THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法
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公開日 2024.09.10
特に集中的な豪雨が頻発する雨季では、タイの冠水問題が深刻だ。溢れる雨水は市民の生活を脅かし、長引く渋滞は都市機能を麻痺させる。秩父ケミカル株式会社が開発したプラスチック製の雨水貯留構造体(PRSS)は、地下に埋設することで局所的な冠水を防ぎ、低コストかつ短工期で圧倒的な効果をみせる。同社は日本の洪水対策に貢献してきた経験をタイでも活かすべく、果敢に挑戦を積み重ねている。
秩父ケミカル株式会社
吉田 寿人 社長
秩父ケミカル株式会社 1990年設立。東京を本社とし、茨城県水戸市と大阪市に営業拠点を持つ。プラスチック製雨水貯留構造体(PRSS)の開発・製造・販売を行っており、国内での累積設置件数は10万件を超え、総貯水容量は200万立法メートルに達する。2023年度にはJAPANコンストラクション国際賞を受賞。現在、タイでの現地生産を視野に入れ、積極的に営業展開を推進中。
木下 御社の事業内容とタイでの取り組みについて教えていただけますか。
吉田 当社は25年以上にわたり、雨水貯留浸透施設や雨水利用施設の開発・施工・販売を行っています。台風や集中豪雨が頻発する日本では、河川の氾濫や冠水被害から市民の身を守るため、各自治体で雨水の一部を貯留する対策を促す行政指導が存在します。当社のPRSSは、この行政指導により一気に国内に普及しました。
PRSSの国内総貯水容量は現在90万立法メートルにのぼりますが、設置件数は8年ほど前から、年間5万件をピークに高止まりしている状況です。そこで海外に目を向け、インドネシアにて当社製品「ニュープラくん」を試験的に設置しました。目に見える効果は出たものの、政府の雨水対策への予算確保が困難で実用化には至らず、次に着目したのがタイでした。
2017年にJICA事業に採択され、まずはニーズや経済状況について調査を実施し、ある程度インフラ整備が進んでいるタイには市場があると判断し、実証事業としてタイ工業団地の敷地内に「ニュープラくん」を設置しました。その後、コロナ禍を挟み思うように前進できない時期もありましたが、確かな効果が認められ、2021年、バンコク都の予算にてバンコク都内の公園への設置に漕ぎ着けました。現在は、本格的な実用化に向け踏み出す段階に来ています。
木下 我々もバンコクでの生活で直面する冠水被害が深刻だと感じていますが、御社の「ニュープラくん」でこの問題を解決できると大変助かります。この製品の特徴についても詳しく教えてください。
吉田 この製品は、プラスチック製のブロックを組み合わせて地下に埋設することで、貯水タンクの体積に対し95%の水を貯留できるものです。雨水を貯めて排水や雨水利用に活用できる「貯留型」と、徐々に地中へ浸透させる「浸透型」の2種類があり、地盤の状況などで使い分けます。低コストかつ短工期で設置できる特徴があり、タイで主流のコンクリート製は、5,000立方メートル程度の規模では設置に通常1〜2ヶ月半程の工期が必要ですが、プラスチック製の「ニュープラくん」は2週間で設置できます。
また、製品自体が軽量で、運搬や組み立てにおける作業員の負担を軽減できるメリットもあります。一方で、耐久性はコンクリート製と同程度。日本では新規に設置される貯留槽の90%以上がプラスチック製であることからも、その優位性が証明されています。製品の機能を発揮するためには施工も非常に重要なので、その部分についても当社で支援をしています。
木下 タイで冠水が多い理由と、それがもたらす影響についてはどのようにお考えですか。
吉田 ポンプの能力不足による排水不良と、気候変動などの影響もあり集中豪雨が多いことが原因だと思います。豪雨によりチャオプラヤー川の水位が上がってしまうと、勾配がないバンコクではポンプを稼働させたとしても水の行き場がなくなってしまい、溢れてしまいます。バンコク都による調査では、都内の冠水をゼロにするためには、300万トン分の貯水槽が必要との算出結果が出ています。予算の関係もあり、一度にそれを達成することは困難ですが、日本のように行政指導がなされれば普及率は上がっていくのではないかと考えます。
冠水被害は、経済的な損失と環境への悪影響をもたらします。2011年のアユタヤ大洪水は、日本企業を含む多くの企業の活動に甚大な損失をもたらしました。冠水による交通渋滞は都市機能を麻痺させるほか、渋滞が長引けば、その分CO2排出量も増え、環境負荷も大きくなります。観光業にも影響があるでしょう。何よりタイに住む人々の生活を向上させるためにも、対策は急務です。
木下 タイで事業を行う上で大切にしていることや、JICA事業の活用についての利点を教えていただけますか。
吉田 タイの人たちと一緒にプロジェクトを進めていく上では、タイ側の困りごとに丁寧に対応していくこと、そして共通の目標に向かって同じ想いで日々の作業に取り組むことが大切だと実感しています。
調査や実証をサポートしていただけるJICA事業には、とても感謝しています。事前調査はもちろんのこと、実際に現地で製品の有効性を見せ、効果測定もできる実証事業は非常に重要なステップです。これらの土台があってこそ、実用化に向けた次の段階に進むことができます。また、公的要素の強い貯水槽設置の取り組みにおいては、JICAを介して政府系機関とスムーズなやりとりが叶うことも心強く感じます。
今後は「ニュープラくん」のタイ国内での普及に加え、現地生産も目標としています。アジアの冠水対策に一石を投じ、安心して人々が暮らせる環境作りに貢献したいと考えています。
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JICAタイ事務所
Representative
木下 真人 氏
タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]
JICAタイ事務所
31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250
Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html
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