「カイゼン」が稼ぐ時代へ ~製造業発・新規事業のヒント

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「カイゼン」が稼ぐ時代へ ~製造業発・新規事業のヒント

公開日 2026.07.07

在タイ日系製造業は、このまま「モノづくり」だけで生き残れるのだろうか。中国企業の台頭や市場構造の変化を背景に、新たな収益源の確立が経営課題として浮上している。解決の糸口として注目されるのが、自社で培った「カイゼン」のノウハウを他社へ展開し、新たな事業モデルを生み出す動きだ。

カイゼン文化は、日本企業が長年培ってきた競争力の源泉の一つだ。あらゆる現場において、生産性向上やコスト削減に加え、組織の効率化や社員の主体性向上など、多面的な効果をもたらしてきた。近年では、デジタル技術を活用したカイゼンの成功事例も増えている。

本稿では、自社のカイゼン経験を新規事業へと発展させる企業への取材を通じて、在タイ日系製造業が持つ新たな可能性を探る。

物流現場の課題解決を外販ビジネスへ

自社で蓄積したカイゼン事例の外販を日本で成功させ、さらにタイでも同様の取り組みを推進する企業がある。その一つが、ロジスティクス事業を手掛けるASUTO GLOBAL LOGISTICS (THAILAND) CO.,LTD.(以下、アストタイランド)だ。同社の前浜盛正マネージング・ディレクターは、元システムエンジニアという経歴を持つ。親会社である株式会社アスト中本の勤務時代には、物流現場の課題解決やカイゼンにつながるシステムを自ら開発し、購買や営業業務の効率化を実現。さらに、その取り組みを外販事業として軌道に乗せた経験も持つ。

前浜氏はアストタイランドの立ち上げを任され、2013年に来タイ。当初の約5年間は倉庫事業に専念し、タイでの事業基盤の構築に注力した。その後、2018年頃から日本での経験を生かしたシステム支援事業の構想をスタート。約3年間の社内検証を経て、昨年からタイにおける製造業と物流業のDX支援事業の本格展開を開始した。

現在は、勤怠・外勤管理や電子サイン、在庫・発注管理など、現場を熟知する同氏ならではの視点から生まれたシステムパッケージを提供。事務・現場作業を視察し、システムのデモを作成した上で、顧客ごとの課題に応じたシステム設計にも対応している。主な顧客は製造業だ。

前浜氏は「現場で本当に求められるシステムをつくるには、現場を理解した人が全体を俯瞰し、本当に必要な機能を現場の担当者と対話しながら形にしていくことが重要だ」と語る。現在6社まで拡大したDX支援事業の顧客基盤を、今後さらに広げていきたい考えだ。

製造現場のタイ人社員が自らアプリを開発

一方で、製造現場では、現場の担当者自身がノーコードや人工知能(AI)を活用して業務改善アプリを開発し、その成功体験やノウハウを新たな事業へと発展させる動きも生まれている。

樹脂押出成形やディップ成形を手掛けるK.U. Nomura Thai Ltd.(以下、K.U. Nomura)の野村亮太マネージング・ディレクターは、2020年の現職着任後、経営改革の一環として工場内の業務効率化に着手した。

例えば、ワイヤーハーネス用の保護チューブの製造工程や倉庫入庫前の工程では、従来、担当者名や製品の情報を紙に記録し、それを別の紙に集約した後、最終的にExcelへ手入力してレポートを作成していた。非効率なうえ、入力ミスも発生していたことから、タイ人社員のコムクリット・ブンチョープ氏がGoogleのノーコード開発ツール「AppSheet(アップシート)」を活用してアプリを開発。QRコードを読み取るだけで担当者情報や製品情報が自動入力され、リアルタイムでデータ化できる仕組みを構築した。

QRコードの読み取りを行うK.U. Nomuraの従業員(撮影:THAIBIZ編集部)

その後も社員が生成AIを活用しながら次々とアプリを開発し、現在のアプリ数は130を超える。これらを外部へ委託して開発した場合、その費用は約1,500万バーツに相当するという。

野村氏は「従来2時間かかっていた作業が15分に短縮された事例もある」と成果を語る。最大約400人だった従業員数は現在270人弱となった一方、利益水準は維持できているという。

アプリ導入によって不要となった業務を担当していた従業員は、より付加価値の高い業務へ配置転換するなど、人材活用も見直した。「K.U. NomuraをタイでNo.1のデジタル中小工場チームにする」という方針のもと、同社では今日も従業員起点のカイゼンが生まれ続けている。

カイゼン活動が新事業へと発展、新会社の設立

こうした社内でのカイゼン活動を新たな事業へと発展させるべく、野村氏はコムクリット氏との共同出資により、製造業向けにAI×カイゼンソリューションを提供するWadfun Digital Solution Co., Ltd.(以下、Wadfun)を2024年に設立した。

K.U. Nomuraの工場をモデルルームとして公開したところ、見学会は即座に満席となり、これまでに約30社が参加。多くの企業が高い関心を示しているという。

野村氏はWadfunの事業モデルについて、「設立当初は、お客様の課題に応じたアプリやシステムの開発支援を中心に考えていた。しかし、実際にはAIを活用してカイゼンを実践できる人材を育成することの方が重要だと分かった」と語る。現在は、そうしたAI人材育成のためのトレーニングを提供しながら、「AIを使いこなせる組織づくり」を支援する伴走型のサービスへと軸足を移しつつある。

さらに同氏は、「カイゼンを組織文化として定着させるには、人事評価制度との連動が欠かせない」と指摘する。K.U. Nomuraでは、コーポレートバリューを人事評価に組み込み、業績評価と同等の比重でバリューの体現度を評価し、報酬にも反映している。その結果、「自分の仕事がなくなるから」といった理由でカイゼン活動に消極的な従業員はほとんど見られなくなったという。

同社は今後、「カイゼン×人事評価」のノウハウについても、人事コンサルティング会社と連携しながら事業化を進める方針だ。

日系製造業の新たな成長モデルとなるか

こうした動きについて、コンサルティング大手ローランド・ベルガーの橋本修平氏は、「中国企業との競争激化や人手不足を背景に、製造業では製品そのものだけでなく、現場の生産性を継続的に高める力そのものが競争力になっている」と指摘する。

さらに、AIやノーコードツールの普及により、これまで現場の暗黙知だったカイゼンのノウハウをアプリや教育プログラムとして再現しやすくなったことが、「カイゼンを社内活動にとどめず、外部向けサービスへと展開させる背景にある」と分析。

そのうえで、「重要なのは、現場診断や改善テーマの抽出、AI・ノーコード教育、伴走支援、人事評価制度との連動まで含め、現場が自ら改善を続けられる仕組みを提供することだ。現場が自走できる実装プロセスを型化することが収益化の鍵になると考える」と話す。

アストタイランドやK.U. Nomuraの事例は、自社で培ったカイゼンノウハウや組織運営の知見そのものが新たな事業価値になりうることを示している。カイゼンを事業化する動きは、変化の激しい時代における在タイ日系製造業の新たな成長モデルとして、今後さらに注目されそうだ。

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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