最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中
カテゴリー: 組織・人事
連載: タイ人事お悩み相談室 - Asian Identity
公開日 2026.05.12
Question:タイ人に「会議中に発言させる」方法はありませんか?
Answer:会議中のみならず、「事前の準備」が会議の準備には関係しています。
前回は「タイの会議はなぜ生産性が低いのか?」というテーマで、その背景にある三つの要素―「関係性」「進行スキル」「仕組み」―を取り上げました。「関係性」については、上司と部下の心理的距離を縮めていくことが重要という話を書きました。今回はその続きとして、「進行スキル」について書いていきます。前回が人間関係の話ならば、今回は「技」の話です。

本題に入る前に、少し場面を思い浮かべてみてください。タイの会議には、大きく分けて二つのパターンがあるように思います。
一つ目は、前回テーマにした「沈黙が支配する会議」です。理由は心理的距離、つまり関係性にありますが、過去の経験による可能性もあります。過去に「発言をして怒られた」という経験をした人が多ければ、それが沈黙を促す組織風土になっていることがあります。
二つ目は、まったく逆の「おしゃべりが止まらない会議」というのもあります。そもそもタイ人は、おしゃべりが好きな方が多いです。同僚同士でペチャクチャと話している姿は、どのタイのオフィスでも当たり前の光景でしょう。
その空気が会議にもそのまま流れ込むと、話があちらこちらに飛んでまとまらない「カオスな会議」になっていきます。発言が出ること自体は悪いことではないのですが、時間とトピックの管理ができなければ、その会議の目的は達成されません。
皆さんの会社の会議はどちらのタイプでしょうか?正反対のように見える二つの現象ですが、実はどちらも「進行スキル」の不足という共通の原因が横たわっています。沈黙の側では「発言を引き出す技術」が、カオスの側では「議論を整理し収束させる技術」が必要になるのです。
目次
会議は、冒頭で大きく結果が変わります。今日は何をする時間なのか、アジェンダはどうなっているか、どれくらい時間を使うのか。これを最初に明示するだけで、参加者の集中力はずいぶん変わります。
アジェンダはホワイトボードや画面の隅に常に表示しておくと良いでしょう。話が逸れたときや時間が延びたときに、「この論点に戻りましょう」と指差せるアンカーになります。
また、「今日はPCを閉じてやりましょう」「今日は未来の話なので、どんな意見でも歓迎です」などの参加姿勢を作る一言も、会議の雰囲気を決めるうえで非常に大事です。
さらに、忘れてはならないのが「会議の事前案内」です。なんとなくカレンダーに入れたけど十分な案内もなく、「今日は何の場なの?」と言う雰囲気で始まる会議は往々にしてうまくいきません。
事前に「誰を集めて、何をしたいのか」が明確でないと、そもそも参加姿勢が後ろ向きな状態でスタートしてしまいます。その姿勢を会議中に前向きに戻すのは簡単ではありません。
「沈黙型」の会議に効くのが、このActivateのステップです。「もっと意見を出してください」と言えば言うほど、場は静かになっていく――そうした経験はないでしょうか。そこで、私が現場でお勧めしているのは、3つのテクニックです。
「誰か意見はありませんか?」と聞いて発言待ちする時間は無駄です。偏らないようにしながら、どんどんバイネームで意見を求めましょう。そのほうが緊張感のある会議になりますし、会議の主導権を握ることができます。
「このテーマについて意見を聞くので、各自一つはアイデアを持ってきてください」とお願いしておけば、その場で考える負担をなくすことができます。
会議の人数が多い場合は、特定の時間だけ、小グループに分けるのがおすすめです。「最初に3分間だけ、小グループで話しましょう」とまず会話してもらうと、一対多の心理的圧力が一気に下がります。そうすることで「場が温まる」ので、その後で大人数に戻っても意見が出やすくなります。
このように、会議の進行には細かいテクニックがいくつもあります。「発言してくれない」のではなく、「発言させるための場づくりができていない」と捉えて、やり方を工夫しましょう。
「論点があちこちに行って、結局結論がでない」ことを防止するためには、意見の整理が必要です。特に「カオス型の会議」には必須でしょう。ここでは「論点ごとに整理する」コツをご紹介します。
まず、ホワイトボード(オンラインなら画面共有)を使って、出てきた意見を論点ごとに分類していきます。参加者の前には、常に「今、議論がどこにいるのか」が見えている状態を作るのがコツです。
論点と言うのは、「会議の最終ゴール」に対して「詰めておくべき要素」のことです。例えばイベント開催であれば、「①目的・ゴール」「②会場」「③予算」「④内容」などが論点です。論点が多すぎると認知負荷が上がるのでせいぜい5つくらいまでにまとめましょう。
論点は、いわば「会議の地図」です。地図のない議論は「場がコントロールされていない」状態に映ります。整理されたものが目の前に出続けている限り、参加者は安心して次の発言を重ねていくことができます。
特に、タイでの会議は日・英・タイの3つの言語が飛び交い、発言が同じように理解されるとは限りません。だからこそ、論点と、発言をホワイトボードに可視化し、全員の認識を揃えることが需要なのです。
だらだらと終わらない会議の正体は、決め方のルールが合意されていないことにあります。「会議のオーナー(組織長)が決める」「多数決で決める」「反論が出なければGOとみなす」など、決め方はいくつかのパターンがあります。
司会者の腕の見せどころは、まとまらないと感じた瞬間に「では、今回はこの決め方で行きませんか」と、決め方そのものを提案できることです。「決め方を決める」。耳慣れないかもしれませんが、重要なことです。
特にタイ人は、「誰が権威を持つのか」「何がルールなのか」が明確だと、不思議とスッと従ってくれる面があります。だからこそ、そうしたルール決めをしてあげることが大切なのです。
以上、会議の流れに沿ってテクニックを紹介してきました。研修の現場などでは、私は「IAOC」=Initiate(場を作る)、Activate(意見を引き出す)、Organize(整理する)、Conclude(結論を出す)という4つのステップで会議を組み立てましょうとお伝えしています(図表1)。

ほとんどのタイ人は「会議のやり方」を教わったことがありません。教わったことがないのにできないのは仕方がないとも言えます。逆に、しっかり教えると、まじめにルールを守って会議を改善してくれるようになるのもタイ人の良さです。
なお、会議が終わったら、ネクストアクションを必ず確定させましょう。誰が、いつまでに、何をやるのか。これを口頭で確認するだけでなく、必ず書き出して残します。ここから次の「仕組み」の話につながっていきますが、続きはまた次回にしたいと思います。

タイ組織における日々のモヤモヤを解決し、効果的な人事戦略を学べる「タイ人事マネジメント塾」が今年も開催されます。
自社に持ち帰り“機能させる”ための実践的ヒントが詰まった人気セミナーです。
ぜひご参加ください。

株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
中村 勝裕 氏(愛称:ジャック)
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。
リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。Youtubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」も運営。
人事に関するお悩み・ご質問をお寄せください。
「タイ人事お悩み相談室」コラムで取り上げます!→ info@a-identity.asia
Asian Identity Co., Ltd.
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
◇Asian Identityサービスサイト
http://asian-identity.com

日系、「揺れ」への備え鈍く~地震1年、タイの変化は(1)
ビジネス・経済 ー 2026.05.12

「中東リスクで企業もコスト対応を本格化」「今後注目される5つの有望輸出市場とは?」
ニュース ー 2026.05.12

タイの会議をどう機能させるか?
組織・人事 ー 2026.05.12

いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由
対談・インタビュー ー 2026.05.11

「現地化が進まない」本当の理由とは 〜組織診断で変わる、在タイ日系企業の変革アプローチ
対談・インタビューSponsered ー 2026.05.11

東南アジアのコンテンツ市場動向と日系企業の事業機会(前編)
ビジネス・経済 ー 2026.05.11
SHARE