
連載: タイ・ASEANの自動車ビジネス新潮流 - 野村総合研究所
公開日 2026.09.10
ジャカルタで7月30日〜8月9日、ガイキンド・インドネシア国際オートショー(GIIAS)が開催された。43の参加ブランドのうち中華系は20ブランドにのぼり、日系の10ブランドを上回った。しかし筆者の印象では、中華系ブランドの数は増えているものの、日系のプレゼンスはなお高い。特に、トヨタによる“おもてなし”サービスとバリューチェーンビジネスは、中華系の攻勢に対し、日系に反撃の余地が十分にあることを示していた。
インドネシアの自動車販売は、昨年80万4,000台に達し、マレーシアの82万台を下回り、長らく維持していたASEAN首位の座を明け渡した。しかし、今年の1〜6月累計では、前年同期比15.9%増の43万7,000台となり、マレーシアの同期38万5,000台を上回るペースで推移しており、今年首位を奪回する可能性が高い。
ブランド別販売では、インドネシアはかつて日系が90%以上のシェアをもつ独占市場だった。しかし、2026年1〜7月に77.9%まで低下、中華系は17.5%まで伸びている(図表1)。タイはインドネシアよりさらに先を行っており、2026年1~6月の日系のシェアは62.9%まで低下、中華系は28.4%まで上昇している。今後、インドネシア市場で注目されるのは、日系がこうした中国系の攻勢に対し、どのように反撃していくかという点に尽きる。

ジャカルタの主要なモーターショーは、今年2月に開催されたインドネシア国際モーターショー(IIMS)と、インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)が開催するGIIASである。今回のGIIASで印象的だったのは、日系各社が展示に非常に力を入れており、集客力も高く、プレゼンスを維持できていることだ。
日系メーカーが特に前面に打ち出していたのは、ハイブリッド車(HEV)を中心とするxEVである。なかでもトヨタは、会場に到着する前からHEVをアピールする仕掛けを展開していた。展示場の駐車スペースが限られているため、多くの来場者は近隣のイオンに車を停め、シャトルバスで会場へ向かう。トヨタはこの動線に着目し、イオンにHEVオーナー専用駐車場を設置。さらに、そこから会場まで、昨年11月に発売した7人乗りHEV「ヴェロズ・ハイブリッド EV」に試乗できる“おもてなし”を提供していた。
筆者も実際に乗車したが、車内ではディーラーの販売員が同乗し、会場に着くまで車両の特徴を説明してくれた。価格は3億300万ルピア(約270万円)。3列シートの広い室内に加え、周囲のカメラ映像を大型ディスプレーで確認できるなど、運転のしやすさも印象的だった。現地メディアからの評価も高く、2026年にはカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している※。
※Tabloid Otomotif主催による2026 Otomotif Award
また、トヨタは今年8月、定期的にディーラーで点検を受けることを条件に、通常保証を合計6年または走行距離16万キロメートルに延長する「T-Care Extra」を新たに発表した。HEVの商品力に加え、販売からアフターサービスまでを含めたバリューチェーンを強化することで、他社との差別化と既存顧客の囲い込みを図る狙いである(図表2)。

その他日系メーカーでは、三菱自動車がインドネシアで同社初となるハイブリッドSUV「XForce Hybrid」を4億ルピアで発表。また、スズキはマイルドハイブリッド(MHEV)の「Fronx」、ダイハツはシリーズHEVの「Rocky」を4億ルピアで出展していた。

一方、中華系メーカーは電気自動車(EV)を中心に販売攻勢を強めている。その勢いはシェアにも表れており、2024年の6%から2025年には14%へと急拡大した。背景にあるのが、関税免除や物品税・VATの引き下げといったインドネシア政府のEV奨励策である。中華系メーカーはこれらを活用してEVの完成車輸入を拡大。GAIKINDOの統計によると、昨年の完成車輸入は17万6,593台と、前年の9万7,010台から約8割増加した。EV販売も4万3,000台から10万4,000台へと2倍以上に伸びている。
なかでも中国勢が攻勢を強めているのが、低価格の小型EVだ。BYDは昨年、2億ルピアの「ATTO 1(グローバルモデル名:SEAGULL)」を投入し、販売台数を2万2,000台まで伸ばした。これに対抗し、五菱汽車(Wuling)も今回のGIIASで「Aira ev」を1億5,000万ルピアまで値下げするなど、価格競争が激しくなっている。ジャカルタではナンバープレート末尾の偶数・奇数による通行規制が実施されているが、EVはその対象外となることから、個人向けのセカンドカーとして小型EVが購入されている。
こうした低価格EVの台頭によって影響を受けているのが、これまで日系メーカーが強みとしてきた低価格・低燃費車(Low Cost Green Car:LCGC)市場である。同セグメントで販売首位だったホンダの「BRIO」はこの2年間で販売台数が3万3,000台とほぼ半減した。


今回筆者が強く感じたのは、日系メーカーにはまだインドネシア市場で反撃の余地があることである。その方向性として、4つのポイントが挙げられる。
1つ目は、日系が高い製品力を持つセグメントに徹底的にリソースを投入し、ラインナップや商品力を強化することである。例えば、トヨタの「ヴェロズ」や三菱の「Xpander」などが人気を集める、3列シート・7人乗りの多目的自動車(MPV)セグメントでは、中華系メーカーはまだ本格的に参入しておらず、日系のシェアもあまり低下していない。MPVはファミリーカーとして長く使われる傾向があり、耐久性や品質の高さから日系ブランドを選好するユーザーも多い。
2つ目は、HEVを中心とする技術をブランディングし、その優位性をアピールする戦略である。イオンの専用駐車場にみられるように、特定のユーザーに絞った「おもてなし」も、顧客の心をつかむ上で重要だ。
3つ目は、トヨタの新たな保証「T-Care Extra」にみられるような、バリューチェーンビジネスの強化である。昨年8月、トヨタは合弁パートナーであるアストラ財閥傘下で、「OLXmobbi」や「OLX Pusatnya Nge-Deal 」を運営する中古車事業会社「アストラ・デジタル・モービル(ADMO)」の株式40%を約1億2,000万米ドルで取得。今回のオートショーでも、積極的に中古車買い取りキャンペーンを展開していた。トヨタはアストラとともに商用車レンタル会社MODAにも出資している。GIIASではピックアップトラックの「Hilux」や廉価版の「Rangga」を展示し、車両販売だけでなく、MODAによる商用車レンタルという選択肢も用意していた。
4つ目は、インドネシアへの貢献を明確にアピールすることである。GIIASと並行して開催されたガイキンド国際自動車カンファレンス(GIAC)では、日本の明珍臨時代理大使が登壇。日本の自動車・二輪車産業がインドネシアで250万人の雇用を創出し、これまでに150兆ルピア(約1兆3,300億円)を投資したほか、さらに15兆ルピアの追加投資を計画していること、現地調達率が95%以上に達していることなどを、インドネシアへの貢献実績としてアピールした。
トヨタも今年2月のIIMSからGIIASにかけて、トヨタ・アストラ・モーター設立55周年を記念した「Ada Toyota Untuk Indonesia(Toyota for Indonesia)」キャンペーンを展開している。具体的には、トヨタのHEVが現地生産のバッテリーをはじめとする現地部品を使って製造されていることを強調している。
中華系メーカーがアジアでロビー活動を強化するなか、このように官民が一体となって日系企業の貢献実績を発信する活動が、今後さらに広がることを期待したい。

NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal
山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
野村総合研究所タイ
ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)
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経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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