
カテゴリー: DX・AI
連載: AI時代を生き抜くための変革
公開日 2026.06.10
前回、変革の中心は技術ではなく「ヒト」であり、生成人工知能(AI)がコミュニケーションハードルを破壊した今こそ変革リーダーの覚悟が問われると整理しました。では、その覚悟を持ったリーダーは具体的に何をすべきか。第2回では、変革を動かすための「意志(ソフト)」と「仕組み(ハード)」の両輪に焦点を当てます。
目次
「権限は渡している。でもタイ人スタッフが自分で判断してくれない」—在タイ日系企業で最も頻繁に聞かれる悩みです。しかし本当に「任せられる状態」をつくれているでしょうか。行動・判断に必要な情報、基準、そして挑戦しても報われるというカルチャー—この3つが揃っていないことが「動かない」の正体です。経営者がAI壁打ちを通して意志(ソフト)の言語化を徹底的に練り上げ、仕組み(ハード)によって確実に届け、組織OS(組織基盤)を設計することが重要です。
変革の起点は、経営者自身が「この拠点で何を実現したいのか」を言葉にし、語り続けることです。前回触れた通り、生成AIの活用で「考える→磨く→届ける」のサイクルは劇的に速くなりました。あとは、駐在員自身がこの役割に意識変革できるかどうかです。
実際のところ、駐在員でなければ務まらないポジションは少なく、オペレーション管理、品質管理、顧客対応、本社向け報告などは、適切に育成・権限移譲されたローカルメンバーで十分に回せる業務です。
では、駐在員の存在意義はどこにあるのか。それは、日本本社の経営意図を深く理解した上で、タイ拠点の現場に変革の方向性を自らの言葉で届けること—この一点に集約されます。本社とタイの間に立ち、変革の意志を体現する。これこそが、ローカル人材では代替しにくい駐在員固有の役割です。
ローカルに任せられる業務を手放せないまま日々が過ぎ、変革の意志を語る時間も余力も生まれない。本社から「拠点を変えろ」と送り出された本人が、変革の最大のボトルネックになっている—こういった状況に陥っていないかを省みた上で、駐在員としての存在意義を「管理者」から「変革リーダー」へと再定義する覚悟をもってアクションすることが、すべての出発点です。
生成AIをはじめとした社内外の資源を最大限活用し、言語化・伝達し続けることで、組織のカルチャーを少しずつ変化させることができるでしょう。

意志が届いたとしても、それだけでは劇的な“人の行動の変化”はなかなか起きません。「挑戦しても報われる」というカルチャーを、制度として組織OSに埋め込むこと—この“ハード面の設計”が揃って初めて大きく組織が動きます。
その起点が、従業員のミッション・役割の再定義です。多くの在タイ日系企業における役割は、日常業務を安定的に遂行する「Run(維持)」のミッションで占められています。従業員が保守的に見えるのは、性格の問題ではなく、Runだけを報いてきた仕組みへの合理的な適応です。
変革を本気で求めるなら、「Change(変革)」のミッションを明確に書き加える必要があります。「業務プロセスの改善を主導する」「部門横断の課題解決をリードする」といった行動を、等級ごとに適切に期待レベルを分けて定義する。これが行動・判断の「基準」になります。
次に、これに基づく評価と報酬の連動です。Change定義に沿って行動したメンバーが正式に評価され、昇格や報酬に反映される—その最初の一例が生まれたとき、組織・カルチャーに決定的な変化が起きます。
特にタイの組織では非公式な口コミネットワークが極めて強く機能し、「あの人が、新しい提案をして本当に昇格した」という事実は公式発表よりも速く広がります。そして、この一貫したプロセスが継続的に回ることで、心理的安全性が担保され、「本当に報われるんだ」という実感を生み、次なる挑戦者に繋がります。
逆に言えば、最初の評価サイクルで裏切れば信頼は導入前より悪化します。Changeを掲げたのに結局Runだけが報われれば「やはり建前だった」と判断されてしまいます。だからこそ最初のChange評価事例を、経営者が意図的に設計し、やり切る覚悟が求められます。ミッション・役割定義→評価→報酬というタレントマネジメントの一連のプロセスに、経営者の意志を一貫して組み込むこと。これによってソフトとハードが噛み合い、変革に向けて組織を動かす条件が揃います(図表1)。

意志だけでは、リーダーが異動した瞬間に元に戻る。仕組みだけでは、魂の入らない制度が形骸化する。この両輪が噛み合って初めて、「任せたのに動かない」は終わります。
しかし、経営者が一人で回し続けるには限界があります。変革の初動は経営者がつくる。経営者の想いを理解した上で、挑戦を定着させ変革させ続けるのは、人事部門に求められるミッションです。最終回では、変革を一過性で終わらせないために、人事部門そのものをどう変革するかを掘り下げます。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Director
木口 郷 氏
商社、金融、製造業等、業界問わず、IT/DX戦略・企画領域から大規模システム導入プロジェクトに至るまで、ITライフサイクル全般に対するプロジェクトマネジメントを中心に15年以上のコンサルティング経験を持つ。グローバル企業に対するIT/DXガバナンス強化、システムリスク管理態勢強化、人材育成、IT-PMI等に関するアドバイザリー経験多数。
2024年9月よりABeam Consulting (Thailand) に赴任し、組織変革等のコーポレートストラテジーに携わりつつ、AI Initiativeを立ち上げ、AI人材の育成やAIプロジェクトの獲得に向けたアクション、社内でのAI利活用等をリード。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Senior Manager
伊藤 一磨 氏
DX推進支援ロードマップや新規事業策定、BPRシステム構想策定・導入など、デジタル×事業のコンサルティングを経験。人的資本経営サービスの東南アジア地域リードとして、在東南アジアの日系企業に対する人事制度策定・人材要件定義・人事部強化を中心に支援。
ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファームを目指し、専門知識と豊富な経験を持つ約8,300名のプロフェッショナルと世界各地のアライアンスパートナーの「総合力」でクライアントの変革実現への挑戦を支援。タイ法人は2005年に設立。500名超のコンサルタントを抱え、東南アジア最大規模の拠点。
Website : https://www.abeam.com/th/


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