2人までだ」と言いました。日本人同士なら〝阿吽の呼吸〞で仕事ができますが、インドネシア人とはそうはいかない。だから余計に日本人を連れて行きたくなりますが、そこを我慢して、インドネシア人と一緒に仕事をする。なぜなら、インドネシア人は現地のことを何でも知っているわけで、今でもインドネシア法人では、ローカル人材に重点を置いた体制をとっています。日本人が持つ能力と、タイ人が持つ能力を融合させた力を、ここタイ法人でも発揮してもらいたいと思っています。
日産では、〝本社がやること〞と〝現地が やること〞の範囲を定め、現地に権限を委譲しています。しかし、顧客に近いところで意思決定ができるよう、その権限を極力、最大化して現地ニーズに合わせていくと、グローバルには合わない。〝ローカル最適化=グローバル最適化〞ではないということです。本社にはグローバル最適化の指針があり、ローカルでやりたいことが100%できない、80%ぐらいしかできないとしても、結果的にはグローバル最適として効率性が高められていく。現地で個々に好き勝手やっていくよりも、もっと大きな価値を提供できることになる。そういう区分の見極めが非常に重要だと思います。
例えば、タイ市場向けの車をタイだけで売っても利益は見込めません。グローバル全部で台数をまとめると、タイのお客様にとってはここが不満というところがあるかもしれませんが、グローバルとしての最大公約数という点では満足していただける。結果的に分母が増えることでコストが下がり、より良い自動車をタイのお客様に提供できるようになる。そういう全体最適と個別最適をきちんと説明した上で、正しい判断をしてもらうという、双方のコミュニケーションがとても大切です。予算がないからカットだとか、そんな地域の要望は聞いていられないとか、コミュニケーションが全く取られておらず細部がわか らない状態で、あれはダメ、これはダメでは、〝本社は現場の要望に耳を傾けてくれな い〞という不満につながります。本社と現地、お互いに聞く耳を持って、しっかりと説 明することが重要です。マーケットに近い現場にいると、お客様の声がたくさん聞こえてきます。現場はそれを本社に伝え、本社は聞いたもの全部が全部、要望には応えられないけれども、その中で取捨選択し、しっかり説明する。〝聞く、説明する〞という2ウェイのコミュニケーションが非常に大事です。本社側と現地側の間で不満が溜まっているとよく聞きますが、それはコミュニケーションが足りていないのだと思います。
今、日産では電動化、自動運転に注力していて、そういうところに経営資源を使っているのですが、タイをみれば、電動化、自動運転はまだまだ先の話なわけですよね。ただ、いずれタイも市場になる時が来ると考えていますので、その時に、今注力している技術が活用できるはずです。将来のビジョンを見せながら、「電動化、自動運転に注力しているので今は我慢してくれ、全部は応えられないが、いずれタイのお客様にその価値を提供できるはずだから」といったコミュニケーションを取るべきであり、不満が溜まる原因は、本社の説明不足、または現地のアピール不足にあるのかもしれません。
コミュニケーションとはスキルの問題ではなく、後ろにいるお客様の声に背中を押されて本社に伝える情報の正確さと、情熱の問題だと思っています。例えば100人のお客様がいて、その1人の声だけを伝えても、もしかしたら99人が興味はないという場合もありますので、そのマーケットに対する正確な知識を持ち、どれだけのニーズを理解しているか。情熱は本社を動かします。
私がインドネシアに駐在した当初、本社はインドネシア市場に興味がありませんでした。なんとかインドネシアの市場を大きくしたかった私は何度も本社に掛け合いましたが、工場の設立は一度既に否決されていたプロジェクトで、見向きもしてもらえませんでした。そこである時、一時帰国の際に本社の役員に訴えたら、「もうわかったから社長に言え」と言われ、その頃まだ課長だった私は社長に会いに行きました。役員も来てくれるかと思ったら、来てくれなくて(笑)仕方なく私1人で社長にいただいた時間を精一杯使って、インドネシアの重要性を滔々と説明しました。そうしたら社長は「負けたよ。1回インド ネシアに行ってあげるよ」と、インドネシアまで来てくれたんですね。90年代、経済成長しているインドネシアを目の当たりにして、「数百億は出せないが、数十億の小さなプロジェクトならやってもいいんじゃないか」と言ってくれました。それが1994年に承認された、今あるインドネシアの工場のスタートです。情熱を持って仕事に取り組むということが、扉を開くことがあります。インドネシアのパートナーたちとは、プロジェクトが否決されたことで仕事ができなくなってしまった。彼らに対して、4年間も付き合わせたのに、申し訳ないという気持ちがありましたし、何よりもインドネシアが好きでした。タイで駐在されている方もタイが好きだから、タイで仕事している方が多いと思います。タイ が好きで、自分の会社も好き、自分の会社のビジネスをタイでなんとか大きくしたい と思っている方は多いのではないかと感じています。そういう情熱が、結果的に良い仕事につながるのだと思います。
若い人でいえば、海外駐在、特にアジアで駐在するのは大きな経験です。ただ、会社に行っても日本人だけでミーティングをして、日本人だけで食事をして、タイ語も話さないしタイ人とも話さないのではもったいない。せっかくタイにいるのに、日本人だけで生活していては、ダイバーシティを体感できません。海外でしかできない経験をしてもらいたいと思います。
もう1点、帰任の際は後任を日本に頼まず、タイ人に任せることです。本社からタイや中国に駐在させる時、「自分の後任を日本から呼んだらアウトだ。自分の持っている技術なりノウハウなりをどれだけ、ローカル人材に移管できるかがあなたの仕事だ」という、そういう気持ちを持って取り組ませることが大事だと思います。よくリテンションが悪く、人がコロコロ辞めていってしまうと聞きますが、 「俺の技術、ノウハウを全て学んでくれ」 という情熱を持って接していれば、人は辞めないと思うんですね。ローカル人材が 辞めてしまったから後任に日本人を送って、またタイ人も入れ替わって、ではいつまでたっても高い経費を使って駐在員を送り続けなければならないし、タイ人スタッフも育ちません。日本人が情熱を持って、タイ人に技術、ノウハウを伝えていけば、いずれはタイ人だけで会社運営ができるようになります。また、タイから日本に人材を送ってマネジメントを勉強してもらえれば、社長、副社長もタイ人で固めることができます。そうすれば、 日本の企業でありながら、ローカルでマネジメントする企業になります。そういうことをやってほしいと思います。
志賀俊之●日産自動車副会長
1953年生まれ。和歌山県出身。 1976年に日産自動車に入社。1991~1997年までインドネシアに駐在、 アジア大洋州営業部ジャカルタ事務所長を務めた。1999年に企画室 長に就任し、同年ルノーとの資本・業務提携によって日産のCOOとなったカルロス・ゴーン氏の下、アライアンス推進室長を兼任した。現場とのパイプ役として、「日産リバイ バルプラン」の立案・実行に力を振るった。その後、2000年から常務執行役員として一般海外市場担当として成果をあげ、2005年4月に最高執行責任者(COO)、同年6月に 代表取締役、COOに就任した。 2015年6月取締役副会長に就任、現在に至る。
THAIBIZ編集部
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