国家開発のキーマンに聞く、タイ産業の新たな活路とは 〜NESDCのアティポン局長インタビュー〜

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国家開発のキーマンに聞く、タイ産業の新たな活路とは 〜NESDCのアティポン局長インタビュー〜

公開日 2026.08.07

タイは1982〜1991年の国家開発で東南アジア屈指の製造・工業拠点へと飛躍を遂げた。しかし近年、経済成長率は著しく鈍化し、長期的な成長基盤の構築が課題となっている。こうしたなか、首相府傘下のタイ国家経済社会開発委員会(NESDC)が担う「戦略的羅針盤」としての役割は、かつてないほど重要性を増している。

同委員会の競争力開発戦略局長を務めるアティポン・ヒランルアンチョーク氏に、現在策定中の「第14次国家経済社会開発計画」の概要と新たな経済成長の柱となる産業、そしてそれらの実現に向けた日タイ協力の可能性について聞いた。

(インタビューは5月5日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

NESDCのアティポン局長(左)とmediatorのガンタトーンCEO(右)

再飛躍へ向けた戦略的フレームワーク

Q. 国家経済社会開発計画とは

アティポン氏:NESDCは、政府および民間企業が明確な指針を持って活動できるよう、70年以上国家戦略の策定を担ってきました。同計画は5年ごとに更新され、現在は「第13次国家経済社会開発計画」(2023〜2027年)の期間中にあります。1961年から始まった第1次・第2次計画の時代は水道、道路、電力などのインフラ整備を最優先に進め、強固な発展基盤を築き上げました。その後、1985年のプラザ合意を契機に日本企業の大規模投資が起爆剤となり、タイは労働集約的な農業国から工業国へと急成長を遂げました。

Q. なぜ、タイ経済が減速したのか

アティポン氏:タイの現状を語るうえで避けて通れないのが、1997年のアジア通貨危機で生じた構造的な停滞です。バーツが変動相場制へ移行すると、多くの企業が倒産に追い込まれ、危機から回復した後も、対国内総生産(GDP)投資比率は以前の水準に戻っていません。投資は、より付加価値の高い経済モデルへ転換するための原動力とも言えますが、投資比率の低い状態が続いたことでタイの経済構造の転換は遅れをとっています。ここから持続可能な成長軌道へとシフトするための指針が、現在策定中の「第14次国家経済社会開発計画」です。

既存基盤の高度化と未来産業の創出を目指す

Q. 第14次国家経済社会開発計画の軸となるのは

アティポン氏:2028年から始まる第14次計画は、従来の計画の延長線上にあるものではなく、タイの国際競争力を引き上げるための新しい枠組みです。新たな成長産業は「将来のグローバル需要」「タイの競争力」「タイの事業者への経済的価値」の3つの基準を軸に選定し、大きく以下の2つのグループに分けています。

【既存基盤グループ】

①農業・農産品加工:バイオ燃料や有効成分を抽出した高付加価値化粧品開発に注力

②観光・ウェルネス:伝統の知恵を臨床研究データで標準化し、「モダンメディカルサービス」へと昇華

【未来産業グループ】

③次世代モビリティ:電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)を含む全方位対応に加え、ドローンタクシーや高度道路交通システム(ITS)の新技術を強化

④スマートエレクトロニクス・半導体:極小部品の製造やより複雑なICチップ製造・設計段階への参入

⑤医療機器:医療サービスや医療ツーリズムなど高い成長性が見込める分野への注力

⑥宇宙技術:衛星画像等のデータを活用したスマート農業システム、災害時の被害評価などへの応用

タイがすでに持つ既存基盤の発展と、長期的な成長を支える未来産業の創出。この二段構えで経済の厚みを増していく戦略です。

日本はタイの持続的発展を支える信頼できるパートナー

Q. タイの発展において日本企業が果たせる役割は

アティポン氏:タイは多種多様な天然資源に恵まれていますが、そのポテンシャルを引き出す技術や事業化する力には依然として課題があります。日本企業の優れた技術や新しいアイデアを共有することで、タイのものづくりや価値を創造するプロセスにおいて足りない部分を即座に埋めることができると考えています。

Q. 具体的にはどんな分野での連携が考えられるか

アティポン氏:たとえば農業分野では、タイに原材料はあるものの、品質や収量の安定的な管理に課題があります。ここに日本の種苗技術や管理ノウハウを導入できれば、タイ農業の長期的な発展が可能となるでしょう。また、自動車産業分野では、日本企業がTier2・Tier3の現地部品メーカーを支援し、EV・HEV向け部品や次世代モビリティ向けの先進運転支援システム(ADAS)対応部品の製造をサポートすることを期待しています。タイの事業者がサプライチェーンにおける地位を維持・持続し、ともに成長を続けるための鍵となります。

自立的成長と日タイの強固な連携が、生き残り戦略となる

Q. 地政学的リスクが高まるなか、今後必要な戦略について

アティポン氏:自国第一主義や人工知能(AI)の台頭、気候変動問題などが複雑に絡み合い、世界的な不透明感が増すなかで、タイが目指すのは外敵要因にゆるがない、持続的な成長の実現です。特に近年では、中東情勢などの地政学的リスクがエネルギー価格を押し上げ、最終的に農業コストの上昇にまでおよんでいます。こうした状況に対応するため、NESDCは「内発的発展の強化」と「代替エネルギーの推進」という2つのアプローチに注力しています。

①産業クラスター内での連携:たとえば自動車、農業、観光など、同一産業内のプレイヤーが連携して付加価値を生むことで持続的な成長を実現する

②代替エネルギーの推進:太陽光や風力発電に加え、小型モジュール炉(SMR)の導入、農産物を活用したグリーンバイオマス発電などの取り組みを推進する

さらに日本という信頼できるパートナーとの強固な連携を維持しながら、タイ国内の自立的な成長基盤を固めること。この双方向のアプローチこそが、不透明な時代における生き残りの戦略となるでしょう。

Q. 第14次計画への期待、そしてタイの未来像とは

アティポン氏:次期計画では、実行可能かつ重要な課題に焦点を絞っています。タイ独自の強みを活かし、模倣されにくいブルーオーシャン市場を確立すること。これが成し遂げられれば、価格競争から脱却し、タイは長期的に卓越したビジネスハブへと発展できるでしょう。官民の両レベルで日タイのビジネス連携が深化させることで、互いの強みを補完し合い、ともに持続的な成長を遂げられると確信しています。

Interviewee Profile

アティポン・ヒランルアンチョーク氏(Mr. Athipong Hirunraengchok)
タイ国家経済社会開発委員会(NESDC) 競争力開発戦略局長

農業、製造業から科学技術・イノベーション分野に至るまで、競争力強化に向けた政策・評価基準の策定を主導。産業課題の分析をもとに、戦略立案やタイ政府への政策提言に携わる。

>>本連載「日タイ経済共創ビジョン」の記事一覧

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 杉浦亜希子

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