直近のタイ日系企業のM&Aトレンド

ArayZ No.147 2024年3月発行

ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望

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直近のタイ日系企業のM&Aトレンド

公開日 2024.03.10

以前に日系企業のM&Aのトレンドについて記載したが、そこから一定期間が経ったため、改めて直近の状況をアップデートしたい。

直近のタイ日系企業のM&Aトレンド

はじめに、タイに限らず日本企業全体のM&Aのトレンドについてご紹介したい。2023年は、日本企業が関与する海外M&Aの件数が増加した*1。適時開示ベースでは、特にアウトバウンド (日本企業が海外の企業を買収するケース) について、22年は91件であったものが23年に147件へと増えている(図表1)。

日本企業が関連する海外M&Aの件数

ここ数年業績好調だった鉄鋼やエネルギーセクターでのM&Aが大きく寄与している。コロナ禍の影響が更に薄れる中で、特に昨年は海外に成長を求める動きが再加速したと言える。

タイにおいては、23年は22年と比較するとJV等を含むM&Aの件数が減少した (弊社調べで22年で48件、23年で43件*2)。業種別の件数の内訳をみるとそれ程昨年と大きな違いは見られない(図表2)。

タイにおけるM&Aの業種別トレンド

引き続き不動産・建設領域での件数が多く、またサービス業での買収やJV設立などが見られた。特に小売・サービス業においては、個人向けの不動産仲介業や食品卸といった企業への出資やJV設立が見られ、これまで抑えられていた個人消費がより活発になることを見据えた動きだと考えられる。

日系企業全体との比較でいうと、タイではエネルギーセクターでの動きは限定的であった。ESGで特に再エネに注目が集まっているが、ベトナムなどに比べるとタイにおける日系企業の動きはそれ程活発ではない。再エネ領域でM&Aの案件があってもタイ企業の検討スピードが早く、日系企業が検討する時間軸とうまく合わないケースが多いことが一因として考えられる。以前は屋根置き太陽光発電事業にJVを組んで取り組みを開始する企業も散見されたが、競争の激化に伴いそのトレンドは一服したと見受けられる。

今後の新たなトレンド

ここまでは23年の動向を中心にご紹介してきたが、今後どのようなトレンドが考えられるのか、足元での動きなども鑑みながらご紹介していきたい。

特に小売領域での買い手としての日本企業への期待の高まり

昨年の利上げなどもあり、タイのM&A市場全体はそれ程活況とはいえない状況である。そのような中で、業績好調な日本企業への期待感は高い印象がある。既に前項の23年におけるトレンドでも記載をしたが、特にバリューチェーンの川下である小売の領域での期待感が高まっていると感じる。

よく言われる話であるが、タイから日本を訪れる観光客が増えている。特に昨年はタイから日本の観光客が100万人近くに達し、タイを訪れた日本人旅行者数を20万人近く上回った*3。特に中高所得者層のタイ人と会話していると日本への旅行について話題になることも増えてきており、日本での体験 (食事やショッピングなど) を好意的に捉えている層が多い。

そのような中で、日本での小売やサービスの体験をタイで再現したいと考え始めているタイ人の企業経営者が現れてきている。小売やサービスの領域で日系企業とパートナーシップを組み、事業を立ち上げることに興味を持つ会社が増えてきている印象がある。

日本企業の目線では、タイの中高所得者層の旺盛な消費を取り込むために、タイ企業とパートナーシップを組むのも一つの手段である。ただし、出資を伴うような場合は、特に小売企業はバリュエーションの目線が高くなりがちである点に留意が必要である。

「救済ディール」的色彩の案件の増加

コロナ禍を経て、タイ企業の優勝劣敗がはっきりしてきているという印象がある。GDPはコロナ禍を経て回復傾向にはあるが、業種によってその成長率の良し悪しに差が出てきている。23年の上半期であるが、ホテルや食品サービス業の実質GDP成長率が前年比較し+23.9%、また輸送及び倉庫業については+10.0%であった。一方で製造業は実質GDP成長率が前年に比較して-3.2%であり、業種によって差が出てきている*4。更に、同業種でも企業間でコロナ禍からの回復には差があるものと想定される。

弊社では定期的にローカルのM&Aアドバイザーと情報交換を行っており、タイ企業の売却案件についてディスカッションを行っているが、赤字が続き事業がうまくいっておらず、ターンアラウンドを目的としたような案件が混じっているようなケースが増えてきた。

コロナ禍で業績が一時的に低迷し、回復の目途が経っているのであれば良いが、よく話を聞くとそのような勝ち目があまり見えないケースもある。一時的に業績が落ち込んでいるだけであれば、バリュエーションも低めになり逆に買収のチャンスでもあるが、回復の見込みがなければかえって高値掴みになり得る。

もちろんマネジメントとの対話やデュー・デリジェンスを行えば案件の性質は分かるものではあるが、無駄な検討に時間を使わないためにも初期的なスクリーニングは重要である。

例えば、案件の背景や(新株発行であれば)資金の使途を把握するのは重要である。コロナ禍からの需要回復に対応するために工場や店舗のキャパシティを拡大したいという話をしていたのが、よく聞くと借入金の返済が苦しいのでそれに充てたいという背景だったというようなこともある。また、どのような事業計画であるのかについても初期的に確認し、現実的な計画なのか、また資金の使途とストーリーが整合的なのかなどのチェックも必要である。


※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

*1: M&Aオンライン「上場企業の海外M&A、2023年はコロナ前を超えて7年ぶりの高水準に」 https://maonline.jp/articles/kaigai_ma_inbound_outbound_202302_copy
*2: SPEEDA、企業プレスリリース等を用いてデロイトが分析
*3: NNA 日タイ旅行者数、昨年はタイ人が日本人超え – NNA ASIA・タイ・観光
*4: Office of the National Economic and Social Development Council

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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Associate Director

谷口 純平 氏

商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。

【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
jumtaniguchi@deloitte.com

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Financial Advisory Manager

柴 洋平 氏

大手電機メーカー等を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2022年8月からDeloitteバンコク事務所に出向し、M&A関連業務や市場調査業務などに従事している。

Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.

デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

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