日本で生まれた高性能工業炉が技術実証を経て”タイの標準装備”へ

THAIBIZ No.172 2026年4月発行

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日本で生まれた高性能工業炉が技術実証を経て”タイの標準装備”へ

公開日 2026.04.10 Sponsored

本連載は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)バンコク事務所が実施した、日本の技術の国際実証事業に対する追跡調査結果を報告するものです。

タイを中心に行われた同調査は、プロジェクト実施者へのヒアリングを通じて、成果や波及効果に加え、事業中の課題や制度面の改善点までを体系的に整理し、今後の国際実証事業のマネジメントの高度化につなげることを目的としています。

NEDOによる追跡調査では、国際実証事業として2007~2009年に「アルミニウム工業における高性能工業炉モデル事業(以下、工業炉モデル事業)」を実施したロザイ工業にもヒアリング調査を実施した。同事業では、日本の高性能工業炉をタイ側カウンターパートであるVaropakorn Public Co., Ltd.(以下、Varo社)に導入し、その有効性が検証された。

高効率の「リジェネレイティブバーナー(以下、リジェネバーナー)」システムをコア技術とする高性能工業炉は現在、在タイ日系企業における“標準装備”として定着するまでになった。本稿では、ロザイ工業の技術顧問を務める家次儀一氏へのヒアリング調査結果を紹介する。

NEDOが開発した高性能工業炉をタイで実証

工業炉モデル事業は、NEDOと工業省工業局(DIW)との間で締結された覚書(MOU)のもと、ロザイ工業が、Varo社の既設アルミ溶解・保持炉1および焼鈍炉2を高性能工業炉に変更し、その環境効果を実証するものだ(図表1)。

出所:ヒアリング結果調査にもとづきTHAIBIZ編集部が作成

高性能工業炉に用いられるリジェネバーナーは、「蓄熱媒体を持つ二台のバーナーで一対」という構造を持ち、一般的なバーナーと比較して燃焼時のエネルギー消費が大幅に少なく、エネルギーコストの削減につながるほか、二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)の低減にも寄与する特長がある。

「そもそもの始まりは、1993~1999年に、NEDOの委託事業『高性能工業炉の開発事業』として、日本工業炉協会の有志が高性能工業炉の開発に着手したことだ。当社社長の小林も、そのメンバーの一人だった」と、家次氏は工業炉モデル事業の原点について語った。

開発された高性能工業炉はその後、日本国内での普及を目的としたフィールドテストが実施された。その結果、30%以上の省エネルギー効果が確認され、日本では普及が進み一定程度の認知度を築くことができた。次のステップとして東南アジアでの普及可能性を探ることになり、その対象国としてタイが選ばれたという。

Varo社をカウンターパートとした理由について同氏は、「Varo社は当時、タイ国内でトップクラスのアルミ生産量を誇り、タイのアルミ協会の代表も務めていた点が大きかった」と説明した。

軍事政変で事業が遅延、Varo社との意識の乖離も

「どれほど優れた技術であっても、実際に使ってみなければその価値は伝わらない。しかし、規模の大きい設備ほど、ユーザーが容易に試験導入することは難しい。だからこそ、NEDOの事業として海外普及を図ることには大きな意義があった」。家次氏は、工業炉モデル事業の目的をこう語る。

「熱技術を通じて世の中に貢献する」を掲げるロザイ工業としても、特に東南アジアにおける事業展開には、当初から積極的に取り組む姿勢があったという。

一方で、同事業の立ち上げにあたっては、さまざまな課題にも直面した。家次氏は、「最初の大きな障壁は、事業決定後の2006年に発生したタイの軍事政変だった」と振り返る。「日本の工業炉を視察するためにDIWの担当者が来日するなど、順調に関係構築が進んでいた矢先に政変が起き、国内情勢が不安定化したことで事業は一時停止を余儀なくされた」という。

2007年6月にNEDOとDIWがMOUを締結し、事業が本格的に動き出した後も、「Varo社との意識の乖離が大きな課題だった」と同氏は指摘する。当時のVaro社は老朽化した設備を使用しており、省エネルギーに対する理解や優先度は必ずしも高くなかったという。

「彼らにとって最大の関心事は、高性能工業炉を導入することで果たしてどれほどの経済的効果が得られるのか、という点であった」と、当時の状況を説明した。

こうした課題に対し、ロザイ工業は、省エネルギーがなぜ重要なのか、この事業を通じて何がどのように変わるのかについて、丁寧な説明を重ねていった。「最終的には、事業終了後に省エネルギー効果が目に見える形で現れたことで、ようやく理解と納得を得ることができたと感じた」と、家次氏は当時の心境を語る。

工業炉モデル事業でVaro社へ納入した溶解炉および保持炉(写真提供:ロザイ工業)

他国からの模倣品が出回るほどタイに普及

2009年8月末に工業炉モデル事業は終了した。実証の結果、Varo社では、年間20トンの燃料削減という経済効果に加え、年間1,265トンのCO2削減という温室効果ガス削減効果が確認された。同年10月には竣工式が実施され、これらの成果はタイ国内の関係者に向けて広く周知されたという。

工業炉モデル事業で導入された焼鈍炉
(写真提供:NEDOバンコク事務所)

こうしたPRが奏功し、多くの企業から引き合いが寄せられ、高性能工業炉は次々と導入されていった。ヒアリング調査実施時点でも、Varo社をはじめとする複数の企業において、現在も継続して活用されていることが確認できた。特にアルミ工業分野における在タイ日系企業にとっては“標準装備”として定着している。

家次氏によれば、その普及のスピードは、他国からの模倣品が市場に出回るほどの勢いだったという。「ロザイ工業は2013年に現地法人であるROZAI (THAILAND)CO., LTD.を設立し、フォローアップサービスを徹底することで差別化を図った」と、同氏はソフト面での強みも強調。

さらに、「模倣品が出るということは、“良いもの”として認められた証である。安価で同様の技術が使えるという意味では、世界全体にとっては良いことなのかもしれない。我々が“より良いもの”を作り続けていけば、結果として世界の省エネルギーに貢献できると考えている」と、ロザイ工業としての見解も付け加えた。

工業炉モデル事業を基盤に、次なる発展へ

ロザイ工業は同事業を起点に、現在はNEDOグリーンイノベーション(GI)基金3を活用し、工業炉による低炭素・脱炭素の実現に向けた取り組みを進めている。

家次氏は同プロジェクトについて、「CO2を排出しないアンモニアや水素を燃料とした工業炉の技術開発、電気炉の受電設備容量などの低減・高効率化を目指す研究である。対象期間の2031年までに研究成果を出したい」と意気込みを語った。

日本で確立された技術が、タイで“標準装備”として定着し、事業終了から15年以上経た今も新たな研究開発の基盤として進化を続けていることが、今回のヒアリング調査では明らかになった。

事業実施中に直面した数々の困難を乗り越えた先にあるこの成果は、「より良いものを作る」という日本企業のものづくり哲学と日タイ双方の地道な連携努力が結実したものであり、NEDO国際実証事業の好事例とも言えるだろう。

Interviewee

ロザイ工業株式会社
技術顧問

家次 儀一

  1. 1. アルミのスクラップ等を溶かし(溶解)、鋳造に最適な温度に保つ(保持)設備。 ↩︎
  2. 2. 保持後、冷却し、加工性や内部構造を安定させるための熱処理炉。 ↩︎
  3. 3. グリーンイノベーション基金事業の詳細は下記リンクを参照。
    https://green-innovation.nedo.go.jp
    ↩︎

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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