打倒・競合!カルビーの大構造改革

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

THAIBIZ No.175 2026年7月発行打倒・競合!カルビーの大構造改革

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

打倒・競合!カルビーの大構造改革

公開日 2026.07.10

タイ市場で勝つために現場は何を変えたのか

本村氏が掲げた競合への危機感と、白のかっぱえびせんに象徴される構造改革。これらを現場はどう受け止め、実際の仕事に落とし込んでいったのか。タイ市場で勝つために必要だったのは、商品を変えることだけではなかった。消費者の声を起点に商品を見直し、購買データをもとに売り場を提案し、マーケティング、研究開発(R&D)、生産、営業が一体となって動くことだった。ここでは、各チームへの取材を通じて、現場が何を変え、どのようにかっぱえびせんのシェア拡大を実現したのかを探る。

【営業】「なぜ競合が売れるのか」データで徹底的に洗い出した

消費者の声を、数字で読み解く

最高戦略責任者(CSO)の高橋氏によると、競合対策のために、現場がまず取り組んだのは、「なぜ競合商品が売れているのか」を徹底的に分析することだった。これまでの営業スタイルは、輸出事業の比重が大きかったこともあり、問屋や小売店からの要望に応える側面が強かった。しかし改革をきっかけに、同社は改めて「消費者に選ばれる理由」を起点とした売り方を考えるようになっていった。

その際、重要な武器となったのがデータだった。同社では、これまで導入していなかった小売各社のPOSデータや消費者データを新たに購入。定番商品の販売状況、新商品の動き、プロモーション効果、欠品率までを分析し、「どの商品が、どこで、なぜ売れているのか」といった“消費者の声”を数字として可視化していった。

例えば、菜食週間(ギンジェー)期間中に需要が高まることがわかると、昨年にはセブンイレブン限定商品や「タオケーノイ」とのコラボフレーバーを投入。さらに、「BunBun」のパッケージにベジタリアンマークを追加するなど、小さな工夫も積み重ねていった。

2,000行のエクセルから脱却、同じ数字を見る組織へ

その中心を担ったのが、2025年に入社したデータアナリストのクリタポット氏だ。以前は、2,000行を超えるエクセルファイルを各部署が個別に管理しており、必要な情報を探すだけでも時間がかかっていた。しかし現在は、Power BI(マイクロソフト社が提供するビジネス・インテリジェンスツール)を活用し、営業、マーケティング、生産など全部門が同じデータを見ながら議論する体制が定着した。

「以前は、売上が良くても悪くても、“なぜそうなったのか”を十分に分析できていなかった。しかし今は、競合動向や販促成果まで含めて、誰でもすぐにデータにアクセスして確認できるようになった」と同氏は話す。

また、データ活用は、需要予測にも変化をもたらしている。従来は、バイヤーが提示した数字をもとに生産量を決める場面も多く、欠品や過剰在庫が起きることもあった。しかし現在は、店舗の実売データと過去の販促実績を組み合わせながら需要を予測し、生産計画や在庫管理にも反映している。例えば、バイヤーが「1万ケース」と見込んでいても、過去データから「1万3,000ケース必要」と判断されれば、その数値をもとに工場や問屋と調整を行う。営業だけでなく、工場や生産部門まで含めて同じ数字をもとに議論できるようになったことも大きな変化だった。

新体制を機能させる鍵は、社員のマインドセットだった

写真左から、最高戦略責任者(CSO) 高橋 淳 氏、秘書兼企画室長・DX推進担当 メティニー・ヘンワッタナー(Ms. Metinee Hengwattana)氏、営業・マーケティング本部長 ポンパン・サイワ二ット(Mr. Pongpan Saivanich)氏、ビジネス分析スーパーバイザー クリタポット・ウドムパイブーンスック(Mr. Kritapoj Udompaiboonsuk)氏

しかし、この変化を現場へ浸透させるまでには、多くの時間と対話が必要だった。営業・マーケティング部長のポンパン氏は、「最も難しかったのは、社員のマインドセットを変えることだった」と振り返る。工場側からは、「予測をもとに増産して、もし売れ残ったら誰が責任を取るのか」という不安の声もあった。問屋側も、不動在庫リスクへの警戒感が強かった。社内でも、「今までのやり方で問題ない」という声は少なくなかったという。それでも同氏は営業、工場、問屋まで丁寧に足を運び続け、「データをもとにした考え方」の必要性を粘り強く説明していった。

こうして2023年6月から改革に取り組んだ結果、翌2024年10月には月間総売上が過去最高を更新。注力した「かっぱえびせん」「BunBun」シリーズの成功が主な要因となっている。数字以上に大きかったのは、営業、工場、問屋が同じデータをもとに議論し、意思決定する文化が根付き始めたことだ。そして消費者に選ばれる理由を追い続ける取り組みは、商品開発や生産現場にも広がっていった。

【マーケティング・R&D・生産】 “カルビーらしさ”を、タイ市場向けに再構築

白のかっぱえびせんを、市場にどう浸透させるか

タイ市場で40年以上展開しながらも、長らく2位に甘んじていた「かっぱえびせん」。同社では、「日本で売れているものを、そのまま持ち込むだけでは勝てない」と考えていた。白のかっぱえびせんが狙ったのは、競合との差別化だけではない。最高マーケティング責任者(CMO)の北村氏は、「赤いエビを際立たせることで、『本物のエビ感』や品質感をより鮮明に伝えようとした」と語る。

一方で、長年親しまれてきたデザインを変えることへの不安も大きかった。社内だけでなく、問屋からも、「既存顧客が離れるのではないか」という声が上がったという。そこで同社は、その不安を逆手に取り、「さよならキャンペーン」を展開。マーケティング担当のブーンニチャ氏によれば、旧パッケージとの“別れ”をあえて打ち出し、新旧パッケージを並べた販促物や屋外広告を活用しながら、消費者へ段階的に変更を浸透させていったという。また、試食イベントやブラインドテストも積極的に実施。実際に「競合より美味しい」と感じてもらえるかを現場で検証しながら、売り場や販促方法も調整していった。

タイ人が美味しいと感じる味を現場で磨き上げる

R&D・生産を担当する千田氏は、「タイ人が本当に美味しいと感じる味と食感を、改めて考え直した」と話す。具体的には、使用するエビの種類の変更や全体のタンパク質比率を調整。さらに、タイ人スタッフと試食・改良を繰り返しながら、タイ市場に合った味付けや食感を探った。また、カルビーの特徴でもある“揚げない”ロースト製法についても改めて製造方法を見直し、健康志向が高まる中で「軽い食感」や「本物のエビ感」をどう伝えるかも重要なテーマとして取り組んだ。

タイ駐在歴7年の同氏は、カルビー勤続45年。今年72歳になる。「まだまだ挑戦したいことはある。例えば、極限まで原料となるエビの配合量を高めたかっぱえびせんなんかも、おもしろい」。今日も工場で、タイ人スタッフとの試作と改良を続けている。

R&D・生産アドバイザー 千田 憲明 氏、最高マーケティング責任者(CMO) 北村 拓巳 氏、マーケティングマネジャー ブーンニチャ・マナキット(Ms. Boonnicha Manakit)氏

THAIBIZ編集部
和島美緒

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

THAIBIZ No.175 2026年7月発行打倒・競合!カルビーの大構造改革

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE