日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想

THAIBIZ No.157 2025年1月発行

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    日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想

    公開日 2025.01.10

    回収した乾電池の行方

    セブンイレブンの回収ボックスに入れられた使用済み乾電池は、どのようにリサイクルされ、どこに行くのだろうか。乾電池のリサイクル業務を担う製鉄会社UMC Metalsのジョー・エイン社長に、パナソニックエナジーとの提携経緯やリサイクル技術などについて話を聞いた。

    30年の歴史を持つ製鉄会社の新たな挑戦

    UMC Metalsは1995年に設立されたタイの製鉄会社だ。建設現場や車の解体現場からスクラップ(不要となった鉄製品)を購入し、電炉で溶解し、ビレット(四角柱状の鋼片)や異形棒鋼を生産している。

    使用済み乾電池回収リサイクル事業に携わることになった経緯についてジョー氏は、「サプライヤーである日系リサイクル会社のHIDAKA YOOKOO Enterprisesが、乾電池のリサイクル事業についてパナソニック エナジーと議論する中で、当社の名前が挙がったと聞いている。乾電池リサイクル事業への協力要請を受け、しばらく検討した結果、当社の技術なら可能だと思い承諾した」と説明する。同氏によれば、乾電池のリサイクルは技術的にはさほど困難ではなかったが、リサイクルの工程で有害物質が放出されないよう、その調整に慎重を期す必要があった。

    タイで前例のない乾電池のリサイクルについて、政府の許可取得には実に2年の歳月を要した。ジョー氏は、「タイ政府は、特に初めての試みに関しては承認に時間がかかる。しかし、パナソニック エナジーには強い意志があり、忍耐強く何度も政府にアプローチし続けた。その結果、パナソニック乾電池のリサイクルが正式に認定され、当社に新しい挑戦の機会がやってきた」と当時を振り返る。技術的には可能であるのに、なかなか承認が下りず実行に移せなかった時期は、もどかしい思いだったことだろう。

    環境に優しい「ECOARCTM電炉」は日本の技術

    UMC Metalsが乾電池のリサイクル業務に適任と見なされた理由の一つに、同社が持つユニークな電炉「ECOARCTM」の存在がある。この電炉は、「環境対応型高効率アーク炉」と呼ばれ、「金属材料を溶解する際に発生する白煙や悪臭を解消する高度なスクラップ予熱技術」を備えており、日本の技術だ※1。ジョー氏によれば、2013年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の省エネ実証事業として、UMC Metalsに「ECOARCTM」が導入された。同実証事業では、従来の電炉との比較で30%の省エネ効果およびCO2排出量の削減が実現できたという。

    ※1 JP Steel Plantech Co.プレスリリースより引用 https://steelplantech.com/news/2534

    「ECOARCTM」の導入先に選ばれた理由についてジョー氏は、「当時、当社を含めて複数社の候補があったようだが、NEDOが各工場で視察を行い、立地や作業員、工場の規模などから当社が選ばれたと認識している」と説明し、「我々にとっても、革新的な技術の導入により環境に優しい事業が実現できるのであれば大歓迎だった」と当時の心境を語った。

    UMC Metalsの電炉

    経済的メリットがなくても、乾電池リサイクルを手がける理由

    回収ボックスに入れられた使用済みパナソニック乾電池は、「ECOARCTM」にて溶解された後、鉄や亜鉛などにリサイクルされ、販売される。この工程を経て生まれた製品は、そうでない場合と比較して高値となり、利益はほとんどないそうだ。しかしジョー氏は「当社が乾電池のリサイクルを担っているのは、利益のためではない。製鉄会社として、タイの環境問題に真摯に向き合い、少しでも貢献したい気持ちがあるからだ」と力強く語る。

    同氏は今後の展望について、「常に少しずつ改善を重ね、省エネに取り組むとともに、CO2排出量の削減に努めていく。私たちのリサイクル事業が、他社の環境改善の取り組み事例にも繋がってくれると嬉しい」と、環境問題へのコミットメントを強調した。

    THAIBIZ編集部

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