総合商社の成長戦略 〜 タイを起点にASEANビジネスを拡大

THAIBIZ No.149 2024年5月発行

THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

ログインしてダウンロード

会員ログイン後、ダウンロードボタンをクリックしてください。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、info@th-biz.com までご連絡ください。

総合商社の成長戦略 〜 タイを起点にASEANビジネスを拡大

公開日 2024.05.10

グローバルでさまざまな事業を展開する総合商社。伝統的に大手企業を主要顧客として商品取引の仲介を行う貿易事業を軸にグローバルに事業を拡大し、取り扱い品目は、インスタントラーメンからロケットまでと言われるほど多彩だ。しかし、近年では貿易事業から事業投資がメインとなってきている。日本版コングロマリット総合商社は今後どのように変革を遂げていくのだろうか。

目次

時代を先読みする商社の底力

タイは、日本企業の東南アジア進出で最も早かった国の一つであるが、旧三井物産1が初めてバンコクに出張員を置いたのは1906年、三菱商事は1935年にバンコク駐在員事務所を設立するなど、総合商社は製造業を中心とした日本企業のタイ進出ブーム以前からタイに拠点を設け、貿易事業を展開していたというから驚きだ。

総合商社各社のタイにおいての伝統的事業は貿易取引だが、そのほかの主力事業は各社さまざまだ。例えば、三井物産は石油・天然ガス開発、丸紅は電力などインフラ事業、住友商事は工業団地開発、そして三菱商事は自動車販売などだ。

かつては、メーカーに代わって貿易を取り仕切るのが総合商社の大きな役割だったが、時代とともにメーカーも国際化が進み、総合商社に頼らなくてもよくなった。こうした要因もあって、商社が貿易事業だけで稼ぐことは困難となり、生き残りをかけた変革に迫られた結果、事業投資や事業経営を収益の柱としたビジネスモデルへと変容することに成功したというのが業界関係者の大筋の見立てだ。

世界を相手に今なお第一線で活躍を続ける総合商社の強さの秘訣は何なのか。それは、これまで培ってきたグローバルネットワークや情報収集力、交渉力、資金力などの強みを最大限に活かして、優れた嗅覚で時代を先読みし、常に変革を続けていることに他ならない。そして、成長市場にタイミングよくビジネスを展開していくために、日頃から俊敏に対応できる商社パーソンの存在も必要不可欠なのだろう。

成長領域における事業開発を強化する丸紅
〜タイ企業への戦略投資でASEAN市場の拡大を目指す〜

丸紅泰国会社<br>社長<br>日高 和郎氏

大手総合商社の一角を占める丸紅。同社のタイ法人である丸紅泰国会社は、国内での支店設立から今年で70周年を迎え、2月にバンコクで記念式典を開催した。式典には、タイのプームタム副首相兼商務相をはじめ、日タイの経済界から270名を超えるゲストが参列し、改めて丸紅の現地のネットワークの広さを目の当たりにした。

式典では、丸紅独資の事業会社で、タイ最大のタイヤ・カー用品販売を手がけるB-Quik Co., Ltd.(以下、B-Quik社)や昨年、丸紅が出資参画したタイ大手コスメブランド企業Karmarts Public Company Limited(以下、Karmarts社)が紹介された。いずれもB2Cの事業会社で、現地タイの消費者には名を知られている。

昨年1月にTHAIBIZが丸紅泰国会社の日高和郎社長にインタビューを行った際、日高社長はB-Quik社について、「丸紅の世界のB2Cリテール事業で数少ない成功例」と述べていたが、その後、昨年10月にはKarmarts社への出資参画をしたという発表があった。今回は、B-Quik社とKarmarts社をはじめ、丸紅のタイでのB2C領域における事業投資戦略などについて、改めて日高社長に話を聞いた。

時代の変化に合わせてビジネスモデルも柔軟に変革

日高社長は商社のビジネスモデルについて、「同じ形でずっと続くビジネスモデルはない」とした上で、「昔はミドルマンとしてのトレードだったが、出資によって商売の権利を維持し、持分法適用会社、あるいは連結子会社で事業を行う」業態にシフトしてきているという。さらに、昨今はメーカーに任せきりではなく、独自でやるモデルに変わってきており、「商社が誰かの間に挟まる時代はもう終わり」とし、より地に足を着けた事業運営を強化していることを示した。

本部が戦略を練り、現法は信頼関係を醸成

丸紅のタイ企業への投資戦略については、「日本本社の16ある事業本部が各々で戦略を練り、『タテ』の戦略に基づいてなされている」という。タイ現法の駐在員は、現地にいる強みを活かして、現地の企業や行政と信頼を得る努力を積み重ね、関係を構築することを大切な役割の一つとしているようだ。

日高社長は、総合商社の人材に求められるものとして、「相手が求めるものが何なのか、相手が商社から何を欲しているのか、それを感じなければならない」という。常に好奇心を持ってあらゆるところにアンテナを張り、相手のニーズを感じ取ること。その日々の地道な努力が、いざ当該地域で新規事業や投資を行う際に、機動力を発揮することになるのだ。

タイ企業と共にASEANの事業拡大を目指す

日高社長は、土日を含め日頃から現地のネットワーク構築に多くの時間を費やしているという。多くのタイ人経営者と会う中で、「タイのファミリー企業の創業者や2代目経営者は非常に危機感を持っている人が多い」という。そして、タイの大手企業について、「資金力はもちろん、調達力や国内の販売力もある企業がほとんどだが、内需に頼るだけでは発展はできない」と警鐘を鳴らす。さらなる成長を目指すには、海外に出ていくしかないが、海外進出に単独で踏み切れる企業はあまりいないそうだ。

タイ企業に出資をする際のポイントとして、日高社長は「出資によって、タイの強みを外に出す手助けとなるべきだ」と続ける。「タイのオーナー企業は、家族間で株式を持っていることが多く、外部からの出資者を受け入れると会社が乗っ取られてしまう恐怖から、身構えてしまう経営者が多い。そこで、グローバルネットワークや与信などの丸紅の強みとタイ企業が持つ強みを共に活かして、一緒に新たな海外市場の開拓を目指すことをタイ人経営者にしっかり理解してもらうことが何よりも重要」と、丸紅流のタイ企業への投資の勝ちパターンを明かした。

今後のタイでの計画としては、「食品やタイヤリサイクル、EV関連、消費者金融、Karmarts社とのロールアップ買収などを予定しており、その他にも水面下で進めている案件がいくつかある」という。

一方で、外国企業から指摘されがちな日本企業のスピード感の遅さについては、「一般的に日本の大手企業は経営判断や決裁を取るのにプロセス上の問題で時間がかかる」との認識を示しつつも、「日本企業は、約束は必ず守り、裏切ることはしない。タイ企業の次の発展を見据えた時に、長い目でみると日本企業と組むことはデメリット以上にメリットが多い」と強調する。

タイからASEANの自動車アフターマーケットの次なる市場へ挑むB-Quik

B-Quik
「大型店舗、Naradhiwas-Sathon Rd.店」出所:B-Quik Co., Ltd.

タイ国内で223店舗(2024年4月時点)を展開する独立系タイヤ小売チェーン「B-Quik社」。交換タイヤ販売においては国内トップシェアを持ち、2006年の丸紅参画以来、年間約10店のペースで店舗網を拡大し、成長を続けている。

好調に業績を伸ばす

丸紅の「統合報告書2023」によると、丸紅子会社のB-Quik社は、2023年3月時点の持分利益は38億円で、前年の27億円から11億円増の好業績を収めている。今年度も9店舗増加(新規12店舗、統廃合3店舗含む)を予定している。2014年に進出したカンボジアでは現在2店舗を営業している。2020年に進出したインドネシアでは、現在26店舗を展開中で、今年度は11店舗を開店する予定だ。

販売代理店からバイヤー / リテイラーへの転換

丸紅がB-Quik社を買収したのは2006年にまで遡る。買収に至った経緯について、日高社長は、「当社は伝統事業として、メーカーの販売代理店としてトレードを行ってきたが、当時、日系のタイヤメーカーの販売権が打ち切りになったことがきっかけだ」と振り返る。販売代理店業は、「製品を販売したうちの数パーセントが入る口銭商売で、メーカーの都合により流通や販売が突然打ち切りになる場合がある」という。

次の成長戦略を考えた時に「丸紅がバイヤー / リテイラーになるしかない」という一つの結論に至った。「代理店は、メーカーに主導権があり、そのメーカーの製品しか売ることはできない。バイヤー / リテイラーになれば、一つのメーカーに縛られることなく、複数のメーカーの製品を取引することができる」とした上で、「商社は時代の変化に応じてビジネスモデルを変革していかないと生き残れない」と強調した。

タイをASEANのハブに

丸紅ではタイヤ小売事業をメキシコでも展開しており、その他の国でも現在展開を検討しているという。ASEANに関しては、タイミングよくB-Quik社という優良企業と巡り合うことができ、タイをハブとして今後も周辺国への進出を推進していく計画があるそうだ。

2020年にB-Quik社が進出したインドネシアは、2億7,000万人を超える世界第4位の人口を抱える国で、今後中間所得者層の成長が見込まれている大きな市場だ。B-Quik社は、自動車アフターサービスの次なる市場としてインドネシアでも事業拡大を目指している。

選択と集中が功を奏す

店舗の作業ベイの様子
「店舗の作業ベイの様子」出所:B-Quik Co., Ltd.

年間約10店舗ペースで事業を拡大してきたB-Quik社。成功の秘訣は何なのだろうか。日高社長は、「CEOであるヘンク氏のポリシーが大きく関係している」と分析する。

B-Quik社は、同業他社と比較した時に、他社は自動車のアクセサリー販売や板金修理などを提供しているのに対し、B-Quik社はそれらを一切提供していない。ヘンク氏のポリシーとして、B-Quik社が提供するのはタイヤとオイル、スペアパーツの交換・メンテナンスに特化している。

なぜか。それは、顧客の回転率を上げるためだ。

店舗には6つ前後の作業ベイがあり、円滑に回転させなければならないが、板金修理をすると半日がかりになり、全く収益に貢献しない。また、アクセサリー販売も、顧客はそれを買うために店舗に長居することもある。さらに在庫を抱えるリスクもあるからだ。

当初は、両者で意見の相違もあったが、「本業でないことはあえてやる必要がない」というヘンク氏のポリシーを尊重し、現在は丸紅全体でサポートをしているそうだ。

徹底した顧客サービス

合理的な経営を貫くヘンク氏だが、一方で「顧客サービスには特に力を入れている」と日高社長は続ける。

ヘンク氏は、B-Quik社の事業を説明する際に「われわれは歯医者のようなもの」と例えるそうだ。「歯医者に喜んで行く人はいないように、タイヤ交換も誰もしたいとは思わない。嬉しい出費ではないからだ。だからこそ、われわれは自動車のプロとして、品質の高いサービスを提供する」といい、社員への顧客サービスのトレーニングも徹底的に行っている。カンボジアやインドネシアでも徹底しており、日高社長は「これがB-Quik社が勝っている成功の秘訣だ」と強調する。

ロケーション選びが肝

B-Quik社の店舗は商業施設に併設しているのをよく見るが、日高社長は、「出店する際のロケーション選びも肝の一つだ」とし、「このノウハウは丸紅にはない。完全にタイのマーケティングチームに頼っている」という。

B-Quik事業における丸紅の役割とは

B-Quik社は丸紅の持株比率90%の子会社だが、「経営陣は、ヘンク・キックスCEOとブサララット・アッサラタナクンCOOが買収前から指揮を執っている。ただし、丸紅のガバナンス体制に基づいて管理されており、丸紅から日本人3名が取締役として加わっている。主に財務や戦略面で協力している」という。例えば、店舗拡大には資金が必要となるが、設備投資をする際など資金調達においては、丸紅の方が金利は圧倒的に有利になる。また、インドネシアに進出した際も、地政学的なノウハウの提供などは丸紅が主導して行ったとし、現在も丸紅からインドネシアに出向者を置いて事業を全面的にサポートしている。

持続的な成長を共に目指す良きパートナー|B-Quik ヘンクCEOインタビュー

B-Quik Mr. Henk Kiks

Q. 丸紅から出資を受けて変わったことは

丸紅グループに入ってよかったと実感するのは、長期的に安定した計画が立てられるようになったことだ。2006年に丸紅の傘下に入り、18年経った今でも継続的な事業成長を遂げることができている。長く一緒に働く中で、われわれはお互いの強みと弱みを理解した上で尊重し合える関係にある。

また、2020年にインドネシアのタイヤ小売事業会社PT. Trans Oto Internasional社を買収した際も、企業買収の手続きはもちろん、事業の立ち上げから運営、法的整備などさまざまな面で丸紅の全面バックアップにより順調なスタートを切ることができた。これは当社単独では成し得なかったことで、非常に感謝している。

Q. 今後の目標は

インドネシアでは、現在約300人の従業員を抱えており、当社がこれまでタイで長年培ってきたカーメンテナンスや顧客サービスのノウハウを現地の従業員に移転するとともに丸紅のITや財務などの知見を集結して、今後も事業の拡大に取り組んでいく予定だ。

Q. 投資で日本らしさを感じる点は

パートナーシップにおいて両者の利益に貢献し、事業を発展させていくことは企業としてもちろん重要だが、常に利益だけを追い求めるのではなく、お互いに支え合い、信頼できる関係を築くことの大切さを感じている。これは、「人材を何よりも優先する」という私の経営信念とも通じるところだ。丸紅と長年働く中で、お互いにサポートし合える関係だからこそ、結果的に事業を成長させていくことにもつながっているのだと思う。

アジアの次世代の消費者をターゲットに新たな価値創造に取り組む

Karmarts
「Karmarts 旗艦店」出所:Karmarts Public Company Limited

丸紅は、昨年10月にタイ証券取引所(SET)上場の大手コスメブランド企業である「Karmarts社」の第三者割当増資を、タイの投資会社であるQuadriga Private Equity Co., Ltd.(以下、Quadriga社)とのコンソーシアムにて引き受け、出資参画したことを発表した。当該コンソーシアムの出資比率は20%(丸紅18%、Quadriga社2%)だ。

コスメのトレンドセッター、タイへ投資

Karmarts社へは、どのような経緯で出資に至ったのだろうか。再び日高社長に話を聞いた。

丸紅では、伝統的に商品所管ごとにいくつかの営業本部に分かれているが、中にはカバーできていない領域があったという。2019年、それらの領域を積極的に推進し2030年以降大きく成長していく事業領域を捉えることを目的に設立されたのが「次世代事業開発本部」だ。現在同本部では「ヘルスケア・メディカル、次世代社会基盤、ウェルネス」の3つの成長領域と、それらには属さないものの高成長が見込める領域を探索・開発する組織を設定して事業開発を行っている。

ウェルネス領域においては、ビューティー関連分野での成長事業を追求しており、すでに丸紅ではドラッグ&コスメティックストア「AINZ&TULPE(アインズ&トルペ)」のアジア展開をはじめ、日本のコスメブランド「OSAJI(オサジ)」にも出資し、事業提携、資本連携を推進している。

今回の出資についても提携先をタイだけに絞って探していたわけではなかったというが、「ASEANを見た時にタイは欧米の多くの化粧品企業が生産拠点を置き、域内で最大の化粧品輸出国でもあるという統計がある。さらにビューティー意識の高い市場だ。そこで、タイで可能性のある化粧品企業各社と交渉を進める中で、最終的にKarmarts社と提携するに至った」という。

立ちはだかるオーナー企業の壁

Karmarts社は、2012年に化粧品事業に参入した新進気鋭の大手コスメブランド企業で、「Cathy Doll」をはじめとした人気ブランドを展開し、順調に売上を伸ばしている。上場企業ではあるが、創業家を中心としたオーナー企業で、出資を受け入れてもらうまで一筋縄ではいかなかったという。「彼らからしたら、外国企業に会社が乗っ取られてしまうかもしれないという思いが少なからずあったのだろう」と日高社長は推察する。

その時にKarmarts社と丸紅の間をうまく取り持ってくれたのが、今回コンソーシアムを組んで一緒に出資を行なったQuadriga社だった。Quadriga社はKarmarts社に対して、「内需だけに頼ると将来的な発展が見込めないこと」と、「丸紅はKarmarts社と一緒に海外市場を開拓したい考えであること」を伝えた上で、丸紅が持つグローバルネットワークと知見を最大限に活かすことを約束し、丸紅と資本提携をするメリットをうまく説明したことで最終的に出資を受け入れてもらうことができたという。

文化や商習慣の異なる国際間の事業提携や資本提携においては、今回の丸紅とQuadriga社のように、その土地のことをよく理解した正しいパートナーを選ぶことや現地のネットワーク構築がいかに重要か、改めて認識させられる。

外資参入でタイ市場が好感を示す

今回のKarmarts社への出資は、丸紅にとっても「数少ない成功例」だと日高社長は続ける。というのも丸紅がKarmarts社に出資してから株価が大きく上昇しているからだ。これは、「第三者割当増資による、外資である丸紅とのシナジーを通じて、事業成長と企業価値の向上を投資家が見込んだからこそ、株価にもプラスに作用したのではないか」と推測し、「今回のケースが象徴的な投資例となれば幸いだ」と期待を示した。

ASEAN市場拡大に向け本格始動

Karmarts社は、ラオスやカンボジア、インドの一部にはすでに展開していたが、今回の丸紅との事業提携により、ASEAN市場への本格参入に動き出している。今後の成長市場として、まずはベトナムとインドネシアの市場をターゲットに定め、現在すでに市場調査をはじめているという。日高社長は、「Karmarts社が海外進出する際には、丸紅のグローバルネットワークとノウハウを活用していく」との考えを示した。

事業拡大においては、両者が持つネットワークと資金力を投じて、同業のコスメ産業のロールアップ買収も計画しているという。丸紅のKarmarts社への出資は、タイを中心としたASEAN市場への拡大を目指すものだが、日本のコスメ市場にも波及効果があったそうだ。

「出資のプレスリリースを出した直後に日本のあるメーカーがASEAN進出に興味を示し、丸紅との提携を希望する問い合わせがあった」といい、業界内、特に成長するASEAN市場を視野に入れている企業にとってはインパクトのあるニュースだったに違いない。

丸紅が持つブランドとのコラボにも期待

今回のKarmarts社との業務提携により、当然丸紅側にも好循環が生まれることになる。丸紅の次世代事業開発本部のウェルネス領域においては、日本およびアジアの次世代の消費者をターゲットとし、ビューティー分野・コンシューマーブランド分野において、ブランド事業と流通事業の連携による価値創造を目指している。

丸紅では、すでにこれらの分野ではいくつかのコスメブランドやシューズブランドなどを保有しており、直近ではコスメブランド「OSAJI」など個々の消費者ニーズに合わせた嗜好性の高いブランドをKarmarts社の流通網を活用して、成熟市場のタイへ展開していく考えだ。また、日本で広範囲に展開しているドラッグ&コスメティックストア「AINZ&TULPE」とのコラボも計画中だという。

日高社長は、インタビューの最後に丸紅70周年記念式典の際のサイドストーリーとして、「当社が出資するB-Quik社とKarmarts社は全く別の業界で面識はなかったが、70周年パーティーで両者のCEOが初めて顔を合わせ、異業種コラボの話が持ち上がるなど、化学反応が起きはじめている」と明かしてくれた。

「販売代理店は、メーカーの商品を代わりに売るだけだ。一方で、自社でブランドを持つことは大きな意味を持つ」と改めて総合商社のこれからの方向性を示唆する言葉でインタビューを締め括った。

成熟企業と成長企業のコラボで新たな価値創造を|Karmarts ウィワットCEOインタビュー

Karmarts Mr.Wwat Theekhakhirikul

Q. 丸紅との出会いと印象は

当社は、ラオスやカンボジアなど周辺諸国での事業を展開していた。グローバル戦略として、アジアや中東への進出を検討していた際に、丸紅と出会った。Quadriga社を通じて話し合いを進める中で、丸紅は長年の歴史と実績を持つグローバル企業で、世界約100ヵ国で事業や投資を展開しており、日本市場やその他の国々の市場での豊富な流通経験と海外進出のノウハウ、さらにグローバルのコネクションを持っていることがわかった。

丸紅が持つこれらの強みは、当社が今後海外市場への参入を加速するために必要不可欠であり、ぜひ強力なパートナーとして迎え入れたいと感じた。一方で、当社が持つ地場の流通網やブランド力は丸紅にとっても魅力的なものだと知った。

Q. 今後の目標は

ASEAN域内での最大手の化粧品企業としての地位を確立すべく、丸紅と共に協力して、お互いの価値を高め合える事業発展を目指している。その一環として、化粧品企業のロールアップ買収も計画中だ。

また、丸紅はグローバル企業として力を持っており、当社も化粧品事業において急成長を続けている。持続的な企業成長はもちろんだが、今後はビジネス以外でもタイ社会に貢献できる活動も丸紅と協力して推進していきたいと考えている。

【オピニオン】商社の投資トレンドを読み解く(MURC)

MU Research and Consulting

「脱トレーディング」、「事業創出」、「エコシステム構築」。これらは総合商社の方針で聞かれるキーワードの数々であるが、ASEAN、タイにおける動向はどのようなものか考えてみたい。

足元、ASEANにおける日系総合商社の投資におおむね共通しているものとして「社会課題の解決」、「財閥企業との包括的な取り組み」、「新たな事業創出の探索」の3点が挙げられる。

日本の技術と資金を投入し、社会課題を解決

一つ目の「社会課題の解決」としては農業(生産性改善、貧富格差の解消)、医療・ヘルスケア(高齢化社会)、環境問題(脱炭素、渋滞などの社会問題対応など)が主に挙げられよう(図表1)。

ASEANエリアにおける社会課題
出所:各種情報よりMURC作成

特に脱炭素分野は日本の技術や資金を活用した社会課題への解決としてASEAN各国の首脳からも要望度が高く、日本側も経済産業省を主としたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想のもとで各商社も歩調を合わせている。また、三井物産のマレーシアにおける地場国営石油会社等との提携によるCO2貯留サイトの共同開発や、住友商事が公表したタイ電力大手EGAT傘下会社とのASEAN地域におけるグリーントランスフォーメーション(GX)推進にむけた取り組みなど、具体的な協業実績も着実に積みあがっている。

財閥と包括提携 VS 地場企業と提携

二つ目は「財閥企業との包括的な取り組み」である。代表例としては2014年の伊藤忠商事とタイCPグループの提携が挙げられる。これは「1.アジア地域を中心とした食料、化学品、情報通信、金融等を含む非資源分野における事業拡大機会の共同開拓、2.タイ・中国・ベトナムなどを中心としたアジア地域における飼料、畜産及び水産関連分野での共同取組の推進並びに同地域への原料供給体制の整備」(2014年7月24日同社プレスリリース)を標ぼうしたものだった。同様のものとして、2021年に公表された三井物産とインドネシア大手CTグループとの提携も挙げられる。

同グループは金融、小売、通信などの事業を展開する有数の財閥であるが、B2C分野を強化したい三井物産側との思惑が一致したものといえる。どちらの事例も資本提携を伴う踏み込んだものであり、かつ日系・地場財閥の持ち寄る事業とバリューチェーンを繋げていくスケールの大きなものとして注目を集めた。

一方で、財閥との大型包括提携は、広範すぎてシナジーが出しにくく、リスクを懸念する声もある。しかし、本特集で取り上げられている丸紅とB-Quik社やKarmarts社との提携のケースは、その突破口のヒントになるのではないか。地場で強固な事業基盤を持つ有力企業が、丸紅の持つ与信機能や財務基盤、海外展開ノウハウと相互補完することで、シナジーを生み出し、成長戦略を描きやすい提携となっている。

有望事業に先行投資

三つ目は「新たな事業創出の探索」である。冒頭に挙げた通り「トレーディングから事業へ」といわれるようになって久しいが、有望事業の探索や目利きは簡単ではない。このような中、PEファンド等を立ち上げ有望企業への出資を通じて目利きするケースも増えている。たとえば2014年に三菱商事がシンガポールで設立したAIGF Advisors Pte. Ltd.は、ASEAN域内で地場優良企業への成長資金の提供を中心に、長中期的な企業価値創造を支援している。具体的には小売、卸売、不動産などで投資実績を積み上げているが、出資先に対して自社グループの資源を活用し成長を志向することで双方のWin-Winの関係を模索する動きともとらえられる。

また別の事業探索の切り口として、提携先の地場企業を事業推進の主体として投資を展開させる動きもみられる。双日はヘルスケア分野での投資を近年強化しているが、2021年にプライマリ・ケア事業者であるQualitas社を買収して傘下に収めた。同社はマレーシア、シンガポール、オーストラリアの3ヵ国で300施設のクリニック、歯科クリニック、画像診断センターなどを運営しており、同社のネットワークや知見を軸にしてアジア太平洋における投資を活発化させることを志向している。

また、丸紅がサポートするB-Quik社やKarmarts社の海外展開もこれに当てはまるだろう。前述の通り、丸紅側も提携先の事業展開支援においては買収プロセスや財務、事業展開の各種サポートを進めることで相乗効果の創出を図っている。

商社のタイ事業の行方

域内周辺国と比較してみると、日系商社のタイ事業に懸念がないわけではない。成長市場であるインドネシア、ベトナムにおける新規案件の創出のウエイトは、タイより高くおかれてきた。さらに近年は地政学的に重要性が高まっているインドへ商社の投資の軸足もシフトしているようにも見うけられる。また、タイ国内の状況に目を向けると、人口の伸びが鈍化し、市場成熟が顕在化しており、抜本的な成長が見通しにくいという要素も見逃せない。このような中で商社各社にとっても非中核・不採算のタイ事業の清算や再編なども重点施策として重要性が高まっている印象がある。

一方、ポジティブな要素も見られる。最近注目されているのは、新しいビジネスモデルの構築をタイで行う動きである。たとえば三菱商事のコンケーンにおける取り組みもその一例だ。5万人の教職員・生徒を有するコンケーン大学を対象に研究・資金支援というCSR活動から派生し、キャンパス用の電動車と充電システム拡充やエネルギー分野に至るまで幅広い支援を行うことを目指している。

これらの取り組みはタイ政府の標ぼうする「BCG経済モデル」のコンセプトに呼応した事業といえ、冒頭で述べた「社会課題の解決」に当てはまる事業である。また、それと同時に、タイの人口の7割が集中する地方部におけるスマートキャンパスの取り組みを通じて、今後のアジアにおける地方創生を模索する実験的な取り組みともみなせる。

中国勢の進出や地場企業の台頭など、従来型のビジネスモデルでは難しさが増しており、タイ事業の方向性に関して悲観的な見方をする声も多く聞かれるが、一方でそのような環境こそ商社にとってはチャンスといえる。「相手が求めるものが何なのか、相手が商社から何を欲しているのか、それを感じなければならない」(前述丸紅泰国日高社長インタビュー)の言葉が示す通り、市場、顧客、ビジネスパートナーの声を汲むことの重要性が従来以上に増している。

このような中、親日かつ商社にとって事業の歴史・知見の特に深いタイという地をハブとしたチャレンジングな試みが今後も商社からでてくる動きは見逃せない。

Opinion Leaders

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

Managing Director 池上 一希氏
日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

池内 勇人

Consultant 池内 勇人氏
製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。2021年に MURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

THAIBIZ No.149 2024年5月発行

THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略

ログインしてダウンロード

無料会員ログイン後、ダウンロードボタンをクリックください。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、admin@th-biz.com までご連絡ください。

THAIBIZ編集部

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE