公開日 2024.07.05 Sponsered
横浜市、バンコク都、日本国環境省、一般社団法人海外環境協力センター(OECC)は6月21日、両国の民間事業セクターを交え「バンコク・横浜 都市間連携による脱炭素ビジネスの機会ワークショップ」の第4回をバンコク都内のホテルとオンラインのハイブリッドで開催した。気候変動対策の実施状況の報告と日タイ間で脱炭素技術の取り組みや知見を交換・共有し、ビジネス機会を促進することが主な目的だ。新たに策定されたバンコク都エネルギー・アクションプラン(効率的なエネルギー使用に向けた行動計画)も公表された。現地会場には、日系及び地場の企業・団体などから150人以上、オンラインでは約100人が参加した。
目次
開会式ではまず横浜市の山中竹春市長が登壇し、両都市間で知見を共有し、さらに連携を強化することで脱炭素に向けた日タイ企業のビジネス交流が一層進むことへの期待を表明した。さらに、「気候変動対策において都市は非常に大きな役割を担っている」と強調した上で、横浜市が市民と連携して10年間で家庭ごみをほぼ半減させ、それに伴うCO2 削減に成功したゴミの分別ルールの取り組み事例を紹介した。一方で、「横浜市の温室効果ガス(GHG)の約70%は企業活動で排出されており、その99%は中小企業だが、ノウハウや資金不足により60%が気候変動対策に取り組めていない」と指摘し、「中小企業向けに補助金などのインセンティブを付与し、2027年までに大部分の中小企業が気候変動対策に参加することを目指している」と説明した。
続いて環境省の松澤裕地球環境審議官がオンラインにて登壇。「気候変動対策への公的資金や民間投資が世界的に急増しており、経済協力開発機構(OECD)の報告によると先進国から途上国への脱炭素分野の資金支援は2022年に1,159億ドルに達した。GHG排出量の7割を占める都市の役割は特に重要で、バンコク都と横浜市の長年にわたる都市間連携は好例だ」と評価した上で、「環境省はタイ天然資源環境省と共に、7月にバンコクで政策対話とビジネスマッチングセミナーを開催し、脱炭素と持続可能な社会の発展を目指す」と締め括った。
在タイ日本国大使館の大鷹正人特命全権大使は来賓挨拶で、「気候変動リスクが高まる中、横浜市とバンコク都は2050年のカーボンニュートラルを目指し、12年以上の協力を続けている。本ワークショップで両国の協力をさらに深化させ、脱炭素への貢献を期待している」とエールを送った。
開会式の最後にはバンコク都のチャッチャート・シッティパン知事が登壇し、「バンコク都も横浜市のように市民と連携して脱炭素に取り組んでいる。タイの大手企業はすでに脱炭素に取り組んでいるが、約300万社ある中小企業に対して、2050年カーボンニュートラルの目標を共有し、活動を浸透させていきたい」と意向を示した。また、「今後もエネルギー政策を中心に民間企業や市民と連携し、ネットゼロがスローガンで終わらせず、マスタープランとなって実行できるようサポートしていく。本ワークショップがバンコク都と横浜市、さらには世界の都市に大きな影響を与えるだろう」と述べ、開会を宣言した。
記者会見でチャッチャート知事は、「バンコク都は、横浜市の協力を得て策定したマスタープランに基づいて、エネルギー・アクションプランを完成させた。今回のアクションプランは、①再生可能エネルギーの利用促進、②エネルギー効率の向上、③運輸部門のGHG排出量削減—の3つを主眼としている」とし、「実行フェーズにおいては、試行錯誤も大切だが、友人である横浜市の経験に学び、応用していくことも方法の一つ」との考えを示した。
一方、山中市長は、「バンコクと横浜は10年以上にわたる都市間連携は世界でも稀な大都市同士の強力な協力関係」と指摘した上で、「昨年チャッチャート知事とともアジアの脱炭素化に向けた『横浜宣言』を発表した。今後もバンコク都と横浜市はアジアの脱炭素化に向けて、共に行動していきたい」とアピールした。
バンコク・横浜都市間連携に関するセッション1ではまず、バンコク都のエネルギー・アクションプラン策定に携わったCreagy社マネージング・パートナーのブンロード・ヤオワプルック氏が概要を報告した。「バンコク都は、2030年までに約1,000万トンのCO2に相当する脱炭素化を目指している」とし、「CO2排出においては、現在エネルギー部門と運輸部門で95%以上を占めており、この2つの部門で大幅な削減を実行する。例えば、エネルギー部門ではクリーンエネルギーに移行するために屋根上の太陽光パネルの設置促進や、エネルギー効率を高めるためにLED照明や省エネ機器の導入の促進を図る。運輸部門では、よりCO2排出量の少ないEVなどへの切り替え、徒歩や自転車、公共交通機関の利用促進などだ」と説明した。さらに、「これらの実行には財源の確保とステークホルダーとの連携がより一層重要」と強調した上で、「大都市であるバンコクで成果がでれば、近郊都市へも展開でき、よい波及効果が期待できる」と訴えた。
また、横浜とバンコクの都市間連携における脱炭素連携プロジェクトとして、横浜市に本社を置く株式会社マクニカとタイで不動産開発や太陽光発電事業を手がけるセナ社が、タイ国内で初となるペロブスカイト太陽光発電の実証事業に向けた取り組みを発表した。
ペロブスカイト太陽電池は、薄い、軽い、曲げられる等の特徴があり、現在主流のシリコン系の太陽電池が設置できない曲面をはじめ、建物の壁面や窓、かばんやモバイル端末など身の回りのあらゆるものに設置でき、太陽光発電がより身近になる。商用化されれば、再生可能エネルギーへの転換を加速させるだけでなく、人々のライフスタイルを変える可能性を秘めており、次世代の太陽電池として注目を集めている。
セッション2では、「バンコク都のエネルギー対策の革新的なパートナーシップ」をテーマにバンコクでネットゼロを達成するためのエネルギー対策の取り組みを実施している日タイの官民両セクターから先行事例や知見が共有された。
バンコク都のネットゼロ政策は、チャッチャート知事が掲げる216政策の内の1つであり、C-R-O(Calculate:GHG排出量の算出、Reduce:GHG排出量の削減、Offset:緑化による炭素吸収)という3つの原則に則った取り組みを紹介。この他、民間部門からはタイ小売り大手セントラル・グループ傘下の不動産開発大手セントラル・パタナと金融大手カシコン銀行が登壇し、グリーン経済に向けたパートナーシップの取り組み事例を紹介した。
本セッションの最後には国際協力機構(JICA)タイ事務所の鈴木和哉所長が登壇し、「これまでJICAはバンコク都の橋や高速道路、水道網などのインフラ整備の技術協力をしてきたが、近年は気候変動対策に協力している」とし、PM2.5のメカニズムの解析、交通渋滞緩和の地域交通管制(ATC)システムの構築、MRTのレッドラインやパープルラインの建設、M-MAP2(首都圏の鉄道マスタープラン)の作成など低炭素社会に向けたプロジェクトの概要を説明した。「バンコク都やその他の行政機関とともにパイロットプロジェクトを実施・活用することで、環境汚染や渋滞、気候変動にマルチベネフィットに協力し、さらに横浜市や横浜市の企業のマッチングを通じて、最終的にはバンコク都が掲げる『住みやすいバンコク(Livable City Bangkok)』の達成に貢献していきたい」と意欲を示した。
セッション3の「政策、投資、イノベーションを通じたバンコクのエネルギー対策の促進」では、気候変動環境局(DCCE)、代替エネルギー開発効率局(DEDE)、海外環境協力センター(OECC)および東京センチュリーが登壇し、省エネや再生可能エネルギー、クリーン モビリティ、GHG削減などに対する補助金等の支援策の概要を説明し、脱炭素事業の機会を提示した。
さらに、本ワークショップ最後のセッション4では脱炭素社会に向けた革新的なサービスやソリューションを持つ日タイ企業のピッチが行われた。タイ側からは大手財閥サイアム・セメント・グループ(SCG)の子会社SCGインターナショナル、石炭大手バンプー傘下の再生可能エネルギー開発会社バンプーネクスト、日本側(日系現地法人含む)からはAGCフラットガラス・タイランド、ダイキン工業、マクニカサイテック・タイランド、東邦レオ、ゼロボード・タイランド、新明和工業、村田製作所が登壇した。
現地会場では、ワークショップ終了後に登壇企業と参加企業との商談会を実施し、日タイ企業の名刺交換や活発な意見交換が行われた。
ピッチに登壇した東邦レオのEnvironment事業部 東日本エリアマネージャーの林恒太氏は、THAIBIZの取材に対して、「現在東南アジアでの事業展開を目指しているところで、当社のグリーンインフラ技術はバンコクの都市開発にも応用できると考え、今回のワークショップに参加した。シンガポールやマレーシアではプロジェクトの実施に向けてすでに動き出している。バンコクでも豪雨による洪水やCO2削減などの都市課題を解決し、住みやすい街づくりに貢献したい。まずはパイロットプロジェクトを実施するために大学や企業など連携できるパートナーを見つけたい」と意欲を示した。同社のインフラ技術は、道路面積が限られ、同様の課題を持つバンコクなどの都市でも効果が期待できそうだ。
横浜市は、タイのほかにもフィリピンのセブ市やベトナムのダナン市をはじめ、アジア諸都市の脱炭素化への国際協力を進めており、引き続き脱炭素ビジネス連携を支援するビジネスマッチングなどを実施していく考えだ。
THAIBIZ編集部
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