連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2024.09.16
タイ進出やタイでの事業拡大を目指す中小企業が利用可能な日本の公的支援は、多岐にわたります。種類が多く、活用場面も多様であることから「いつ、何を、どのように利用すれば最適か」自社では判断が難しいケースも多いのではないでしょうか。
日本政策金融公庫(以下、JFC)では、中小企業者等の海外展開を資金と情報の両面から支援しています。その情報面の支援では、個々の企業に適した公的支援制度や各種専門家の紹介、お取引先同士のマッチング、交流会・商談会の開催等を行っています。「お客さまとの対話の中で潜在的な課題に気付き、適切な支援メニューを提案する『ホームドクター』のような存在を目指している」と話すのは、JFCバンコク駐在員事務所の田澤和徳首席駐在員です。
<聞き手=mediator ガンタトーンCEO、THAIBIZ編集部>
目次
田澤氏:JFCは、「政策金融を担い続ける者として、お客さまに寄り添い、地域の関係機関と共にお客さまの安心と挑戦を支え、日本の未来を創る。」ことを使命として定めています。
日本政府が推進する政策に基づき、中小企業者等の海外進出、創業・スタートアップ・新事業、事業再生などさまざまな分野で、民間金融機関が行う金融を補完する政策金融機関として、リスクテイク機能の発揮などに取り組んでいます。各地域の民間金融機関との連携は重要であり、JFCが踏み込んだ支援をすることで、他の金融機関の支援を引き出しやすくなる「呼び水」の効果が得られると考えています。
バンコク駐在員事務所の歴史は、JFCの前身の一つである中小企業金融公庫が1991年に、マレーシアのクアラルンプールに初めて海外事務所を設立し、ASEAN域内の現地情報の収集やお取引先現地法人への情報提供、および課題解決支援を行っていたことに遡ります。2008年の統合でJFCとなり、事務所をお客さまの海外拠点がASEANの中で最も多いバンコクに移転し、現在に至ります。
田澤氏:JFC(中小企業事業)が日本の各支店で実施している海外展開企業向けの融資制度(海外展開関連制度)としては、「海外展開・事業再編資金」と「スタンドバイ・クレジット制度」の大きく2種類に分けることができます。
「海外展開・事業再編資金」には日本所在の親会社に向けた円建てのご融資に加え、為替リスク低減等のために外貨(米ドル)を直接ご融資する制度(外貨貸付)もあります。また、日本円または米ドルでJFCから海外現地法人に直接ご融資を行う「クロスボーダーローン」の制度もあります。これは、親会社のバランスシートに影響せず資金調達できるため、海外現地法人の独立化等に向けた一歩としてもご活用いただけます。2024年8月時点で、6つの国・地域が対象となっており、タイは対象国に含まれています。
2012年にスタートした「スタンドバイ・クレジット制度」は、海外現地法人等がJFCの提携金融機関から現地流通通貨建て長期資金の調達を行う際、その債務を保証するためにJFCがスタンドバイ・クレジット(信用状)を発行することで、海外での円滑な資金調達を支援するものです。タイにおいては、バンコック銀行と提携しています。
このようにJFCでは、お客さまの資金調達ニーズの多様化等に対応するべく支援メニューの充実を図りサポート体制を強化してきました。そうした中で、お客さまの海外事業の拡大等も進み、海外展開関連制度のご利用実績も増加してきています。
田澤氏:バンコク駐在員事務所では、中小企業者の皆さまの、タイ進出の検討段階から進出後までをサポートさせていただいています。
進出前については、すでに進出済みの日系中小企業の現地での活動状況や現地情報を提供するほか、お取引先現地法人の経営者等との面談アレンジ、現地金融機関や会計・法律事務所等、各種専門家の紹介も行っています。
進出後については、成功事例の紹介やお取引先現地法人同士のマッチング支援等を通じて、経営課題の解決に向けてサポートいたします。現地ネットワーク構築のための交流会や商談会も多数開催しており、直近では今年6月にシラチャにて、主にチョンブリ・ラヨーン県内のお取引先現地法人に向けて交流会を行いました。10月にはバンコク都内でも交流会の開催を予定しています。
日タイビジネス商談会は、今でこそ数百社に参加していただける行事となりましたが、もともと2006年に第1回を開催したときは、参加社数15社とまだ小規模でした。2008年のバンコク駐在員事務所開設後、中小企業者の皆さまのニーズに応じて徐々に規模を拡大し、さらにバンコク日本人商工会議所、タイ投資委員会(BOI)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、そして多くの民間金融機関や日タイ公的機関等が共催者・協力機関・後援機関として加わったことで、JFCだけでは成しえない規模の商談会へと成長を遂げました。
2023年11月に開催した「第15回日タイビジネス商談会」では、172社(日系企業146社、タイローカル企業26社)が参加し、260件以上の商談が実現しました。参加企業や関係機関の皆さまから「毎年楽しみにしている」とおっしゃっていただける、大変やりがいのあるイベントです。参加してくださる一社一社のニーズを個別にお伺いし、主催者が丁寧にマッチングを行うことで、精度の高い商談が生まれていると自負しています。
田澤氏:JFC(中小企業事業)のお取引先数は、2024年3月末時点で日本全国、北は北海道から南は鹿児島県まで約5万8,000先あり、その海外現地法人等の数は全世界に1万151先となっています。国・地域別にみるとASEANが35%にあたる3,507先、うちタイは1,100先と、ASEANで最多です。
理由としては、まずは日系大手企業のタイ進出に伴った中小企業者の進出が多いことや駐在員にとっての生活面を含む進出のしやすさ等が挙げられるでしょう。タイでのお取引先現地法人の業種傾向では、自動車や電機・電子関連の製造業が目立つものの、それらの製造業を含むタイのマーケットをターゲットとした卸、小売、IT、建設、食品など幅広い業種が見られます。マーケットとしてのタイの魅力はもちろんのこと、JFCが日本全国に展開する組織で、各地の特色を持つ多種多様な中小企業者の皆さまを支援させていただいていることも、お取引先の業種の幅広さに影響していると考えます。
田澤氏:これまで充実を図ってきた融資制度を個別のニーズに沿ってご活用いただくことで円滑なタイ進出やその後の事業拡大に役立てていただけるほか、JFCのお客さまは日本各地いらっしゃるので、タイでも日本本社の所在地域を跨いだネットワーキングやビジネスマッチングをご支援することができます。
また、バンコク駐在員事務所はタイ、バングラデシュ、ブルネイ、インド、マレーシア、ミャンマー、シンガポールの計7ヵ国を担当しているため、社内外のネットワークを用いてタイ国外の情報も提供できる強みがあります。バンコクのほか、ホーチミンと上海に駐在員事務所があり、アジアの中でも中小企業者の進出が比較的多い国々をカバーしていますので、タイからさらなる海外展開を目指すお客さまにも、有益で生きた現地情報をお届けできます。
田澤氏:私が一回目のタイ駐在を経験した2015年~2018年頃と比べると、近年、新規の進出は落ち着いてきたと思います。コロナ禍を経て、日系企業同士の競争に加え、中国企業の台頭、ローカル企業の成長、タイの景気低迷など大きな移り変わりの中で、現在の日系企業も変化の時期を迎えています。
JFCとしては、お客さまの状況やニーズを丁寧に聞き取り、知識や経験を駆使しながら、お客さま自身もまだ気付いていない課題に着眼し、解決に向けた提案ができる「ホームドクター」のような存在を目指しています。さまざまな日本の公的支援ツールについて、まだ、ご存じでない中小企業者の皆さまもいらっしゃいますので、情報発信や個別の対話を通じて、JFCがハブとなり、中小企業者と「政策」を「繋ぐ」役割を担いたいと、強く思っています。
足元では、2023年11月にベトナムのホーチミンに事務所を開設したことで、当駐在員事務所の担当地域が12ヵ国から7ヵ国になり、タイに充てられるリソースが増え、お取引先現地法人の皆さまとより深く関わることができるようになりました。
既にお伺いしているお客さまとのリレーションを深めることに加え、まだお会いできていないお客さまや、コロナ禍の影響で長らくお会いできていないお客さま、専門家の皆さまとのネットワーク再構築も、私を含めて4名いる駐在員で一丸となって、積極的に進めていきたいと思います。そうすることで、お客さまに対する個別の課題解決支援の幅が広がるだけでなく、タイでのネットワーキングの輪も拡大させることができると考えています。
日系中小企業の成長が、ひいてはタイ社会への貢献に繋がると信じて、今後もより一層、在タイ日系中小企業の皆さまへのご支援に尽力してまいります。
THAIBIZ編集部
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