カテゴリー: 会計・法務
公開日 2016.06.30
【1.就業規則】
労働者保護法は、10人以上の従業員を有する場合には、従業員数が10人以上になった日 から15日以内に、タイ語で就業規則を作成しなければならない旨規定している。日本においても、従業員数が10名以上になった場合には、就業規則を作成・届出する必要があり、この点では共通している。相違点としては、日本では事業所ごとに従業員数が判断されるが、タイにおいてはすべての事業所の従業員が10名以上になったか否かで判断されることが挙げられる。
就業規則は、使用者が定める労働条件に関する規則であり、労働者を拘束するものである 以上、従業員がいつでもその内容を閲覧できるよう、周知しなければならない。そのため労働者保護法では、就業規則を作成したのち公示し、就業規則の写しを事業所または事務所に備え置かなければならない旨規定している。
就業規則を作成し公示したのち7日以内に、労働官に就業規則の写しを提出しなければ ならないとされている。労働官は、提出された就業規則が労働者保護法をはじめ労働法制に反しないかを確認し、法令違反がある場合には、就業規則の修正を指示する。企業はその指示に従い、就業規則を訂正し再提出する必要がある。この手続きを踏むことで、労働法に反する就業規則が作成されることを防止し、労働者を実質的に保護しようとしているのである。
尤も、この労働者保護の趣旨を貫徹するためには、企業が就業規則を変更する際にも、やはり当該変更が労働法に反するものでないかについて、労働官の審査を及ぼす必要がある。そのため、就業規則の作成段階のみならず、就業規則の内容を改定した際にも、改定後7日以内に公示するとともに、労働官へ届出をする必要がある。
【2.労使交渉】
労働者側から労使交渉を切り出す場合、労働者の要求が、全労働者の15%以上の代表 者、または全労働者の20%以上が参加する労働組合から、要求書という形で会社に対し て提示されることで、労使交渉が開始される。
交渉は、要求書が相手方に到達してから3日以内に開始する必要がある。通常交渉参加代理人を各陣営で選任した上で交渉に臨むわけだが、交渉参加代理人の人数は、各陣営7名 以内とされている。
但し、交渉参加代理人の顧問として、各自2名以内を選任することが可能である。なお、顧問として適格を有するためには、労働省の定める資格を有していること、労働局長によって登記されていることが必要である。 各陣営は、交渉参加代理人および顧問の氏名を相手方に通知しなければならない。
交渉の結果、合意に至った場合、合意内容を書面に記した上で、各陣営の交渉参加代理人がこれに署名する必要がある。また、会社は、合意後3日以内に当該合意事項を要求事項に関係する労働者の勤務場所に掲示する方法により、告示しなければならない。掲示は30日間以上行う必要がある。
交渉の結果合意に至らなかった場合、要求書の到達から3日以内に交渉を開始できない場 合(以下、併せて「合意不成立」という)、労働紛争が生じたものとみなされる。要求書提出側 は、合意不成立の時から24時間以内に労働紛争事項調停員に対して、その旨書面で通知する必要がある。
合意不成立の場合には、調停を経て、仲裁、またはストライキ、ロックアウトへと進んでいくことになる。
【1.就業規則に関する事例】
(1)第4回で扱った事例
就業規則において、管理部の許可なく就業中もしくは工場、社屋内において飲酒することを禁じ、当該就業規則に違反した場合、労働者保護法119条1項4号の「重大な違反」とみなす旨併せて就業規則に規定していた会社が、社屋外にて飲酒し、酩酊したまま出勤した従業員を、当該就業規則に基づき解雇したことが、適法とされた事例。
(2)第5回で扱った事例
定年に関する就業規則の変更が無効とされた事例。
(3)第6回で扱った事例
就業規則において、経費申請について、申請者の直接の上長の確認を経た後、申請者が属する部署の決裁権者に対して申請を行うことと定められていたところ、別部署に応援に来ていた従業員が、当該部署の部長に経費申請をし、部長がこれを決裁したため、当該従業員および部長を就業規則違反として解雇したことが、適法とされた事例。
(1)第9回で扱った事例1
従業員がストライキを行う際に、工場内の危険物が保管されている場所の周辺で煮炊きを行ったことに対して、会社側が別の場所に移るよう要請したにもかかわらず、労働者側がこれを無視したため、当該従業員を解雇したことが適法とされた事例。
(2)第9回で扱った事例2
労働者側が要求書提出の後に従業員名簿を追完した場合において、従業員がストライキ 行為に及んだことを以て、会社が当該従業員を解雇したことが、適法とされた事例。
(3)第10回で扱った事例
会社側が、一旦適法にロックアウトを始めたものの、労働者側が要求書の取消を書面で通知して以降もロックアウトを続けたため、当該ロックアウトが違法とされた事例。
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佐藤聖喜 代表弁護士
平井遼介 弁護士
千代田中央法律事務所・バンコクオフィス
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