THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略
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公開日 2024.05.10
グローバルでさまざまな事業を展開する総合商社。伝統的に大手企業を主要顧客として商品取引の仲介を行う貿易事業を軸にグローバルに事業を拡大し、取り扱い品目は、インスタントラーメンからロケットまでと言われるほど多彩だ。しかし、近年では貿易事業から事業投資がメインとなってきている。日本版コングロマリット総合商社は今後どのように変革を遂げていくのだろうか。
目次
タイは、日本企業の東南アジア進出で最も早かった国の一つであるが、旧三井物産※1が初めてバンコクに出張員を置いたのは1906年、三菱商事は1935年にバンコク駐在員事務所を設立するなど、総合商社は製造業を中心とした日本企業のタイ進出ブーム以前からタイに拠点を設け、貿易事業を展開していたというから驚きだ。
総合商社各社のタイにおいての伝統的事業は貿易取引だが、そのほかの主力事業は各社さまざまだ。例えば、三井物産は石油・天然ガス開発、丸紅は電力などインフラ事業、住友商事は工業団地開発、そして三菱商事は自動車販売などだ。
かつては、メーカーに代わって貿易を取り仕切るのが総合商社の大きな役割だったが、時代とともにメーカーも国際化が進み、総合商社に頼らなくてもよくなった。こうした要因もあって、商社が貿易事業だけで稼ぐことは困難となり、生き残りをかけた変革に迫られた結果、事業投資や事業経営を収益の柱としたビジネスモデルへと変容することに成功したというのが業界関係者の大筋の見立てだ。
世界を相手に今なお第一線で活躍を続ける総合商社の強さの秘訣は何なのか。それは、これまで培ってきたグローバルネットワークや情報収集力、交渉力、資金力などの強みを最大限に活かして、優れた嗅覚で時代を先読みし、常に変革を続けていることに他ならない。そして、成長市場にタイミングよくビジネスを展開していくために、日頃から俊敏に対応できる商社パーソンの存在も必要不可欠なのだろう。
大手総合商社の一角を占める丸紅。同社のタイ法人である丸紅泰国会社は、国内での支店設立から今年で70周年を迎え、2月にバンコクで記念式典を開催した。式典には、タイのプームタム副首相兼商務相をはじめ、日タイの経済界から270名を超えるゲストが参列し、改めて丸紅の現地のネットワークの広さを目の当たりにした。
式典では、丸紅独資の事業会社で、タイ最大のタイヤ・カー用品販売を手がけるB-Quik Co., Ltd.(以下、B-Quik社)や昨年、丸紅が出資参画したタイ大手コスメブランド企業Karmarts Public Company Limited(以下、Karmarts社)が紹介された。いずれもB2Cの事業会社で、現地タイの消費者には名を知られている。
昨年1月にTHAIBIZが丸紅泰国会社の日高和郎社長にインタビューを行った際、日高社長はB-Quik社について、「丸紅の世界のB2Cリテール事業で数少ない成功例」と述べていたが、その後、昨年10月にはKarmarts社への出資参画をしたという発表があった。今回は、B-Quik社とKarmarts社をはじめ、丸紅のタイでのB2C領域における事業投資戦略などについて、改めて日高社長に話を聞いた。
日高社長は商社のビジネスモデルについて、「同じ形でずっと続くビジネスモデルはない」とした上で、「昔はミドルマンとしてのトレードだったが、出資によって商売の権利を維持し、持分法適用会社、あるいは連結子会社で事業を行う」業態にシフトしてきているという。さらに、昨今はメーカーに任せきりではなく、独自でやるモデルに変わってきており、「商社が誰かの間に挟まる時代はもう終わり」とし、より地に足を着けた事業運営を強化していることを示した。
丸紅のタイ企業への投資戦略については、「日本本社の16ある事業本部が各々で戦略を練り、『タテ』の戦略に基づいてなされている」という。タイ現法の駐在員は、現地にいる強みを活かして、現地の企業や行政と信頼を得る努力を積み重ね、関係を構築することを大切な役割の一つとしているようだ。
日高社長は、総合商社の人材に求められるものとして、「相手が求めるものが何なのか、相手が商社から何を欲しているのか、それを感じなければならない」という。常に好奇心を持ってあらゆるところにアンテナを張り、相手のニーズを感じ取ること。その日々の地道な努力が、いざ当該地域で新規事業や投資を行う際に、機動力を発揮することになるのだ。
日高社長は、土日を含め日頃から現地のネットワーク構築に多くの時間を費やしているという。多くのタイ人経営者と会う中で、「タイのファミリー企業の創業者や2代目経営者は非常に危機感を持っている人が多い」という。そして、タイの大手企業について、「資金力はもちろん、調達力や国内の販売力もある企業がほとんどだが、内需に頼るだけでは発展はできない」と警鐘を鳴らす。さらなる成長を目指すには、海外に出ていくしかないが、海外進出に単独で踏み切れる企業はあまりいないそうだ。
タイ企業に出資をする際のポイントとして、日高社長は「出資によって、タイの強みを外に出す手助けとなるべきだ」と続ける。「タイのオーナー企業は、家族間で株式を持っていることが多く、外部からの出資者を受け入れると会社が乗っ取られてしまう恐怖から、身構えてしまう経営者が多い。そこで、グローバルネットワークや与信などの丸紅の強みとタイ企業が持つ強みを共に活かして、一緒に新たな海外市場の開拓を目指すことをタイ人経営者にしっかり理解してもらうことが何よりも重要」と、丸紅流のタイ企業への投資の勝ちパターンを明かした。
今後のタイでの計画としては、「食品やタイヤリサイクル、EV関連、消費者金融、Karmarts社とのロールアップ買収などを予定しており、その他にも水面下で進めている案件がいくつかある」という。
一方で、外国企業から指摘されがちな日本企業のスピード感の遅さについては、「一般的に日本の大手企業は経営判断や決裁を取るのにプロセス上の問題で時間がかかる」との認識を示しつつも、「日本企業は、約束は必ず守り、裏切ることはしない。タイ企業の次の発展を見据えた時に、長い目でみると日本企業と組むことはデメリット以上にメリットが多い」と強調する。
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THAIBIZ編集部
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