カテゴリー: バイオ・BCG・農業
公開日 2022.12.20
2022年のタイ経済では、世界的な地球温暖化への問題意識の高まりに伴い、「カーボンニュートラル」、あるいは「脱炭素」がテーマとなり、タイ政府がアピールしているバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルが主役に踊り出た。そしてこれらを討議するセミナーが年末まで断続的に続いた。今回は日本貿易振興機構(ジェトロ)が11月24日に開催した「カーボンニュートラル達成に向けたサステナブルビジネスセミナー」と、東京都中小企業振興公社タイ事務所が11月14日に開催した「BCG産業の論点と日タイ企業のビジネスチャンスを探る」と題するセミナーの一部を紹介する。
日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所とタイ投資委員会(BOI)が共同で、11月24日にオンラインで開催した「カーボンニュートラル達成に向けたサステナブルビジネスセミナー」では、BOIのナリット長官が開会あいさつで登壇。「日本はグリーン成長戦略を通じて、2050年のカーボンニュートラル達成を目指す一方、タイはBCG経済モデルが国家戦略で、足並みは一致している。環境保護と経済成長を両立させる好循環の実現に向け、政府と企業の連携や国際協力が必要だ」と訴えた。
その上でナリット長官は「2023年から実施する5年間の投資促進戦略では、9項目の新しい投資促進策がある。これにより、特に 『保持と拡大プログラム(Retention and Expansion Program)』はタイに投資している投資家が将来的に生産基盤を持続し、新規投資を拡大できるようにする対策であり、『移転プログラム(Relocation Program)』は新規産業への投資促進や国際ビジネスハブを作るための積極策で、直接に日本の投資家に支援するものだ」と説明した。
続いてジェトロバンコク事務所の黒田淳一郎所長は、「カーボンニュートラルの実現と持続的社会の共創は、各国の政策だけでなく、民間の活動がなければ実現できない。今日のウェビナーは企業の方々に官民の具体的な情報を提供し、その活動を支援するものだ。日本とタイの企業がこのウェビナーをきっかけにして、ともに協力してサステナブルビジネスに積極的に取り組んでいただくことを強く期待する」と述べた。
この日の基調講演は、タイ国立科学技術開発庁(NSTDA)のジェーングリット副長官で、BCG経済モデルについて、①農業・食品 ②医療・健康 ③エネルギー・素材・バイオケミカル ④観光・クリエーティブ経済-の4分野が主な対象だと説明。「これらのターゲットエリアは、タイの強みである生物多様性をベースにしており、日本とさまざまな協力ができる。例えば、タイの多様な生物資源からの高付加価値製品の開発、タイなど東南アジア諸国連合(ASEAN)の市場への先端技術の導入、日本企業と大学間の研究開発の協力などだ」と強調した。
このほか、民間シンクタンクのタイ開発調査研究所(TDRI)のガンニカー上席研究員は、「タイが国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に脱炭素や二酸化炭素排出の実質ゼロ(ネットゼロ)が国内の企業経営を大きく圧迫している」と指摘。さらにタイで、GHG削減目標を達成する際の障害として、カーボンプライシングの欠如、法律や規制の問題があるとの認識を示した。また、民間企業の取り組み紹介では、SCGケミカル、Increbio、日鉄エンジニアリング、AC Biodeがそれぞれ報告した。
東京都中小企業振興公社(東京SME)のタイ事務所がタイ工業省と共催で11月14日に開催した「BCG産業の論点と日タイ企業のビジネスチャンスを探る」と題する日タイ企業の交流イベントでは、目黒克昭理事長が開会あいさつをし、「タイ事務所は、2015年12月の開設以来、2000件を超える経営相談やマッチング、商談を提供するなど、多くの企業に利用いただいている」などと報告した。
基調講演では、タイ工業省の産業経済事務局(OIE)のワラワン局長が登壇。タイ政府が掲げるバイオ・循環型・グリーン(BCG)産業の振興について、「タイの発展には、農業部門をより強化していくことが重要だ。天然資源の豊富さ、多様性という強みを生かしたBCG経済の発想が国力の強化につながる」と強調した。そしてタイ投資委員会(BOI)のデータを引用し、タイでBCGに投資したプロジェクト数は2015年から2021年の累積で2900件、金額では6750億バーツに達し、2021年の単年度のBCG投資額は1500億バーツと前年比123%増加したと報告。「これらのデータは、タイのBCGビジネスモデルが進化している証拠だ」との認識を示した。
基調講演に続いて、パネルディスカッションが開催された。ミトポン・グループでBCGアドバイザーを務めるプラウィット氏は、「タイの雇用の33%は農業で、工業とサービス業と比べて最も多いが、国内総生産(GDP)の9%しか生み出せていないのが現状だ。もし、タイが面積あたりの生産性を上げ、農産物の価値を高めることができたら、33%の国民の所得を増やすことができる」と主張。また、「例えば、キャッサバの生産量は平均で1ライ(1600平方メートル)あたり3.25トンだが、先進的な農業管理などの技術が導入すれば、生産量は2倍以上になる。さらに、バイオケミカル、機能性食品、飼料原料、化粧品、バイオ医薬品などの多くの産業に拡大することが可能になる。これらのことはタイだけでは実現できず、日本の技術パートナーが必要だ」と訴えた。
次にタイ味の素の錺本巧副社長が登壇。「味の素グループは2030年にむけて、10億人の健康寿命を延ばし、2018年度実績に対し、環境負荷を50%削減する目標を掲げている。バイオファイン工場では、発酵培養液から生成物を分離した後の窒素成分を含む残液を肥料としてキャッサバやサトウキビ、米作農家に販売している。キャッサバやサトウキビは発酵の主原料として、コメはそのもみ殻がバイオマスコジェネレーションの燃料としてわれわれの工場に戻ってくる。このようにバイオ生産技術と農業との循環をバイオサイクルと呼んでおり、われわれのアウトカムの実現に大きく貢献している」などと報告した。
続いて講演した東洋ビジネスエージェンシーの梅木英徹代表はまず、タイの商工会議所(TCC)、工業連盟(FTI)、銀行協会の民間経済3団体で構成する商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)のバイオエコノミー部門のアドバイザーを務め、日本とタイの企業の協業を生み出すのが私の役目だと自己紹介。「バイオエコノミー部門では、農産物の付加価値を上げて、農家の収入を増やすのが狙いであり、政策のターゲットの農産物はサトウキビ、キャッサバ、パーム(アブラヤシ)、そして新しい農産物はヘンプ(大麻)だ」と報告した。
その上で梅木氏は、BCGの中で日本とタイがどのような視点で取り組むべきかについて両国の地理的条件の違いを指摘。まず供給面ではタイの国土面積は3億2000万ライ(1ライ=1600平方メートル)あり、日本の国土面積(2億3000万ライ)の1.5倍だが、耕作可能面積ではタイは1億3000万ライあり、平野が少ない日本の耕作面積はタイの4分の1の3000万ライしかないなどと説明した。さらに日本には四季があり、年に1作が当たり前で、2作できればよい方だが、タイではコメは普通でも年2作、3作で、4作も可能だとし、特に食料とバイオエネルギーを生産する農業ではタイの方が圧倒的に優位であり、日本は食料・エネルギーの安全保障のために産地を確保しなければならないと問題提起した。
また、需要面については年間の燃料消費量ではタイは90億リットルに対し、日本は1500億リットルと16倍だとした上で、タイの燃料消費量のうち、バイオエタノールが15%を占め、エタノールを20%混合した「E20」を日常生活で普通に使っているなど代替燃料利用では極めて優秀だと指摘。一方、日本の代替燃料の使用比率は1%にすぎず、しかも90%以上が輸入だとし、日本がエタノールの比率をタイ同様に15%に引き上げるためには、日本はタイが今使用している量の15倍必要になるなど、資源のない日本は、バイオ燃料の大きな対象マーケットになるとの認識を示した。
梅木氏は結局、バイオエタノールでは日本にはマーケットがあり、タイには資源があり、相互補完が可能で、タイは日本への供給基地になれると強調。もともと、石油も植物や動物の死骸であり、エタノールは石油化学品、化石燃料の代わりになれるとし、政策的に日本とタイのコラボレーションを生み出していくことが大事だと訴えた。
TJRI編集部
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